そそり立つ岩壁が両岸に迫り、その間から木々の緑がのぞいた。透き通った川の水が膝下をくぐり抜け、川のせせらぎだけが聞こえる。ここは、白神山地の大川上流、世界遺産緩衝地域にある「タカヘグリ」と呼ばれる峡谷。自然の造形に息をのむ。
残暑厳しい8月31日、環境省の委託を受け白神の奥地を踏査する、白神マタギ舎(西目屋村)の工藤茂樹さん(71)ら巡視員4人に同行した。
川幅が狭いタカヘグリは水量によって深さが変わり、時には大人の背丈をのみ込むほど。だが、昨夏の大雨で流れ込んだ土砂が川底を埋めたことに加え、今年は雨が少なく、この日はずいぶんと浅くなっていた。
巡視員の小池幸雄さん(57)は「かつてのタカヘグリは底が見えないほど深く、白神に精通したマタギも怖さを感じる場所だった」と振り返った。