<レスリング>【2023年全日本学生選手権・特集】男子グレコローマン82kg級は10年ぶりの早大同門決勝! 山倉孝介の気持ちに、玉岡颯斗がこたえた!

 

 2023年全日本学生選手権の男子グレコローマン82kg級決勝は、早大4年生による同門対決。グレコローマンを専門にやって来た玉岡颯斗が、フリースタイルでも優勝していた山倉孝介を5-1で破り、一日の長を見せて進学後の初のタイトルを手にした。

 グレコローマンで早大選手同士が決勝を闘ったのは、2013年の武富隆-田村和男以来(このときは3位に北村公平も入賞)。

 試合終了のホイッスルが鳴るか鳴らないかのうちに、山倉は勝負が決まったことを認めて玉岡とがっちり抱擁。玉岡は、感謝の気持ちがあふれた表情でこれを受け止め、お互いの健闘をたたえ合った。

▲10年ぶりとなった早大選手同士の同門決勝。試合が終わると、お互いの健闘をたたえあった(手前が玉岡)=撮影・保高幸子

 「やっと優勝できてうれしい」と話した玉岡は、続けて、グレコローマンにも出てくれた山倉に深い感謝の気持ちを表した。山倉は、チーム事情で2020年の全日本大学グレコローマン選手権に出場したことはあるが、フリースタイルが専門の選手。この大会の前半に行われたフリースタイルで優勝し、グレコローマンは何が何でも出る必要はなかった状況だ。

 だが、玉岡との決勝対決を目指して出場してくれたという。「けがもしていた状況なんです。そんな中で、フリースタイル5試合のあと、グレコローマンでも5試合闘ってくれました(玉岡との試合が5試合目)。感謝の気持ちしかないです」と、しみじみと話した。

ドラマのような決勝対決までのストーリー

 玉岡は群馬・館林高校、山倉は千葉・日体大柏高校の出身。関東の強豪高校の選手としてお互いの存在は知っていたが、力を入れているスタイルや階級が違うこともあって(玉岡は92kg級、山倉は65kg級)、特別にライバル視していたわけではなかった。

 早大でチームメートとなり、合宿の部屋も同じ。山倉の体重が増えたことで、階級はほぼ同じになった。玉岡のグレコローマンの練習の相手を山倉が務めれば、玉岡が山倉の練習相手を買って出る。いい関係を築きながら迎えた最終学年のインカレだ。

 玉岡は、高校時代に国体や全国高校グレコローマン選手権を制していたが、早大ではタイトルに恵まれなかった。「う~ん…。やはり、気持ちの弱さがあったと思います。高校の時に全国一になったことで、甘さがありました」と、素直に“伸び悩み”の要因を吐露した。

▲人生で最後の全日本学生選手権。玉岡(右)は初の学生タイトルを手にした=撮影・保高幸子

 今回が学生最後のインカレ。「挑戦者の気持ちでした。1試合ごとを確実に、ていねいに闘っていきました」と言う。早大はフリースタイルの選手が多く、山倉らがグレコローマンの練習相手をしてくれるとはいえ、日体大などに比べると練習環境は今ひとつ。だが、それは台頭できなかった要因ではないと言う。

 大学に進むにあたり、早大と日体大からスカウトがあり、早大を選んだのは自分自身。大勢の強豪選手の中で切磋琢磨し、いつの間にか強くなっている選手もいるだろうが、壁の厚さの前に、だれもが芽が出すとは限らない。

R1のバスタオルを母にプレゼントしたい!

 部員数は少なくとも、その中で成長する道を選んだ。この大会では日体大選手との対戦はなかったが、準決勝で、これまで2戦2敗という山口蓮汰(神奈川大)を破る殊勲の勝利で決勝へ進出できた。山倉が、グレコローマンを中心にやっている選手も含めて勝ち進んでいたので、「何が何でも(山口を)倒して、孝介(山倉)と決勝で闘う、という思いでやりました」。精神力に難点のあった玉岡が、チームメートの気持ちをエネルギーに変えて勝利を引き寄せた白星だろう。

 社会に出てやりたいことがあるので、今年いっぱいでマットを去る予定だ。10月の全日本大学グレコローマン選手権で学生選手相手にもう一花咲かせ、12月の天皇杯全日本選手権での優勝が目標。6月の明治杯全日本選抜選手権(3位)で達成できなかった決勝進出を目指し、「R1のバスタオル(注=株式会社明治より決勝進出選手に贈呈される)を肩からかけてマットに上がり、それを母にプレゼントしたいです」。

 山倉は明治杯で優勝している。今度は玉岡の番。レスリング生活の集大成のバスタオルを、母へ贈ることができるか。

▲残る大会は2つ。全日本選手権で燃え尽きることができるか

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