「渋谷駅での乗り換えは嫌だなあ……」と思う人も多いのではないだろうか。
渋谷駅にはJR東日本・東急電鉄・東京メトロ・京王電鉄が乗り入れており、バスの発着も複数事業者ある。1日の乗降客数は約50万人、観光客も多いターミナル駅だが、一方でインターネット上などを中心に「使いにくい」「導線が悪い」とよく言われている。
国土交通省関東地方整備局も、再開発にあたり「人や車で常に混雑し、また鉄道の乗り換えが不便である」と渋谷駅の課題を挙げている。
なぜ不便と言われているのか。まずは渋谷駅の現状を整理しよう。
工事を重ねてさらに不便に
渋谷駅は、谷底にある駅だ。ここに各方向から鉄道網が集まっている。池袋や新宿のように広い平面にホームが並んでいる構造ではなく、複数の層にさまざまな鉄道のホームがあり、上下の移動が激しい、という特徴を持っている。
まずJRのホームは、地上2階である。ほぼ同じ高さに、京王井の頭線のホームがある。この移動がスムーズに行くかというと、そんなことはない。京王井の頭線のホームからJRのホームに行くには、現在一度1階に下りるか3階に上って行く必要がある。工事中のため、遠回りを強いられるのだ。
地上3階には、東京メトロ銀座線のホームと改札がある。東京メトロ銀座線のホームは、1つは行き止まり、1つはホームから車庫に回送できるような構造になっている。そのため、改札とホームは同じ階にあり、本来はJRの改札と楽に行き来できる。だが、このフロアでも現在は工事が行われているため、手間取るようになっている。京王井の頭線に行くには、さらに方向を何度も変えるという状況だ。
東急各線や東京メトロ副都心線・東京メトロ半蔵門線に行くにはどうしたらいいのだろうか?
現在、これらの各線ホームは地下にある。地下に向かうためには、エスカレーターを何本も乗り継いだり、地下道を歩いたりすることが必要だ。乗り換える路線によっては、地上を歩いたほうが速い場合もあり、駅構内を熟知していないとスムーズな乗り換えは難しい。
地下2階と地下3階に東急の改札口があり、この両フロアはスロープで結ばれている。地下2階は東急田園都市線と東京メトロ半蔵門線、地下3階は東急東横線と東京メトロ副都心線メインの改札となっている。ここで挙げた2つそれぞれの組み合わせで、相互乗り入れを行っている。なお、東急田園都市線と東京メトロ半蔵門線のホームは地下3階、東急東横線と東京メトロ副都心線のホームは地下5階にある。
と、このように“複雑怪奇”な駅となってしまっている渋谷だが、かつては便利だったのだろうか。
もともと便利な駅ではなかった!?
以前の渋谷駅は、JRは1996年3月まで山手線にしかホームはなく、京王井の頭線ホームも、1997年12月まで現在と位置が異なっていた。2013年3月まで東急東横線は高架ホームで2階にあった。東京メトロ銀座線は、2019年12月まで東急百貨店東横店の3階にホームがあり、乗車と降車のホームが分かれていた。
なお1977年4月から翌78年8月にかけて東急新玉川線(のちの田園都市線)と東京メトロ半蔵門線のホームが地下にできる。新玉川線の渋谷駅ができたあと、半蔵門線の線路ができたのだ。
“20世紀終わりころまで”の渋谷駅が使いやすかったか、というと私はそうではなかったと考えている。それぞれのホームが入り組んでいることに変わりはなく、移動も必要だったからだ。東急東横線と京王井の頭線の乗り換えも、めんどうなことに変わりはなかったはずだ。
ただ、駅に乗り入れる路線が増え、ホームが増えたり移動したりということがあり、その工事の影響で余計に複雑になっていったということは言えるだろう。たとえば、埼京線のホームが新設されたりという動きからも、渋谷はどんどん変わっていった。
各社の事情に振り回される渋谷駅
渋谷区と渋谷駅を使用する各鉄道会社が、駅周辺の利便性向上と再開発のために駅をいじるようになったというのが長い間続いている。もちろん、その中心となっているのは渋谷区と東急グループである。
2008年6月に東京メトロ副都心線の渋谷駅が開業、2013年3月に東急東横線が地下化され、直通運転するようになってから長い大変化の期間が始まる。
東急東横線のホームを地下にすることで、元のホームに空間ができた。そこで「遠い」とされていた埼京線・湘南新宿ラインのホームを、現在の位置に移設。その計画と合わせて、山手線のホームも狭い2面2線から、広い1面2線のホームに変えることになった。
さらに、駅周辺の再開発も同時に行われることになった。東急東横店の建て替えとともに改良することになったのは、百貨店内3階に設けられていた東京メトロ銀座線のホームである。
ちなみに、地下鉄である東京メトロ銀座線のホームが地上3階にあるのは、渋谷が谷底にあり、表参道からまっすぐに進むと地上に出てしまうからだ。当時の技術では谷に合わせて地下を進むことは困難だった。東京メトロの前身で、営団地下鉄の前身の1つ、東京高速鉄道(もちろん東急グループだ)がここにホームを設け、百貨店と併設させたのである。
この東京メトロ銀座線ホームは、ラッシュ時に人でいっぱいになってしまうという欠点があった。この改善は、渋谷の再開発(具体的には、東急東横店の取り壊し)と合わせるしかなかった。
こういった“各社の事情”をもとに工事が続いているために、利用者は遠回りなどを余儀なくされている。かくして渋谷駅は、「不便な駅」の汚名を着せられることになった。
渋谷駅の未来は?
今後も、JR東日本の駅周りの整備や、渋谷スクランブルスクエアの全棟開業に向けた工事などが行われる。
渋谷スクランブルスクエアは2027年度に開業を予定しているという。となると2028年3月あたりに渋谷駅の整備は一旦終わるだろう。まだまだ先は長い。しかし、今行われている整備が終わったら、人の流れはスムーズになる予定である。
渋谷の各「層」にあるホームの間の行き来は、「アーバンコア」と呼ばれる多層階をつなぐ縦導線の仕組みによって格段に便利になる。もちろん同一フロア間の移動が便利になるような工夫もほどこされていて、余計な移動をしなくても済むようになる。
乗り換えの動線は短縮され、使いやすい駅になるだろう。ただ、「谷地にある各方面から鉄道が集まる駅」である渋谷駅の基本的な構造は変えられない。その制約の中で、「現在よりは」移動がしやすくなるというのが渋谷駅の未来の姿である。