【解説】ジョー・サンプル 『ヴォイセズ・イン・ザ・レイン』

【連載】ジャズ百貨店 Fusion編ご紹介 第3回:ジョー・サンプル 『ヴォイセズ・イン・ザ・レイン』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が80万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。今年4月には新たにBOSSA NOVA編30タイトル、6月にFUSION編30タイトルが加わりました。その中から注目の作品をそれぞれ5作品ずつピックアップし、ご紹介しております。
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ジョー・サンプル 『ヴォイセズ・イン・ザ・レイン』

ジョー・サンプルはリチャード・ティーやデイヴ・グルーシンと共にクロスオーバー時代を牽引したピアニストだが、所属するザ・クルセイダーズとの相乗効果もあり、スタジオミュージシャン的な印象が薄くアーチスティックな魅力が強かった。ロマンチックな楽曲の作曲家であり、右手のメロディラインは順次進行音階を惜しげもなく使うかと思うとオクターブでパーカッシブに叩くなど流麗かつダイナミックで、左手の合いの手のような動きも含め個性的だ。

『ヴォイセズ・イン・ザ・レイン』は、『虹の楽園』(1978年)『渚にて』(1979年)に続き1980年に発売されたジョーのソロ・アルバム。クルセイダーズのドラマーであるスティックス・フーパー(演奏でも参加)とサックスのウィルトン・フェルダーがプロデューサーとしてジョーと共に名を連ねているので、実質クルセイダーズの音楽性を踏襲した作品と言えよう。

M-1.はピアノソロによるバラードかと思いきや、徐々にパーカッションやジョー自らによるシンセが加わり壮大な楽曲となる。情熱的なピアノに対してベースやドラムは抑えが効いていることが功を奏している。

<YouTube:Burning Up The Carnival

M-2.は一転してスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせるクラヴィネットの効いた賑やかなダンス・ヴォーカル・チューン。ファンクビートだがサンバのフィーリングも感じさせる。

 M-3.はイージーリスニング・フュージョン的なリラックスしたナンバーだが、所々ハーモニーに憂いがあるところがジョーならでは。

<YouTube:Greener Grass

M-4.はクルセイダーズのナンバーと言っても遜色がないためサックス入りでも聞いてみたくなる。

個人的に大のお気に入りであるM-5.《Dreams Of Dreams》は、半音上の音階から解決するイントロの不思議さと曲中のメロディの美しさがコントラストを成し、ピアノ・トリオ+パーカッションのみ(イントロ部のみギター)のシンプルな編成で過不足ない魅力を放つ。コード進行は4度マイナーが生きていて半音上に1度転調するだけのジョーの楽曲にしてはシンプルなものだが、何度聴いても良いなあ!この曲でのスティックス・フーパーのドラムはリズムの引っかけやタメが効いており、なんといっても音がいい。歴代ベスト・ドラム・サウンド賞を差し上げたいところだ。エイブラハム・ラボリエルのベースはフランジャーがかかっていて独特だがとても曲に合っている。ポリーニョ・ダコスタのストイックなパーカッションも効果的。

<YouTube:Dream Of Dreams

M-6.もブラジルの歌モノ(フローラ・プリムによる)のようなサウダージ感がさりげなく素敵。

ラストM-7.は、一風変わったクラシカルな雰囲気のまま行くのかと思いきや、ボサノヴァ・フュージョンに変貌。なんとレイ・ブラウンがアコースティック・ベースで参加。

ラテン・フィールがあることがジョー・サンプルの特徴だが、ジャズ、ブルース、ファンク、サンバ、クラシックなど様々な様子が織り込まれていることがクロスオーヴァー代表と位置づけられる由縁ではないか。

Written By 坪口昌恭
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【リリース情報】

ジョー・サンプル 『ヴォイセズ・イン・ザ・レイン』
UCCU-6296

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