“消える高齢者”問題 認知症による行方不明が全国的に急増【現場から、】

社会問題として注目されている“消える高齢者”について考えます。“消える高齢者”問題とは、社会の高齢化に伴い、認知症による行方不明が全国的に急増していることを指します。

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静岡県内でも2022年の1年間で283人が認知症により行方不明となっています。今回、その実情を取材しました。

<84歳の妻>
「おかえり」

<ヘルパー>
「ただいま」

静岡県磐田市に住む87歳の男性。5年ほど前に認知症を発症しました。2人で暮らす妻が介護をしています。男性は認知症を患いながらも、足腰は健康。

<87歳の男性>
「お母さん、お客さん来たで、ちっと」

少し聞き取りづらい時もありますが人と話すことは大好きです。しかし、男性は「徘徊」の症状が深刻です。妻に何も告げず、家の外に出た男性。

<87歳の男性>
Q.どこに行かれるんですか?
「友達の…」

そのまま、出かけていってしまいました。家から夫がいなくなったことに気付いた妻が呼び止めます。男性は、これまでに10回近くも行方不明になりました。

自転車で出かけ、50km以上離れた場所で発見されたこともありました。

<84歳の妻>
「牧之原で見つかった時は道端で寝てたそうです。いつも、けがはしてくるんですね。急ブレーキをかけるもんだから、握ったまま前のめりに転がるもんだから、顔とか手のところ、すりむいて来たり」

警察庁によりますと2022年の1年間に警察に届け出があった認知症の行方不明者の数は全国で1万8709人。統計を取り始めた10年前と比べるとほぼ倍増しています。(2012年9607人)

静岡県内でも2022年の1年間で283人が認知症により行方不明に。その数は増加傾向にあり、2023年に入ってから7月までの7か月間ですでに195人が行方不明となり、そのうち12人が死亡後に見つかったということです。

<静岡県警人身安全少年課 近田和弘課長補佐>
「川に落ちているだとか海に落ちているとか事故死的なケースが多いですね。転落死とか持病で畑の中でうずくまって亡くなってるとか。なかなかいなくなったと分からないですから。その辺も行政と連携していかないと警察としても太刀打ちできないという現状にあります」

長年、男性に連れ添ってきた妻。目を離さないよう気をつけていますが、自身も高齢のため、不安は尽きないといいます。

<84歳の妻>
「これから先どうしたらいいのかね。(夫に)『デイサービスにお父さんあそこに泊まって、もっとずっといれば』と言うと『嫌だ』って」

認知症によって行方不明になった高齢者をいち早く保護するため行政も対策を講じています。

<磐田市高齢者支援課 寺田亜矢さん>
「磐田市ではこちらのオレンジシールを配布しています。靴のかかとに貼ったり、洋服とか帽子とかバッグなんかに貼っていただいて使ってもらっています」

オレンジシールは、行方不明になるおそれがある人の情報を自治体が番号に紐づけて登録することから始まります。行方が分からなくなってしまった時は、その番号に基づき、自治体から住民に行方不明者の情報が発信されるという仕組みです。

<磐田市高齢者支援課 寺田亜矢さん>
「周りで見守ってくださる市民の方にもオレンジシールの存在を知っていただくことによって普及していくのかなと思います」

増え続ける認知症による行方不明者。高齢化社会を生きる私たちが今、向き合わなければいけない社会問題です。

<井手春希キャスター>
ご夫婦は2人ともご高齢で認知症と向き合っていることで、計り知れないご苦労があると思います。

<山口駿平記者>
今回、取材した男性は自転車で徘徊をしていたということですが、警察によりますと、車で徘徊をして県境を跨いでしまう人も多いそうです。この場合、捜索がかなり困難になってしまいます。

<井手春希キャスター>
オレンジシールを私は初めて知りました。これが広く知られること、そして身につけている人を見かけた場合は「おや?」と気にかけることが大切ですね。

<山口駿平記者>
徘徊をしてしまう方の中には自分が認知症だと受け止め切れない人も多くいます。そういった方を見かけた時には本人の自尊心を傷つけないようにして保護することも重要なことです。

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