犬の脳は女性が話す赤ちゃん言葉に強く反応するという研究結果

犬の脳は赤ちゃん言葉にどう反応する?

私たちは赤ちゃんや動物に話しかける時、高い声やオーバーな抑揚の話し方のいわゆる「赤ちゃん言葉」を使いがちです。

乳幼児や動物は言語能力が限られているため、彼らとコミュニケーションを取る時には、高い声やオーバーな抑揚で注意を惹きつけることが効果的だからだと考えられています。

過去の研究では、乳幼児も犬も赤ちゃん言葉で話しかけられた時には大人向けの普通の話し方の時よりも、より強く反応する行動が報告されています。

また行動面だけでなく、乳幼児の脳は赤ちゃん言葉で話しかけられた時に、より活発に反応するという研究結果もあります。

では、犬の脳は赤ちゃん言葉で話しかけられた時にどのような反応を示すのでしょうか。ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームは、この点を検証するためにMRIを使って調査を実施しました。

乳児向け、犬向け、大人向けに対する犬の脳の反応をMRIで測定

この調査には19頭の成犬が参加しました。調査結果が一般的であるかどうかの可能性を高めるために、さまざまな犬種の犬が選ばれました。(ゴールデンレトリーバー5頭、ボーダーコリー3頭、コッカースパニエル3頭、オーストラリアンシェパード1頭、チャイニーズクレステッド1頭、ケアンテリア1頭、ラブラドールレトリーバー1頭、雑種4頭)犬たちの年齢は2〜10歳(平均年齢6歳)オス11頭、メス8頭でした。

すべての犬は日常的に男女両方の人間と交流を持っており、19頭中16頭は男女両方の人間と暮らしています。犬たちは鎮静剤や拘束具を使わず、MRI装置の中で伏せの姿勢を取っていられるよう、あらかじめトレーニングを受けています。

犬はMRI装置の中でアゴ乗せ台にアゴを乗せてヘッドフォンを装着し、ヘッドフォンを通じて音声サンプルを聞きます。ヘッドフォンは、MRI装置の大きな音を遮断する役目も果たしています。

音声サンプルは、あらかじめ録音された犬たちにとって知らない人間の声で、話す内容は統一されています。以下の3種類が用意されました。

  • サンプル提供者が自分自身の乳児に話しかけている声
  • サンプル提供者が自分自身の犬に話しかけている声
  • サンプル提供者が大人に向かって話しかけている声

サンプル提供者は女性12名男性12名で、犬たちが24名分の上記3つの音声を聞いた時の脳の反応がMRIによって測定されました。

犬の脳は赤ちゃん言葉だけでなく女性の声に強く反応

犬たちの脳の活動を測定した結果、脳の聴覚領域の最下部が、音声における固有のパターン(ピッチや抑揚など)を処理するのに関与していることがわかりました。そしてこの部分は、大人に向かって話しかける声よりも、乳児や犬に向けられた声により強い反応を示していました。

犬の脳も乳幼児と同じように、赤ちゃん言葉で話しかけられた時により強く反応することがわかったのですが、興味深いことに乳児や犬向けの音声に対する感度は、話し手が女性の場合にはさらに敏感でした。

人間の乳幼児の場合には、胎内にいる時に女性である母親の声を聞いていたせいではないかという仮説が立てられていますが、犬の場合にはこれは当てはまりません。

また女性が赤ちゃん言葉で話す時の特徴的な声調パターンは、犬同士のコミュニケーションには通常無いものです。

研究者はこの結果について、犬が家畜化される過程で発達した神経の嗜好性(好きだと感じる傾向)を示す証拠になるかもしれないと述べています。

まとめ

犬は、乳児や犬に向かって話しかける時によく使われる赤ちゃん言葉を聞いた時、特に声の主が女性であった場合に、脳がより強い反応を示したという研究結果をご紹介しました。

この研究は、犬の脳が自分たちに向けられた音声に対して適応していることを、神経学的に示す初めての証拠となります。

研究チームは今後、乳児や犬向けの話し方の韻律に含まれる音響成分や非音声成分が、犬に及ぼす影響を行動レベルや神経レベルで検討していく必要があると述べています。

犬に話しかける時にほとんど無意識に使っている高い声や赤ちゃん言葉が、神経学的に意味のあることだというのは驚きですが、これからは愛犬に話しかける時に堂々と赤ちゃん言葉を使えそうですね。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s42003-023-05217-y

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