社説:「特別警報」10年 避難行動につながる発信を

 防災情報の意味を住民が正しく理解し、避難行動につながるような発信が求められる。

 重大な災害の危険性を伝える「特別警報」の運用開始から10年がたった。

 気象庁はこれまで、2018年の西日本豪雨など気象分野で25回、35都道府県に発表した。「数十年に1度レベルの自然現象」を基準に発表するとされたが、異常気象の頻発により、第1号だった京都府や滋賀県から毎年、発令されている。

 すでに名称は浸透したと言えよう。気象庁が実施した昨年のアンケートでは、大雨特別警報について、ほとんどの人が見聞きしたことがあるとし、うち「表現や意味まで詳細に理解している」「避難の必要性を訴える情報と理解している」と答えた人は合わせて9割近かった。

 特別警報は11年の紀伊半島豪雨などで、警報では危機感を感じての避難に結び付かなかったことから運用が始まった。

 発令の精度は向上が進み、局地的豪雨でも発表しやすくなるよう判断基準を見直した。対象も都道府県から市町村単位に絞り込めるようになっている。

 一方、さまざまな災害リスクの情報が出される中、適切に住民の避難行動につなげる課題は道半ばだ。

 特別警報は、すでに土砂崩れや浸水などの災害が発生している可能性が高い状況下で発表される。5段階の警戒レベルのうち、「5」にあたる。住民は災害の恐れが高い「レベル4」までに避難する必要がある。

 レベル4に該当する防災気象情報は気象庁が出す「土砂災害警戒情報」や「氾濫(はんらん)危険情報」などで、自治体からは「避難指示」が発令される。

 だが防災気象情報と避難情報の関係性が、住民に十分に理解されているとは言い難い。

 先のアンケートでも、「情報の種類が多すぎて分かりにくい」、「どれが避難を判断するのに参考となる情報なのかが分かりにくい」と答えた人が、それぞれほぼ半数にのぼった。

 国も情報の伝え方を見直してはいる。20年には危険が去ったと勘違いされないよう特別警報を警報にする際、「解除」から「切り替え」という表現に改めた。避難勧告を廃止し、避難指示に一本化した。

 ただ21年からは局地的な豪雨をもたらす「線状降水帯」の発生を伝える気象情報の運用も加わった。一層の統合や整理で、住民に分かりやすくする工夫が欠かせない。

 今年の盆に関西地方を縦断した台風7号では、特別警報の出ていない京都府北部にも記録的大雨による被害が生じた。

 専門家からは「特別警報でないから大丈夫」という受け止め方が顕在化してるとの指摘もある。楽観に流れず、最悪の事態を想定して構える姿勢が私たちにも問われている。

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