観光列車から商店街ホテルまで あぶ急を舞台に12回目の地鉄交流会 中高生が利用促進のアイディアで競演【コラム】

新鋭・AB900系電車。ABは社名のあぶ急から。写真はポケットモンスターの宮城・福島応援キャラのラッピング車「ラプラス&ラッキートレイン」です (c)pokemon

12回目の「全国高校生地方鉄道交流会(地鉄交流会)in伊達市」が、2022年8月18~20日に第三セクターの阿武隈急行(あぶ急)が走る福島県伊達市で開かれ、参加10校が利用促進や沿線街づくりのアイディアを競いました。今年のテーマは、「阿武隈急行を利用した、地元商店街活性化とは」。

福島、宮城両県をまたぐあぶ急は、一部列車がJR東北線に乗り入れて福島、仙台の県都を結びますが、知名度不足や沿線人口減少で利用は伸び悩みます。参加校からはユニークなアイディアが飛び出し、最優秀賞のあぶ急社長賞は、空き店舗を宿泊施設に再生する「商店街ホテル」などを発想した、東京の成城中学・高校鉄道研究会に贈られました。

〝鉄研の甲子園〟、10余年の歴史重ねる

参加全校による集合写真。高校野球のような〝甲子園の土〟はありませんが、全員が思い出と友情を持ち帰りました

2023年夏の甲子園(全国高校野球選手権大鉄会)、神奈川県代表の慶応高校が107年ぶりに全国優勝というドラマチックな結末で幕を閉じました。スポーツと鉄道、ジャンルは違っても、地鉄交流会の開催目的は甲子園に共通します。

夏休み、全国の地方鉄道に乗り鉄・撮り鉄する中高生は少なくありませんが、通常は仲間内で記録を見せ合うだけで完結。鉄道研究会(鉄研)には、甲子園や合唱の全国コンクールのような発表の場がありません。

そんな現状に風穴を開けようと、交流会を発想したのが鉄研の活動が盛んな一部校。2012年に初の交流会を秋田県の秋田内陸縦貫鉄道で開催した後、全国の地方鉄道やJR・私鉄ローカル線を巡回する形で回を重ねます。

かつては日本有数の赤字ローカル線

2023年の開催鉄道はあぶ急。路線は福島ー槻木(つきのき)間54.9キロで、三セク鉄道の分類では、(旧国鉄特定地方交通線の)転換線、そして建設線の性格も持ちます。

国鉄時代の路線名は丸森線。1962年に宮城側から着工され、1968年に槻木ー丸森間が開業したものの、国鉄の経営悪化で工事はストップ。1986年に福島、宮城の両県や福島交通などが出資するあぶ急に引き継がれ、1988年に福島ー槻木間の全線が開業。同時に全線交流電化されました。

新型車両への置き換えが進む

3日間の交流会、初日は車両基地がある梁川駅に集合。運転台見学や車掌体験といったプログラムが用意されました。

2日目は沿線を自由散策・研究。最終日は伊達市の保原市民センターホールでのプレゼン(発表会)で成果披露しました。

あぶ急の主力車両は電化開業時に導入した8100形電車でしたが、2019年から新製のAB900系電車への置き換えが進みます。ダイヤは一部列車が槻木からJR東北線に直通運転し、JR仙台駅に乗り入れます。

あぶ急を30年間以上にわたって走り続ける8100形電車。JR九州の713系電車をベースにしたワンマン運転仕様車です

商店街ホテルや周遊パスで沿線に活気

コロナ禍をきっかけに始まったリモート参加。2023年も東京や四国の高校がオンライン発表しました

参加10校(一部校はリモート参加)のうち、あぶ急社長賞を受賞したのは成城中高。①「伊達ももの里マラソン」の開催時期変更、②商店街ホテル、③あぶ急飯坂線周遊パスの発売、④ビニールハウス発電――の4項目のアイディアを発表しました。

マラソンは、モモの収穫期に合わせて毎年9月に開かれますが、これをマラソンに適した気候の3月に移して、参加者を増やします。商店街ホテルは空き店舗の利活用促進で、1階がフロント、2階が客室。歴史、景観、食といった伊達の観光を情報発信すれば〝インバウンド人気観光地〟になれる可能性も。

鉄道の利用促進につながるのが、あぶ急と福島交通飯坂線共通のフリーきっぷ。両線は福島を起点に北方へ線路を延ばしており、二次交通を整備すれば福島県北の観光ルートが誕生するかもしれません。ビニールハウス発電は、新しい再生エネルギーに期待。ハウス上のソーラーパネルで発電します。

成城中高は、鉄道に直接関係するアイディアは少なかったのですが、沿線振興で鉄道利用客を増やすという2段構えの活性化策が評価されました。

あぶ急社長賞の副賞は、列車ヘッドマークのデザイン権。東北鉄道紀行を計画中の方は、情報をチェックしましょう。

2023年6月の定時株主総会と取締役会で就任した、宮城県庁出身の冨田政則あぶ急代表取締役社長(左端)から賞状を受ける成城中高生

片道利用OKの全線フリーきっぷなど

次点の伊達市長賞を受賞したのは、東京の芝学園中学・高校交通研究部。①新しい観光列車、②企画きっぷ改善、③車内での移動販売――の3点を提案しました。

企画きっぷは、福島―槻木間全線有効で途中下車OK。片道利用可能で、行きはあぶ急、帰りは東北新幹線やJR東北線といった柔軟な行程が組めます。新しい観光列車は、世代交代で引退が進む8100形電車を改造します。

地鉄交流会代表理事賞は、開催県・福島県いわき市の福島工業高専鉄道愛好会が受賞。あぶ急のほか、地域のバスやタクシー、そして沿線商店街でも使える汎用型回数券を発想。鉄道ばかりでなく地域通貨のように使えることで、幅広い利用が期待できます。

人気鉄道系YouTuberがゲスト出演

参加中高生に語り掛けるYouTuber西園寺さん。トークは最初の10分ほどで、ほとんどを質問の回答タイムに充てました

全校の発表終了後には、鉄道系YouTuber西園寺さんがゲスト出演。「〝本気〟で移動すれば1日で『5大ドームツアー』できる??」、「100万円で日本一周の旅」といった、ユニーク動画を生み出す西園寺さんは現役大学生です。

YouTuberは人気職業の一つ。参加校の生徒からは、「動画のテーマはどうやって考えるのか」(列車移動中に思い付いたアイディアを忘れないうちにメモします)、「一番気に入った列車は」(近鉄の観光特急「しまかぜ」だそうです)といった質問が多数寄せられました。

交流会ラストは、三重県の地方鉄道・伊賀鉄道の増田政俊代表取締役常務がリモート出演。2024年の交流会が、伊賀線で開かれることが発表されました。

記事:上里夏生
写真提供:全国高校生地方鉄道交流会

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