虐殺の真実、ナチス戦犯の最期、根深い女性差別 イラン発『熊は、いない』ほか9月に観たい骨太“社会派”映画5選

『熊は、いない』©2022_JP Production_all rights reserved

世の中の根深い社会問題を浮き彫りにする骨太映画たち

世界三大映画祭ほか主要映画祭にて高く評価され続け、イラン政府に映画制作を禁じられながらも圧力に屈せず映画撮影を続けるジャファル・パナヒの最新作『熊は、いない』が、2023年9月15日(金)より全国順次公開となる。

世の中には私たちが知るべきことが山ほどあり、それらを学ぶ機会の一つとして映画がある。ということで、常にイランの厳しい現実を世界へ伝え続けてきたパナヒ監督待望の新作『熊は、いない』と併せて、根深い社会問題を浮き彫りにする“社会派映画”5作品を紹介したい。

ヴェネチア国際映画祭 審査員特別賞『熊は、いない』

イラン政府に映画政府を禁じられながらも圧力に屈せず映画撮影を続けるジャファル・パナヒ監督の最新作。リモートで極秘に映画撮影をする映画監督が、撮影で訪れていた小さな村で起きたあるトラブルに、監督自身が巻き込まれていくストーリー。

パナヒ自らが映画監督役として主演をつとめ、監督を軸に迷信や圧力、社会的な力関係によって妨げられる2組のカップルに起きる想像を絶する運命を描いている。事実と虚構を織り交ぜ、規律が厳しいイランだからこその隠喩がそこかしこに散りばめられた、フィクションとノンフィクションのハイブリッド作品だ。

2つの物語から浮かび上がるのは、女性蔑視や宗教的な原理主義など、イランを襲っている暴動の現状。当然の自由を求める者と、規律を保守する側の軋轢だ。完成後、パナヒ監督はイラン政府に再び拘束されるも、本作は見事ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞した。

9月15日公開 監督:ジャファル・パナヒ

虐殺史100年、疑念の国葬、ナチス戦犯処刑、差別と女性記者

「朝鮮人虐殺」はなぜ起こったのか?『福田村事件』

数々のドキュメンタリー映画を作ってきた森達也による、自身初の劇映画。題材は、1923年9月1日に発生した関東大震災、その発災から5日後、千葉県福田村で起こった実際の虐殺事件。行商団9人が地震後の混乱の中で殺された。彼らはなぜ殺されたのか、村人たちはなぜ彼らを殺したのか――関東大震災時に各地で起きた「朝鮮人虐殺」、そして朝鮮人に限らず“善良な人々”が虐殺された日本の負の歴史をつまびらかにする。

9月1日公開 監督:森達也

最重要ナチス戦犯の“最期”を描く『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

最重要ナチス戦犯のアドルフ・アイヒマン処刑までの最期の日々を、史実を基に描いたヒューマンドラマ。処刑後アイヒマンの遺体を焼却するため、秘密裏に焼却炉の建設が進められる。宗教的・文化的にも火葬を行なわないイスラエルで、この“世界史の大きな節目”に深く関わることとなった焼却炉を作る工場の人々、そこで働く13歳の少年、アイヒマンの刑務官、ホロコーストの生存者である警察官、市井に生きる人々を通してこれまで描かれることのなかったアイヒマン最期の舞台裏がドラマチックに描かれる。

9月8日公開 監督:ジェイク・パルトロウ

あの“国葬”は何だったのか?『国葬の日』

2022年9月27日――安倍晋三元首相の国葬が東京・日本武道館で執り行われた。その賛否を問う世論調査の結果は、各社ともおおよそ賛成4割、反対6割。 なぜ人々の意見はかくも激しく対立したのか? あの国葬は、果たして何だったのか?

国論を二分した国葬の当日、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』の大島新監督が、全国10都市――東京、山口、京都、福島、沖縄、北海道、奈良、広島、静岡、 長崎でキャメラをまわし、人々の姿を記録したドキュメンタリー。

9月16日公開 監督:大島新

カーストや差別に怯まず取材を続ける『燃え上がる女性記者たち』

インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、アウトカーストとして差別を受けるダリトの女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」。独立した草の根メディアとして、大手メディアが注目しない農村の生活や開発など地方自治の問題を報道し続けてきた「カバル・ラハリヤ」は、紙媒体からSNSとYouTubeの発信を主とするデジタルメディアとして新しい挑戦を始める。

ペンをスマートフォンに持ちかえた彼女たちは、貧困と階層、そしてジェンダーという多重の差別や偏見、さらには命の危険すらある暴力的な状況のなか、怯まず粘り強く小さな声を取材していく。各国の映画祭で絶賛されたドキュメンタリー。

9月16日公開 監督:リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ

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