社説:薬の過剰摂取 若者の乱用防ぐ方策を

 せき止めやかぜ薬など「市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)」が若い世代で広がり、懸念されている。

 厚生労働省の研究班の調査によると、2021年5月~22年12月に全国7救急医療機関に救急搬送された急性中毒患者は122人で、平均年齢は25.8歳、女性が97人と約8割を占めた。

 いずれも、吐き気や意識障害、錯乱などの症状で搬送された。

 市販薬であっても、用量を大幅に超えて服用すれば、幻覚や意識の混濁、けいれんなどの健康被害を引き起こし、臓器不全で命を落とす危険さえある。薬によっては依存性も強く、安易な摂取は禁物だ。

 若者の乱用を防ぐため、学校や医療機関、福祉関係者が協力して対策を強化する必要がある。

 国立精神・神経医療研究センターが21年度、全国の高校生約4万4千人に実施したアンケートでは、「過去1年間に市販薬の乱用経験がある」と答えたのは1.57%だった。約60人に1人に相当する。決して少ない割合とはいえないだろう。

 21年12月には、京都市伏見区の女子高校生が、交流サイト(SNS)で知り合った守山市内の男のアパートで、薬物中毒となり、死亡する事件も起きた。

 拡大の背景には、ドラッグストアやインターネットでの入手のしやすさがあるとみられる。

 厚労省は、市販薬に使用される成分のうち一部を「乱用等のおそれのある医薬品」に指定しており、今年4月に指定成分の対象範囲を拡大した。販売者には若者が購入する場合には年齢確認を徹底することなどを呼びかけている。

 ただ、SNSで情報交換したり、個人間で薬を受け渡ししたりするケースもあり、規制が難しいのが実情だ。

 薬剤師は、購入者の状況や服薬指導に注意を払ってほしい。学校や地域で過剰摂取の恐ろしさを繰り返し呼びかけることも重要だ。

 過剰摂取する若者には、学校や職場での人間関係や家族など悩みを抱えている場合が多いとされる。現実逃避や精神的苦痛の緩和のために、手を出してしまうという。

 夏休み明けは登校するのがつらいと感じる子どもが増えやすい。若者たちが薬に頼らずに済むよう、気軽に相談できる場を広げ、生きづらさに寄り添ったサポートができるよう体制を整えたい。

 行政は、民間の自助グループなどへの支援も充実してほしい。

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