社説:ガソリン補助 弊害が大きい場当たり

 暮らしの圧迫に苦しむ人々への支えは必要だが、効果や出口も不透明なまま、巨費をつぎ込み続けるのは場当たりが過ぎないか。

 岸田文雄首相は、高騰するガソリン価格を抑えるための補助を、期限としていた9月末から年末まで延長し、拡充すると表明した。

 今週初めのガソリン価格が、レギュラー1リットル当たりの全国平均で185円60銭と15週連続で上昇し、2008年の過去最高値を更新したのを受けた対策だ。京都府の平均187円20銭、滋賀県の同184円80銭とも最高値で、1年前より16円以上も上がっている。

 補助は昨年1月に始まり、4回の延長後、段階的に縮小していた。産油国の減産や円安とも相まった価格の再上昇から廃止予定を一転、来月7日から順次拡充し、10月中に「175円程度の水準」への値下げにつなげるという。

 地方をはじめ、生活や仕事で車に頼る人々や企業にとって、負担軽減は一定の助けとなるだろう。

 ただ、政府はこれまで補助に6兆2千億円を計上している。原油高と補助の収束を見通す出口戦略を示さないのでは、際限なく公費投入がかさみ、国民負担に跳ね返る懸念が膨らむ。

 食料品など幅広い必需品が値上がりする中、エネルギーに偏重した補助は、車を持たない人らと公平性を欠くとの指摘も根強い。

 それでも補助を拡充したのは、低迷する内閣支持率を浮揚させたい政権の思惑が透ける。岸田氏の指示から1週間で与党が取りまとめ、激変緩和にとどまらず「負担軽減を実感できるように」と値下げに踏み込んだ演出が物語っていよう。

 こうした補助は、市場の機能をゆがめる弊害を伴う。価格が上がれば消費が節約され、値下げの作用が働くはずが、補助で需要が温存され、脱炭素の流れに逆行するのも否めない。

 岸田氏は、燃油に加え、電気・都市ガス代を抑える補助も9月末の期限を当面延長する考えを示した。財源として物価対策費の残りと予備費も念頭に、政府の判断だけで実施する構えだ。しかし、これまでの効果の検証と対策の手法、規模、副作用について国会で十分に議論すべきだろう。

 公費で丸ごと価格調整するより、痛みの大きい低所得層や中小事業者に絞った負担軽減や給付金などの重点支援が有効ではないか。化石燃料への依存度低減や円安是正、継続的な賃上げなど、構造的な改革も欠かせない。

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