<レスリング>【2023年全日本学生選手権・特集】女子MVP獲得にも喜びはなし、見据えるのは「オリンピック」…女子62kg級・稲垣柚香(至学館大)

 

(文=布施鋼治)

 2023年全日本学生選手権第3日。女子の部では62㎏級を制した稲垣柚香(至学館大)が最優秀選手賞を受賞した。大会3連覇を達成するとともに、1回戦から決勝までの3試合を、いずれも第1ピリオドでのフォールかテクニカルフォールで仕留めるという圧倒的な強さを見せつけたことが、受賞の決め手となった。

▲3試合に圧勝、女子MVPに輝いた稲垣柚香(至学館大)

 「いつも自分は同じパターンで闘ってしまうので、今大会は練習しているものをすべて出そう、ということを意識していました」

 決勝は、8月中旬のU20世界選手権で3位に入賞した佐々木すず(中大1年)を迎え撃った。結果は、相手のひじのさばき方など細かいテクニックで圧倒。2ヶ月前の全日本選抜選手権同様、10-0のスコアで実力差を見せつけた。

 「(今回の決勝のように) これからも、一回(の技)で決められそうなところでは、一回で決められるようにしていきたい」

強豪がひしめき合う現在の女子62kg級

 とはいえ、優勝したといっても稲垣に大喜びするような素振りは一切なく、「3連覇もあまり意識していなかった」と打ち明ける。「大学生の大会なので、しっかり勝ち切らないといけないと思っていました」

 それはそうだろう。稲垣は愛知・至学館高に在籍していた高校2年生のとき(2018年)に出場した全日本選手権で初優勝を飾り、翌2019年にはアジア選手権(中国)世界選手権(カザフスタン)にも出場し、前者では優勝しているのだから(いずれも59㎏級)。

▲2019年4月、17歳でアジア・チャンピオンに輝いた稲垣=撮影・保高幸子

 しかしながら、現在稲垣が身を置くオリンピック階級の62㎏級は、群雄割拠といっていいほど強い選手がひしめき合う。結局、東京オリンピック代表の座は高校・大学の先輩である川井友香子(サントリー)に奪われた。

 続くパリ・オリンピックの代表争いも熾烈を極め、昨年12月の全日本選手権では、約3ヶ月前の世界選手権同級で優勝している尾﨑野乃香(慶大)を同選手権59㎏級3位の元木咲良(育英大)が破って初優勝を飾った。

5年後のロサンゼルス・オリンピックをも見据える

 今年6月の明治杯全日本選抜選手権も制した元木は、今月開催の世界選手権(セルビア)で3位以内に入賞すると、パリ・オリンピックへの出場切符を手にすることができる。

 稲垣は全日本選抜選手権の準決勝で尾﨑を撃破したが、続く決勝では元木に敗れている。稲垣は「パリ・オリンピックに関していえば、自分は何も言えない立場にいる」と唇を噛んだ。「ただ、これからもっと強くなってオリンピックで優勝したいという思いは強い」

▲決勝も快勝。パリ・オリンピックの道はかなり狭まったが、オリンピックへの思いは消えていない稲垣=撮影・保高幸子

 東京オリンピックの女子50㎏級のように、第1次予選である前年の世界選手権で代表が確定しなかったケースもあるので、パリ・オリンピック出場の可能性が「0」になったわけではないが、稲垣は5年後のロサンゼルス・オリンピックを見据える。

 「今の62㎏級の流れについていって、最後は追い越せるように頑張りたい」

 この階級で稲垣は小柄な部類に入るが、発想の転換で、逆にそれが自分の持ち味と捉えている。「そこをいかして、(相手の懐に)入り込んだりするスタイルが長所だと思います」

 今後は10月のU23世界選手権(場所未定)と12月の全日本選手権に出場する予定。社会人となる来春以降も、競技生活はもちろん続ける覚悟だ。

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