海王星の雲は太陽活動周期と連動して増減か ハッブル宇宙望遠鏡などの観測で明らかに

ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)の大学院生Erandi Chavezさん(研究当時はカリフォルニア大学バークレー校天文学科の学部生)を筆頭とする研究チームは、海王星の雲が太陽活動の周期と連動して増減している可能性を示した研究成果を発表しました。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した海王星。2021年9月7日撮影(Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team)】

太陽系に8つある惑星の中でも、海王星は太陽から最も遠く離れた軌道を公転しています(太陽からの距離は平均約30天文単位、太陽から地球までの距離の約30倍)。海王星を訪れたことがある探査機は今から34年前の1989年8月にフライバイ探査を行ったアメリカ航空宇宙局(NASA)の惑星探査機「ボイジャー2号」が唯一で、現在は「ハッブル宇宙望遠鏡」や「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」といった宇宙望遠鏡や、地上の望遠鏡による観測が行われています。

今回、Chavezさんたちはボイジャー2号の訪問後にこれらの望遠鏡で取得された海王星の観測データを分析して、海王星の雲が時間の経過とともにどのように変化しているのかを分析しました。研究に用いられたのはハッブル宇宙望遠鏡で1994年から続けられている観測のデータをはじめ、ハワイのW. M. ケック天文台で2002年~2022年にかけて、カリフォルニアのリック天文台で2018年~2019年にかけてそれぞれ取得されたデータです。

【▲ 2002年8月~2023年6月にかけてケックII望遠鏡(W. M. ケック天文台)の近赤外線カメラ(NIRC2)で観測された海王星。2019年以降、南極付近を除いて雲がほとんどなくなっている様子が捉えられている(Credit: Imke de Pater, Erandi Chavez, Erin Redwing (UC Berkeley)/W. M. Keck Observatory)】

分析の結果、研究チームは11年周期で変化する太陽の活動と海王星の雲量との間に相関関係があることを発見しました。海王星の雲は太陽の活動が活発化すると増え、静穏化すれば減るというのです。同時に、海王星の雲量は海王星の明るさと相関関係にあることもわかったといいます。海王星の高層大気に現れる雲は白く、太陽光をよく反射するので、結果的に海王星の明るさも太陽活動と連動して変化するとみられています。

分析された29年分のデータは太陽活動の2.5周期分をカバーしていました。研究チームによると、この期間中の海王星は2002年に明るく、2007年に暗くなり、2015年には再び明るくなりました。2020年には雲のほとんどが消滅し、観測史上最低レベルまで暗くなったといいます。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した海王星(上)と太陽の紫外線レベル(下)を比較した図。太陽の活動周期と海王星の雲量の間にある相関関係が示されている(Credit: NASA, ESA, LASP, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley))】

海王星で雲が豊富になるタイミングは太陽活動の極大期から約2年遅れていました。このタイムラグは雲を生み出す光化学反応と関係があると考えられています。海王星の高層大気の高いところでは太陽の紫外線によって光化学反応が引き起こされるとみられていますが、この反応によって雲が形成されるまでには時間がかかるからです。

ただし、今回報告された相関関係を解明するにはさらなる調査が必要だと研究チームは言及しています。たとえば、紫外線の増加にともなって雲やヘイズ(もや)の量がより多くなるとしても、増加した紫外線には雲やヘイズを暗くさせる効果もあるため、海王星の全体的な明るさは低下する可能性があるといいます。また、海王星の大気の深部から上昇してくる嵐も雲量に影響を及ぼすものの、光化学反応で形成される雲とは関連性がないため、太陽の活動周期との相関関係を研究する上で状況が複雑になる可能性もあるようです。それに、2020年頃からの雲がほとんどない状況がいつまで継続するのかを確かめることも必要です。

【▲ 2023年7月11日にケック天文台で観測された海王星(左:1.6μm、右:2.1μm)。北半球に雲が現れており、南半球の中緯度でも現れ始めていることがわかる(Credit: Imke de Pater and Edward Molter (UC Berkeley) and the Keck Observatory)】

そのため、研究チームは引き続き海王星の観測を行っています。研究に参加しているカリフォルニア大学バークレー校のImke de Pater名誉教授によれば、2023年7月にW. M. ケック天文台で取得された最新の画像では海王星の北半球に雲が再び現れていて、南半球の中緯度にも現れ始めているといいます。最近の太陽活動は2019年12月に極小となった後、現在は第25周期の活動が活発化しています。

これまでに約5500個が見つかっている太陽系外惑星のなかには、海王星に性質が似ていると考えられている惑星も数多く存在しています。宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡による海王星の観測と活動的な外観の変化に関する研究は、海王星だけでなく系外惑星の理解を深めることにもつながるかもしれないと期待されています。研究チームの成果をまとめた論文はIcarusに掲載されています。

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team; Imke de Pater, Erandi Chavez, Erin Redwing (UC Berkeley), W. M. Keck Observatory; NASA, ESA, LASP, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley); Imke de Pater and Edward Molter (UC Berkeley) and the Keck Observatory
  • STScI \- Neptune's Disappearing Clouds Linked to the Solar Cycle
  • W. M. Keck Observatory \- Clouds On Neptune Perform a Surprise Disappearing Act
  • Imke de Pater \- Infrared Observations of Neptune
  • Chavez et al. \- Evolution of Neptune at near-infrared wavelengths from 1994 through 2022 (Icarus)

文/sorae編集部

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