女優は40歳が賞味期限!? ハリウッドに巣食う“エイジズム”を考える ~『インディ』シリーズのカレン・アレンが示した座標軸~

『スターマン/愛・宇宙はるかに』©1984 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

カレン・アレンが三たび『インディ・ジョーンズ』に起用された意味

2022年に公開され大ヒットした『トップガン マーヴェリック』は、トム・クルーズが36年振りに前作『トップガン』(1986年)と同じミッチェル役を演じて話題になったが、ヒロインには前作でケリー・マクギリスが演じたチャーリーではなく、新たにジェニファー・コネリー演じるペニーが設定された。それは、単純にマクギリスにはオファーがなされなかったからなのだが、彼女自身はその理由について自分が「年相応に容姿が変わり、加えて肥満してしまっていること」が原因だろうと述べていた。

一方で、今年公開された『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』では、42年前の第1作目『レイダース/失われた聖櫃』(1981年)以来ずっと主人公インディ役を演じ続けてきたハリソン・フォードに加えて、第1作目のヒロインで、第4作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)で久々に登場し、とうとう劇中でインディと結婚したマリオン役のカレン・アレンが三たび同じ役(ただしインディとは離婚協議中という設定)で登場した。

もちろん、ハリソン・フォードが爺さまになったのと同様、カレン・アレンもまた年齢を重ね、70歳(撮影時)という年相応の容姿となり、体重も増えているように見えた。にもかかわらず、彼女が起用されたことの意味について考えてみたい。

ハリウッドに巣食う“エイジズム”という病根

『トップガン マーヴェリック』でケリー・マクギリスに声すら掛からなかったのは、ハリウッドに巣食う“エイジズム”や“ルッキズム”と呼ばれる病根のせいといえるだろう。観客に夢を与えるのが映画の使命なのだとしたら、年老いて皺の増えた身体よりも、若くてぴちぴちした身体のほうが良いというのは一つの考え方であるのだろうし、見た目だって美しい外観の俳優の方が良い、ということになる。

だが問題は、男優の場合は年齢や外観よりもその俳優の過去の実績や現時点でのスターヴァリューに問題がなければ主役に留まり続けることが可能である――トム・クルーズのように還暦を過ぎてもアクションをこなせるだけの身体のシェイプアップを怠らないスターのみならず、AI技術で皺を消さなければ爺さま以外の何物でもないハリソン・フォードであってもそうである――のに対して、女優の場合にのみ、20代、30代でどんなに活躍した人であっても、40歳ともなると自動的に“賞味期限切れ”として一顧だにされなくなってしまう、という性差別がまかり通っていることにある。

こうした、女優のみが実人生の早い時点で強制的にキャリアを閉ざされてしまう現状というのは、何も昨日今日始まったことではなく、ハリウッドでは昔からそうなのだ、と主張する人もいる。では、男優の場合おじさん臭さが漂うようになっても強制的に第一線から排除される対象とはなってこなかったのは、なぜか?

オードリー・ヘプバーンの相手役は“父親世代”ばかり?

それは、オードリー・ヘプバーンが映画の中で演じたヒロインの相手役となった男優たちのことを考えてみると明らかで、たとえば『ローマの休日』(1953年)のグレゴリー・ペックは13歳差、『麗しのサブリナ』(1954年)のハンフリー・ボガートとは30歳差、『戦争と平和』(1956年)のヘンリー・フォンダとは24歳差、『パリの恋人』(1957年)のフレッド・アステアとは30歳差、『パリで一緒に』(1963年)のウィリアム・ホールデンとは11歳差、『シャレード』(1963年)のケイリー・グラントとは25歳差、『マイ・フェア・レディ』(1964年)のレックス・ハリソンとは21歳差だ。

1歳差のジョージ・ペパード(『ティファニーで朝食を』[1961年])、7歳年下のアルバート・フィニー(『いつも二人で』[1967年])という例もあるにはあるが、ほとんどがオードリーにとって父親世代くらいの俳優だ。……なぜ、そうなっていたのか?

理由は簡単で、オードリーが活躍し始めた1950年代はじめ頃というのは、第二次大戦が終わってまだ日も浅く、彼女の相手役にふさわしい年齢層の俳優たちは戦争に行っていたため主演スターとしては育っておらず、戦前からのスターたちがそのままスライドして戦後も主演スターで居続けざるを得なかったからだ。

女優は“40歳が賞味期限”というハリウッド村の常識

オードリーが活躍したころの男優の需要と供給のアンバランスさは、戦争という大きな外的要因があったからのことだが、確かに女優の賞味期限という点に関しては昔から大差はなかった。

ハリウッド史上最高の演技派女優としてアカデミー賞主演女優賞ノミネート10回、うち3回受賞という金字塔を打ち立てたベティ・デイヴィスですら、54歳になった1962年に、映画業界誌<Variety>の誌面に実名で「職を探しています」と役の獲得のために個人広告を出さざるを得なかったほどだ。彼女の場合は、それでもその年にサイコホラー『何がジェーンに起こったか?』に出演して鬼気迫る演技で最後のオスカー・ノミネーションを果たしたし、81歳の時の『おばあちゃんは魔女』(1989年)まで現役を貫いた。

それまでのイメージをかなぐり捨ててサイコパスでも魔女でも演じようという女優は日本にもいる。戦前のトップ美人女優だった入江たか子は、40歳を超えてからは生活のためと割り切って“化け猫映画”に次々と出演して「化け猫女優」と呼ばれたりしたが、そういう形でのキャリア維持は日米問わずひとつのテンプレートと化しているようで、現代ハリウッドの大女優メリル・ストリープなども、あるインタビューで「40歳になるや魔女役のオファーを三つも受けて、『わたしのキャリアはもう終わりなんだ』と思った」と答えている。

エイジズムに対して声をあげ始めたハリウッド女優たち

近年、若いころに活躍していたのに次第に役がもらえなくなった女優たちが、ハリウッドの内実についてインタビューなどで次々と声をあげ始めている。

『クレイジー・ハート』(2009年)でアカデミー賞主演女優賞に、脚本・監督を務めた『ロスト・ドーター』(2021年)で同賞3部門にノミネートされたマギー・ギレンホールは現在45歳だが、8年ほど前に「55歳の俳優の相手役としては37歳では歳を取りすぎている」と言われて役を断られたことがあったと告白している。

Amazon Prime Videoで配信された『愛すべき夫婦の秘密』(2021年)で、TVシリーズ『アイ・ラブ・ルーシー』(1951~1957年)などで知られるルシル・ボール役を演じたニコール・キッドマンは、劇中でルシルが「あなたは39歳。もう終わりだ」といわれるシーンがあったことに言及しつつ、「自分にも似たような経験があるけれど、状況は間違いなく変わってきている」と述べている。

ヨーロッパでは、『二十四時間の情事』(1959年)のエマニエル・リヴァが85歳の時にジャン=ルイ・トランテイニャンとともに主演した『愛、アムール』(2012年)、『愛の嵐』(1973年)のシャーロット・ランプリングが69歳の時に主演した『さざなみ』(2015年)のように、齢を重ねた女優が自然な形で登場する映画も珍しくない。

しかし、それでも“エイジズム”は業界の病根としてあるようで、最近、エマ・トンプソンら100名を超えるイギリスの俳優たちが、女優のみをターゲットにした“エイジズム”を改善し、45歳以上の俳優の男女平等な形でのレプレゼンテーションの実現を呼び掛けるオープンレターを公にした。

カレン・アレンの魅力が詰まった『スターマン/愛・宇宙はるかに』

さて、冒頭のカレン・アレンの話題に戻ろう。彼女は、筆者にとってもジョン・カーペンター監督の『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984年)のヒロインを演じた大好きな女優のひとりだ。

同作品はカーペンター監督作品の中でも特にハートウォーミングなファンタジーで、若くして最愛の夫を亡くした失意のヒロインのもとに、宇宙探査機ボイジャー2号に搭載されていた地球からの平和のメッセージに応えて来訪した異星人が逃れこみ、亡くなった夫スコットの遺品として置かれていた毛髪からDNA解析して、そのクローン=スコットの姿となって現れる、という物語。

……はじめはあまりのことに動揺するものの、やがてその心優しい異星人のことを、亡き夫同様に愛し始めてしまう、という女優にとって一生に一度巡り合うことができるかどうかというくらいの、素敵な役柄だった。

その彼女が、30歳の時に演じた『レイダース/失われた聖櫃』のヒロイン役を、57歳の時の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの伝説』に続いて、70歳になっても『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で演じる機会を持てたことの意味――。それは、第1作目から同シリーズを見続けているファンや、カレン・アレンという一人の女優にとって嬉しい出来事であったのみならず、ハリウッドの映画産業界が“エイジズム”を改善して、今後、ヨーロッパ映画のように成熟した女性たちを描く映画を作っていくことができるのかどうかの、ひとつの重要な座標軸を示し得たのかもしれない。

文:谷川建司

『スターマン/愛・宇宙はるかに』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月放送

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