《関東大震災100年》混乱の首都、克明に 検証映画公開 茨城県内避難の親族証言

岩岡巽さんが撮影した避難者たち(「キャメラを持った男たち」から)

100年前の9月1日に発生した関東大震災直後、大混乱の首都で逃げ惑う人々の姿を克明に捉えたドキュメンタリー映画が公開されている。作品には茨城県内で発見された貴重な撮影フィルムが使用されたほか、被災者親族の同県水戸市、川畑省子さん(79)の証言も盛り込まれた。監督を務めた井上実さん(57)は「震災がもたらした影響に目を配り、学びの機会になれば」と話している。

映画は「キャメラを持った男たち-関東大震災を撮る-」(81分)。約10万5千人が亡くなった関東大震災直後の映像から、カメラを回した人たちや関係者の姿に迫った。

主に使用したのは▽報道撮影に携わった岩岡商会の岩岡巽さん▽映画撮影で活躍した日活向島撮影所の高坂利光さん▽数々の記録映画を撮影した東京シネマ商会の白井茂さん-の3人が撮影した映像。

企画制作の「記録映画保存センター」(東京)によると、映画で使用されたフィルムのうち、白井さんの記録フィルムは同県土浦市の神龍寺が保管していた。高坂さん撮影のフィルムは、同県つくば市の元映画館で見つかったという。

白井さんが撮影した映像に残り、作中でも登場するのが、駅の壁に書かれた女性の名前、住所と「水戸へ行く」という文字だ。女性の名は川畑キクさん(故人)。震災で家屋を失って郷里の水戸市へ避難する前に、伝言板代わりに壁に書いたとみられる。

現在も同市で暮らす川畑さんの孫の省子さんは1日、キクさんについて「初孫の私をかわいがってくれたと母から聞いている」と語り、形見の湯飲みは「割れたら大変」と大切に保管しているという。

母親から聞かされたという川畑さんの思い出について「私には甘いおばあちゃんだったみたい」と省子さん。駅の壁に走り書きしたような伝言の映像については「大変驚いたが、おばあちゃんのことが分かってうれしかった」とかみしめるように話した。

作品は、3人のカメラマンが捉えた大震災直後の人々の騒ぎ、迫り来る火災、壊滅した景観の映像記録が数多く盛り込まれた。炎に包まれて約3万8千人が命を落とした現場に臨んだ白井さんが、後に回想で「記録のために撮らないと駄目だ」と語った肉声のほか、岩岡さんが民衆から「こんな時に何で撮っているんだ」などと罵声を浴びせられたとされる場面も、そのまま残した。

制作の狙いについて、井上さんは「残っている映像から検証映画を作ることに意義があると思った」と話した。

作品は現在、東京や大阪などで公開中。茨城県内では9月30日から10月6日、那珂市瓜連の「あまや座」で公開される。

川畑キクさんが残した伝言の映像を見る孫の省子さん(左)(「キャメラを持った男たち」から)

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