地域活性化は「金もうけが主目的」 「沈静化」を唱えた生産者の矜持

 35歳だった70年近く前、現在の雲南市木次町内の酪農家らと牛乳の製造、販売を始めた。ところが、牛が次々と乳房炎などの病気にかかった。そこで餌の牧草を化学肥料や農薬を使わない自然栽培にすると、見る見るうちに牛が健康を取り戻した。

 日本で初めて低温殺菌したパスチャライズ牛乳の開発、販売を実現した木次乳業(雲南市木次町東日登)の創業者佐藤忠吉さんの体験談。「食」に強いこだわりを持つ契機になった。7年前、本紙連載企画「若者よ」で紹介した。デスクとして携わったが、読み進めるうち、目から鱗(うろこ)が落ちた。

 <全ては、自分やわが子が食べたり飲んだりすることを前提に、どうあるべきかを考えた。それが結果的に他の人のためにもなる><「偽り」という漢字は「人」の「為(ため)」と書く。最初から「人のために」などという人間を私は信用しない>。

 名刺の肩書に「百姓」と入れた佐藤さんが103歳で他界した。百姓とは「百の作物を作る人」。物を作り出す職業は最も上位に位置付けねばならない、という思いからだった。生産者としての矜恃(きょうじ)だろう。

 訃報を受けて、当時の記事を読み返した。地域活性化を「経済の活性化であり、金もうけが主目的。どこかが発展すればどこかでひずみが生じる」と否定。小さな共同体で自給自足を目指す「沈静化」こそがふさわしいと唱えた。さもありなん、と思わせる重みがあった。

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