[地域発 未来へ]比婆牛の歴史復活へ一丸 自治体×全農ひろしま×JAひろしま

繁殖牛の交配計画書などで生産者に「比婆牛」のもと牛の増頭を勧めるJA職員(左)(広島県庄原市で)

繁殖や育成、計画書でサポート

広島県庄原市では、庄原和牛改良組合と市、県、JA全農ひろしま、JAひろしまなどが「あづま蔓(づる)振興会」を結成し、一度は途絶えかけたブランド和牛「比婆牛」の歴史と伝統を守る。繁殖牛ごとの交配計画や子牛育成マニュアルなどを作成し、年間約200頭のもと牛を市場出荷。5月に開かれた先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)の首脳の夕食会でも振る舞われた。より一層の生産拡大や地域活性化を目指す。

「比婆牛」は、1843年に同市で作出された、日本最古の蔓牛の一つとされる「岩倉蔓」が起源。「岩倉蔓」の系統や特色を受け継いだ和牛改良が進み、「あづま蔓」が造成された。誕生した「第38の1岩田」は、現在の県種雄牛の全てが系統を引き継ぐ。

県内の育種圏統一などで減少したが、2014年に「比婆牛」を中心とした産地再興へ同協議会を設立。ブランド化と知名度向上に向け、16年に特許庁の地域団体商標を取得した。19年には、中国四国地域の和牛で初となる農水省の地理的表示(GI)保護制度に登録された。「比婆牛」は①同市産のもと牛で3代祖のいずれかに「第38の1岩田」を起源に持つ県種雄牛の血統を有する②同市生まれで、県内最長期間肥育――などが要件になる。

JAは産地振興に、比婆牛血統の雌牛の自家保留、繁殖牛の導入で、もと牛の増頭を図る。繁殖牛の交配計画提案書を作成。種雄牛候補3、4頭と産子の遺伝子保有確率、育種価(脂肪交雑、枝肉重量)などの期待数値を示し、交配を勧める。

健全な子牛生産に向けて2年間の給餌試験を実施。県や市などと、体重・体高の目安、育成管理や衛生管理のポイントをまとめた子牛育成マニュアルを作った。

全国的にも珍しい和牛育成用の混合飼料(TMR)の供給体制を整え、小規模経営や高齢生産者などを支える。稲発酵粗飼料(WCS)や飼料用米、トウモロコシなどを混合、発酵させた飼料で栄養バランスを高め、1日1回の給与で飼育を可能にした。

市もブランド化推進を後押しする。農家が減る中、22年度は前年比13%増の198頭のもと牛が市場出荷され、約95%は比婆牛の要件で肥育される。

同改良組合の山岡芳晴組合長は「行政とJAの協力でブランドが再構築された。一層の連携で生産と販路を拡大し、地域のにぎわいづくりにつなげたい」と先を見据える。

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