「浦和レッズ」一部サポーター“暴徒化”で騒動 チームへの“懲罰”に「抑止効果」はある?

一部“過激サポ―ター”の行動は、チームや他サポーターにとっても迷惑だ(弁護士JP編集部)

浦和レッズ(以下、浦和)の一部サポーターが、8月2日の天皇杯(浦和対名古屋グランパス)終了後に暴徒化し、両チームのサポーターがもみあう乱闘に発展した。その様子が撮影された動画はSNSなどで拡散され、騒動はサッカーファン以外の多くにも知るところとなった。

天皇杯を主催するJFA(日本サッカー協会)は8月31日に臨時理事会を開き、暴力行為などに及んだ浦和サポーター17人に対し、国内で開催されるすべての試合で「無期限入場禁止処分」を科すと決めた。サポーターの管理責任を負う浦和への懲罰については、今月中旬にも独立した司法機関である規律委員会が開かれ議論される見通しとなっているが、日刊スポーツの報道によれば「史上最大の懲罰」として、来年度の天皇杯出場資格はく奪の可能性もあるという。

過去に下された“懲罰”

浦和は、過去にも一部サポーターの違反行為によって、Jリーグ(公益社団法人日本プロサッカーリーグ)から複数回“懲罰”を受けている。

報道などをもとに編集部作成(※日付は処分決定日)

昨年の違反行為では、チームにJリーグ史上最高額タイ(※)となる2000万円の罰金が科された。懲罰を招く一部サポーターの行為は、チームに直接“不利益”をもたらしているといえるだろう。

※これまで浦和(2008年)と大宮アルディージャ(2010年)は、2000万円の罰金が科されている。

そんな“不利益”をもたらす一部のサポーターに対して、チームは損害賠償を求めることはできないのだろうか。

チームは一部過激サポに“罰金”賠償請求できるのか

企業法務に注力し、自らもフットボールファンである江﨑裕久弁護士は、「懲罰の罰金について、違反行為をしたサポーターに請求することは難しい」と話す。

「これまでJリーグが浦和レッズに科した罰金の理由は、チーム運営主体としてのレッズが適切な体制を取っていなかったことです。個々のサポーターに対して責任を問うには、当日も含めて〈レッズ側が十分な体制をとっていたのにサポーターがそれを超える非常識なことをやった〉という事情が必要かと思います。報道から知れる状況としては、レッズ側がいつも十分な体制を引いていたとは言いがたいように思いますので、その意味でサポーターに罰金を転嫁することは難しいでしょう」(江﨑弁護士)

都内在住の浦和サポーターの男性は、懲罰の可能性に対して苦々しい思いを語る。

「暴徒を止められなかった責任は確かにチームにもあると思いますが、暴徒化するような“いかつい人”たちに対して、現場にいる浦和のスタッフは普通のサラリーマンです。現実的に制御が難しいことはJFAやリーグもわかっていると思います。

それに今回は懲罰として〈勝ち点取り消し〉や〈出場資格はく奪〉などの可能性も取りざたされていますが、悪いのは違反行為をした人で、選手には一切否がない。選手にまで連帯責任を背負わせるのはどうなのかと思います」

懲罰については、江﨑弁護士も「あくまで心理的な抑止効果にすぎない」と指摘する。

「自身が応援するチームに迷惑をかけることを避けたいという気持ちを持つサポーターへの心理的効果は多少狙えますが、いわゆる“フーリガン”のように暴動を行うこと自体が目的の人にとっては、チームが懲罰を科せられようが自分個人に降りかかってこない限りは全く痛痒(つうよう)を感じないでしょう。

悪質な違反サポーターについては、チームがJFAやリーグなどとも連携して入場禁止、場合によっては刑事告訴する等、断固たる措置をとらざるを得ないのではないでしょうか」

浦和の初動は「まずい対応だった」

今回の騒動で浦和は、「暴力行為はなかった」として、試合翌日に暴徒化したサポーターら77人に対して最大16試合の入場禁止を言い渡した。しかし、その後JFAと協議の上で、暴力や破壊、威嚇等の違反行為を25人程度がしていたことを報告。浦和の対応には、インターネット上を中心に「身内びいき」という批判が相次いだ。

※8月31日、浦和もJFAの処分に該当する17人の処分については無期限入場禁止に変更した。

浦和はどう対応するべきだったのか、そして今後どう対策をとっていくべきなのか。江﨑弁護士は、危機管理のポイントとなる「3段階」を示して説明する。

危機管理のポイント
①事前に備えること
②発生時に速やかに「十分以上の」対応をとること
③事後のフォローアップ

「今回の騒動後にレッズは、事実確認が“不十分”な状態で、最終的な処分と受け取られかねない処分の公表を行いました。極めてまずい②の対応だったと思います。

もしかしたらレッズは顧問弁護士と相談もしていなかったのではないかと思いますが、こういった危機が起きた場合、まず適切な対応を知るために弁護士と相談していただくことは基本です。相談しなかった場合、経営陣の『善管注意義務違反』が問われる可能性もあります。

なお、処分を行うにも事実関係がしっかり確認できていないとできませんので、ヒアリング等も事実認定の専門家でもある弁護士が行うべきです。

今後は、社会的な説明責任を果たすために、徹底した原因究明と断固たる措置が必要になります(③)。再び『身内びいき』と言われないためにも、第三者委員会等を作り、原因を究明した上でしっかりした対策を立て、再発防止を図ることが求められていくと思います」(江﨑弁護士)

サポーターに必要な認識

JFAは今年5月に「暴力・暴言・ハラスメント・差別等の根絶に向けたロードマップ」を作成。これまで主に指導者らに対して行っていた“暴力撤廃”の啓発・教育を、今後は「ファン・サポーターも含めたサッカー界全体での取り組みへ」と基本方針を調整したばかりだ。

JFA「暴力・暴言・ハラスメント・差別等の根絶に向けたロードマップ」基本方針

江﨑弁護士はフットボールファンとして、サポーターの熱狂に一定の理解を示した上で、サポーターに必要な“認識”を次のように語る。

「フットボールは他の何よりも『熱い』スポーツですし、サポーターはチームと一体で、審判が不可解な判定をしたり、理不尽と感じるようなことがあれば怒りが生じるのは、サッカーというスポーツにおいて必然ともいえるでしょう。

そして、スタジアムはその『熱さ』を肌で感じる場所なので、その熱さに身を任せてしまっても良いような錯覚に陥ることがあると思いますが、それはやはり“錯覚”です。

ピッチの中でも、悪質なファウルは不法行為の損害賠償の対象になることもありますし、誹謗中傷や人種差別等も同様です。今回の事件を踏まえて、改めてサポーターも一線を越えないように線引きが必要であることを再認識する必要があるかと思います」

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