“師弟の絆”で豆腐復活 「指導の恩返し」72歳再挑戦を後押し 鹿児島・姶良市

豆腐作りに励む前田さん(右)ら(鹿児島県姶良市で)

地元産大豆生産に弾み

鹿児島県姶良市で、地域住民に愛されるも一度途絶えた地元産大豆の豆腐が復活した。手がけるのは豆腐作りの腕を持つ女性農家らで構成する加工グループ。新規就農後、メンバーから教えを受けた男性農家も加わり、“師弟の絆”が豆腐製造を通じた働く場づくりを後押しした。地元のJAあいらや機械利用組合も原料供給に協力。地域の大豆生産にも活気を吹き込んでいる。

毎週火曜日と金曜日。市内の加工場に、出来たての寄せ豆腐(1丁180円)が並ぶ。大豆の甘味と柔らかな食感が特長で、販売日はほぼ完売する人気商品だ。2年前から製造されなくなり、姿を消したが、今年6月に復活した。

農産加工グループの「四季菜」が作る商品で、女性農家ら4人が週2回、加工場に集まり、大豆の加工から手作業で励む。

グループの結成に携わった一人、前田三枝子さん(72)は「よく知ったみんなと顔を合わせて働くことができるのは、本当にうれしい」と喜ぶ。前田さんはかつて、別のグループで豆腐を作っていた。だが、メンバーの高齢化に伴い、活動を停止せざるを得なかった。

永吉さん 再開のきっかけを作ったのは、指導農業士でもある前田さんの教えを受けた野菜農家の永吉和也さん(51)。42歳ごろ、脱サラで農業を始めた当初は「経営がうまくいかなかった」(永吉さん)が、前田さんにブロッコリー栽培を教わったことが転機となった。現在は40アールに作付け、経営を軌道に乗せることができた。
「前田さんに恩を返したい」と日頃から考えていた永吉さん。豆腐作りが止まり、亡くなった夫から受け継いだ直売所も出荷農家の高齢化で閉店していた前田さんには、元気がないように見えた。

「四季菜」が作る寄せ豆腐(鹿児島県姶良市で) 「まだ働けるよ。協力するから、やりたいことをやろう」と永吉さんが働きかけると、前田さんも賛同。前田さんの友人の曲田美枝子さん(62)ら3人にも声をかけ、参加が決まった。販売先の確保や事務の仕事は会社員経験がある永吉さんが担当し、豆腐作りを復活させた。

前田さんは「年齢を考えると一から自分でやることはできなかった。メンバーみんなのおかげ」と実感する。

「四季菜」の活動を支えるため、地元のJAあいらが豆腐の原料となる大豆を供給する。また、休止状態だった地元の機械利用組合が話を聞き、大豆生産を再開。本年度は2ヘクタールに作付けた。

永吉さんは「豆腐作りを長く続け、みんなが気心知れた人たちと働ける場を大事にしたい」と思い描く。 三宅映未

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