ショックで仕事が手につかぬファンも…京アニ事件で埼玉の聖地、再注目され複雑 何を言っても消えぬ罪

京都アニメーションを応援するファン作製の「らき☆すた」ポスターと、島田吉則さん=久喜市鷲宮の島田菓子舗

 36人の命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件で起訴された青葉真司被告(45)の裁判員裁判が5日から始まる。京アニは埼玉県久喜市鷲宮地区などを舞台にした人気アニメ「らき☆すた」の制作を手がけており、地元関係者に与えた衝撃は大きい。「大切な存在をなぜ奪ったのか」。らき☆すたを愛する和菓子店「島田菓子舗」の島田吉則さん(57)は、ファンの気持ちを代弁する。

 「事件の後、急いで描いてくれたんですよ」。店の壁に張られたポスターを見つめ、島田さんは語る。らき☆すたの主要キャラクター4人が手を合わせるイラストにはさりげなく、「がんばって」「応援してるよ」とメッセージが書かれている。

 2019年7月28日、鷲宮地区の伝統行事「八坂祭」に、らき☆すたをモチーフにした「らき☆すた神輿(みこし)」が登場した。それまでもファンによって担がれてきたが、この年は特別だった。被害を受けた京アニを応援しようと、全国から約100人が集まって盛大に渡御。ポスターは祭りの準備中、「協力したい」と絵の得意なファンが作製し、地元の商店に配られたものだ。

 ほかにも、店内にはファンから寄贈されたらき☆すたグッズが並ぶ。島田さん自身も大のアニメ好き。商工会と商店街が始めたまちおこしの中心人物として知られ、大勢のファンと交流してきた。「事件のショックで仕事が手につかない」と嘆くファンの相談にも乗った。

 らき☆すたの監督を務めた武本康弘さん=当時(47)=も犠牲となった。島田さんは「それまで当たり前のように見ていたアニメが、一人一人のスタッフの頑張りで作られている」ことを改めて実感したという。

 地元の鷲宮神社には犠牲者の冥福を願う絵馬が並び、京アニの復興支援を目的とするチャリティーイベントも地区内で行われた。アニメの放映開始から12年が経過していた当時、事件を機にらき☆すたの舞台地として鷲宮地区が再注目され、「複雑な気持ち」になった。 

 事件発生から4年を経て始まる裁判で、青葉被告は何を語るのか。島田さんは「『小説を盗まれた』という妄想から京アニのスタッフの命を奪い、遺族やファンを悲しませた罪はあまりにも重い。何を言っても消えない」と非難する。その上で孤独だったとされる境遇に触れ、「私にとって、アニメやファンとの交流が心の支えだった。そうした大切な存在が青葉被告にあれば、凶行に走らなかったかもしれない」と話した。

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