ひかりのなかに - それでも自分に必要なのは音楽だと自覚し、新宿ロフトで主催イベントを行なうまでの紆余曲折を赤裸々に語る

音楽はひとりぼっちのときに聴くのが1番って思ってます ひとりぼっちの時聞いた音楽たちが 寄り添ってくれたり怒りや悲しみをエネルギーに変換してくれたりしながら なんとか地に足をつけて立っていられる そんな、音楽を好きな気持ち、音楽を聴いた時にしか味わえない優しくてあたたかい、時には涙が出るくらい心の真ん中が震えるような感覚、そのすべてを交換できる場があったらいいのに、と思い、来たる2023年9月3日に開催をすることが決まりました。 是非楽しみにしていてください。 ──ヤマシタカホ(ひかりのなかに)

音楽に戻らないと気が済まないぐらい方向が向いた瞬間があった

──ごぶさたしている間、本当にいろんなことがあっただろうと察しておりました。

ヤマシタ:本当に、どうしたら良いか分からない時期がずっと続いてしまって。自分で言うのも何ですけど、苦労したなぁ…という感覚を、とってもしています。

──それはまず、一人で「ひかりのなかに」を続けると決めたところから始まりますよね。

ヤマシタ:そうですね。それも“自分一人でやりたい”と言ってそうなったわけではなくて、(メンバーが辞めて)一人になってしまうから、これからどうしたら良いんだろうっていう。人生で初めて組んだバンドが「ひかりのなかに」で、それを続けたかったし、自分がどうするか(と考える)よりも先に、手助けをしてくれていた方々の言葉とかを“これが正しいんだろうな”と頼りに信じるしかなかった場面もけっこうあって。正しいのかどうかも分からないけど進んでいた、みたいなところも(一人になって)最初の頃はあったのかなと思ってます。

── 一人で進まなくちゃと思ったら、今度はコロナ禍が襲ってきましたものね。

ヤマシタ:その当時はまだ自分に事務所がついていたので、たとえば配信リリースとか配信ライブをやるとか、本来なら自分一人でできない機会をいくつかでもいただけていたのが随分と助けになっていました。もし何もできていなかったら、もう音楽はやっていられないと思ったと思うので。自分の音楽を発信する場をいただけて有り難かった反面、家にいることが多くて塞ぎ込むことが多かったし、もともとあんまり根が明るいほうではないので、楽観的に考えることも全然できなくて。バランスを取ることが苦しかったなという記憶です。

──いろいろと大変だった時期を経て、“もう一度音楽を鳴らせること(中略)に 喜びと、期待をふくらませています”と今春、「ひかりのなかに」活動再開を発表しましたよね。ヤマシタさんにとって音楽とは何でしょうか。

ヤマシタ:休止期間としては約2年になるんですけど、その間も音楽を嫌いになったわけではなかったし、曲を書いたりしていたタイミングもあって、自分にとってはそれぐらいの存在で良いのかもしれないって思っていたところもあったんです。たまに自分が書きたいタイミングで曲を作って、それがちょっと楽しくてある意味、趣味のようになっていれば良いのかなぁって。そう思っていたんですけど、自分が休止している間に自分より年下や同世代のバンドが少しずつ夢を掴んでいく姿を見て、“自分があのとき、音楽をやめずに続けていたらどんなことが待っていたんだろう”っていう想像をするたびに、悔しいな…と思ってしまって。何度か悔しいって思っているうちに…うまく表現するのが難しいんですけど、“やっぱり自分は音楽をやりたいんだろうな”って認めるタイミングがあって。それからは音楽のことしか考えられなくなって、当時、会社にも勤めてたんですけど仕事も手につかなくなるぐらい、自分が今すぐにでも音楽に戻らないと気が済まないぐらいに方向が向いた瞬間があったんです。自分がやらなくちゃいけないこと、自分が生きるということは、音楽なんだろうな、と。思いきって会社にも辞めますと伝えて、(活動再開への)準備を進めてきたという感じです。“音楽に引き戻された”という感覚で、自分が背負わなくてはいけないものだって思った…音楽は、そういう存在です。

──“音楽に戻らないと気が済まないぐらい方向が向いた”のはいつ頃でしょう?

ヤマシタ:はっきり覚えてます、去年の8月2日です。その日、朝に近いぐらいまで仕事をしていてしんどくなりすぎて歩けなくなったんです。家の近くで座り込んじゃって、そのときに“音楽をやりたい”ってとてつもなく思って歌詞を書いたんです。それまでも自分が迷っているときは歌詞を書いてきたので。次の日に会社を休んで曲を作って完成させた「pray」という曲なんですけど、その曲ができたこととその曲に自信も持てたから、もう一度音楽をやろうって思ったんです。今のバンドでライブでも演っていて、最近の私の中でとても大事な曲ですね。

──ドラマチックですね。それがターニングポイントで、活動再開への準備を進めてこられて。

ヤマシタ:はい、やっぱり一人では演奏面でも何もできないので、メンバーとか一緒に手伝ってくれる人を探す期間に充てました。それまで私は人に恵まれていたので、いろんな人があれこれやってくれていたことをこれからは全部一人でやらなくちゃいけないという難しさを感じていたし、まず“もう一度始めたいけどどうしたら良いかな”って口に出せるまでにずいぶん時間がかかってしまって。(去年の)10月とか11月ぐらいにそれを伝える決心が固まってきて、友達でギターをやってる子に言ったらそれが今のサポートメンバーのお2人と繋がるお話になっていって。昨年末ぐらいにようやく、活動再開できるなという状況になった感じでした。

──溢れる思いはあっても、まず伝えなくちゃいけないということへの葛藤が伝わってグッときます。そもそも「ひかりのなかに」としてやっていくと決めたのは?

ヤマシタ:私が一番怖いと思っていることが、忘れられることなんです。自信がないから、自分が思うより自分のことを知っている人っていないと思ってるし、何より私が「ひかりのなかに」っていうバンドがとっても好きだった。バンド名を変えたほうが良いんじゃないかな、とか実際に考えたりもしたんです。けど、「ひかりのなかに」のたった数年、その期間だけで潰せるほど簡単なバンドじゃないと思っていたし、「ひかりのなかに」というバンド名を聞いて“あれ、この名前聞いたことあるな?”って思ってもう一度、自分の音楽を聴いてくれる方もいるんじゃないかなとかも考えて。「ひかりのなかに」としてやっていこう、って決めました。

──“サポートメンバーをお迎えして活動をする”と明言されているのであれば、ソロ名義にするのも一案かと思ったりもしたのですが?

ヤマシタ:私の好きな銀杏BOYZも“一人しかいないけど銀杏BOYZです”みたいな(笑)、じゃあ一人で「ひかりのなかに」で良いじゃん! って思いました。

やっぱり私は、自分の音楽を聴いてもらいたい

──では、活動再開して今年5月に行なったライブを振り返ってみましょうか。

ヤマシタ:自分が思っていた以上に待ってくれている人がいたという実感が…(チケット先行予約の)応募の時点で予定枚数以上の応募数が来ていたし、行きたくても行けなかったっていう方も何人もいたし。満員が約束された状態でライブができるという状況に皆さんに持っていってもらえたことはとっても自信に繋がって、本当にありがたいなと思いました。

──ステージに立ってみていかがでしたか?

ヤマシタ:まず最初に、舞台に立てるって本当に嬉しい! と思いました。舞台に立ったら目の前から後ろまで顔がいっぱい見える混み具合で、こんなにたくさんの方が自分の音楽を待っててくれたんだ、ということへの感動がすごくて…“お客さんは今、何を考えながらライブを見ているのかな?”って考えて臆病になりながら舞台に立つことが今までとても多かったんですけど、これまでバンドをやってきた中で上位に入るぐらい自信を持って“自分の音楽を聴きに来てくれてありがとう!”って言える、自分でも前を向くことができた良い公演だったと思ってます。

──そもそもステージに立つこと自体、勇気が要ることでしたでしょう。

ヤマシタ:もはや(ライブが)どういう感じだったとかどういうふうに人が見えていたとかもすっかり忘れちゃってて、想像もできないぐらいでした(笑)。でも実際に立ってみたら何年経っても自転車に乗れるような感じで(笑)、身体が思い出すことってできるんですよね。ライブ最後のMCで“同世代のバンドの音を聴いて悔しかった”って、今まで隠していたちょっとダサいぐらいの本音を、待っててくれた方々に言えたことに(自分の)変化も感じました。前はもうちょっとオブラートに包んだり遠回しな言い方をしてたけど、心の中の恥ずかしい部分をそのままちゃんと言えたのも大きかったなと思ってます。

──9月3日(日)には主催イベントを開催しますね。こうしたイベントをやろうと思われたのは?

ヤマシタ:夢の一つだったんです。いろんなバンドを呼んで、新宿ロフトのホールとバーを往来して自分のイベントを作るということが。ずーっと、いいなぁって思ってて(笑)、でも今まではいろんな人にいろんなことを言われたりするのも嫌だし、そもそも“やりたい”って言えなかったりんです。けど、自分一人で活動を再開してからは、自分がやりたいと思ったことをちゃんとやりたいって言おう、って思うようになって。そんなタイミングでちょうどライブのブッキングでロフトからご連絡をいただいたときに“実はイベントをやってみたいんです”って勇気を出して言ってみたら、“ぜひやりましょう!”って言ってくださって。本当に嬉しくてこの日に向けての準備もすごく楽しいですし、今はもう楽しみでしかないです。たくさんの方に来て欲しいけど、まずはこういう公演を“やりたい”って言えたこと、“やりたい”と言ったことに対して出演してくれるバンドのみんなやたくさんの人が助けてくれたことが、今の自分にとっては大事で嬉しいことですね。

──“すてきなひとりぼっち”とタイトルにつけたこの日のイベントも楽しみですし、これからの活動を心から楽しみにしていますね。

ヤマシタ:ありがとうございます。やっぱり私は、自分の音楽を聴いてもらいたい…って思っているんですけど、でもライブに来ることへのハードルが高いっていうのもまだあると思うんです。(活動休止前も)“音源は聴くけど”みたいな人がたくさんいたことも肌で感じていたから、配信でリリースを続けていくことも準備をしていて、その先にはちゃんと手に取ることができる形で作品を出すことも考えています。その上で、その音源を聴いてもらえるためにまたイベントをやろうかとか…サポートメンバーに申し訳ないなと思いながらも、“こういうふうにやりたい”って言ったことに対して“本当にやりたいんだったら一緒にやろうよ”って言ってくれる人ばかりなので、今後のいろいろなことに関して少しずつ準備が進んでいる感じです。基本的には一人で(ライブ等の)出演依頼のメールの返信からグッズの発注まで全部やってるんですけど、それは会社勤めをしていたときのことが役立っているなぁって、良い選択をしたなと思ったりしてます(笑)。

──前向きなお話を嬉しく聞かせていただきました。最後に「ひかりのなかに」としてこれから掴みたい夢って何でしょうか?

ヤマシタ:自分の今の状況ではまだたくさんの人を巻き込めていないから、活動休止する前の最後にワンマンライブをした渋谷クアトロは今、私一人でお客さんを埋めることはできない。当時、コロナ禍だったとしてもきちんと成功できたっていうのがあるし、クアトロと同じぐらいの大きさの場所でも“「ひかりのなかに」を見たいよ”って足を運んでくれる人たちをまずは一人ずつ、一人ずつ、お客さん・リスナーを掴んでいって地道にがんばるということだけです。実は今もまだ(活動を)止めなければ良かったと思ってしまうときが正直、あって。活動休止しないで音楽を続けていれば良かったと思わなくなるようになるのが、今の目標ですね。

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