値上げで販売数量が減少…伊藤園の決算から読み解く、飲料業界の苦難と工夫

連日最高気温が30度を超える真夏日が、2ヵ月以上続くという異常な暑さの中、外出時にはかならず自動販売機で冷たい飲み物を買い求めました。数年前は、ソルティ系の少し甘みがある飲料を好んで飲んでいましたが、その甘さが、かえって喉を渇かせる気がして、今年は麦茶一択で夏を乗り切りました。

子どもの頃の夏の飲み物といえば、冷蔵庫でキンキンに冷やされた麦茶だった、という方も多いのではないでしょうか? 毎晩、母親がやかんで麦茶を沸かして、一晩熱を冷ましたあとで冷蔵庫に入れる、という一連の作業は夏の風物詩でもありました。そんな手間を取らずとも、どこでも麦茶が買える時代。わたし同様に、駅のホームの自販機で麦茶のボタンを押した人は多いのではないでしょうか?


時価総額4,000億円以上!伊藤園の決算発表

この夏のわたしのマスト飲料だった「健康ミネラル麦茶」を販売する伊藤園(2593)の決算発表が、9月1日(金)に行われました。翌営業日に株価は12.3%上昇。時価総額4,000億円以上のそこそこ大きな銘柄にしては、驚きの軽い値動きです。

決算短信を確認しましょう。

画像:伊藤園「2024年4月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

発表された2024年4月期第1四半期決算は、①売上高121,154(百万円)、②前年同期比+7.0%、③営業利益9,992(百万円)、④前年同期比+66.5%。売上の増収率に比べて、営業利益の伸び率が大きく、営業利益率が大幅改善されているのが分かります。営業利益9,992(百万円)は、3ヵ月決算では過去最高益となり、コロナ禍前を上回る利益を稼いだことになります。

決算短信に記載されている当四半期決算に関する定性的情報には、事業別の説明が記載されており、主軸のリーフ・ドリンク関連事業の説明からは、以下のことが読み取れます。

  • 農家の方々と取り組む「茶産地育成事業」によって生産する茶葉を100%使用した「お~いお茶 緑茶」ペットボトル飲料を5月下旬より順次展開。
  • 同ブランドから、爽やかな香りとまろやかな甘みが特長の「お~いお茶 まろやか」を5月に新発売。ちなみにこの商品は、2019年から大学生・大学院生とともに「若者の心をお茶色に染める」をテーマにした「若者プロジェクト」により生み出された製品とのこと。
  • 「TULLY’S COFFEE」ブランドから、新感覚のブラックコーヒー炭酸「TULLY’S COFFEE BLACK&SODA GASSATA」を5月に新発売。 GASSATAというのは、エスプレッソコーヒーを炭酸で割った飲み物で、南イタリア・カラブリア州では半世紀以上も前から親しまれている飲み方だそうです。わたしも一度、飲んだことがありますが、今まで体験したことのない味わい。クセになる人は多い気がします。
  • (わたしの愛する)健康ミネラルむぎ茶が、「最も販売されているRTD麦茶ブランド(最新年間販売量)」実績世界No.1としてギネス世界記録に認定。2023年4月に発売35周年を迎え、累計販売件数が130億本(500mlペットボトル換算)突破したそうです。
  • 麦茶飲料市場は年々拡大している。

売上を伸ばしたいはずの販売チャネルに逆風

決算短信だけでもかなりの情報量ですが、同時に公表されている決算補足説明資料も見てみましょう。

画像:伊藤園「2024年4月期 第1四半期 決算補足説明資料」より引用

①飲料カテゴリー別販売実績
飲料の中では、圧倒的にお茶系の売上比率が高いことが分かります。ただし、販売ケース数は全体的に減少しています。

②飲料容器別販売実績
こちらも小型ペットボトルだけわずかにプラスですが、ほかは前年比で販売数が減少しています。

③リーフ・その他カテゴリー売上増減率
自分で作るタイプの商品は、すべて前年比で販売数はプラス。

④飲料チャネル別構成比
自動販売機の構成費が1pt低下し、前年比で10%減少しています。

飲料メーカーは2022年に続き、2023年も値上げをしており、その影響で販売数量が減少しています。こちらの決算補足説明資料からは、消費者が、割高な缶やペットボトルではなく、割安な、ティーバッグや茶葉で飲料を作る節約志向が垣間見えます。

また、自動販売機での販売は、値引きされないため粗利率が高くなり、メーカーにとってはもっとも売上を伸ばしたい販売チャネルですが、残念ながら思うように伸びていません。節約とエコのふたつの観点から、マイボトル派が増えていることも逆風なのでしょう。

伊藤園の決算資料からは、飲料業界の苦悩と工夫が垣間見えます。原材料高による価格転嫁は必須であるため、それによる販売数の減少をいかに防ぐか、また多少価格が高くても、リピート買いされるような魅力的な商品を提供できるか、そのふたつが大きな課題のようです。

思いのほか好調だった第1四半期決算をうけて、株価はだらだら続いた下降トレンドから反転の兆しを見せています。営業利益の上期予想に対する進捗率は79.9%。第1四半期にやや利益が偏重しやすい季節性を差し引いても、上方修正期待を持てそうです。

画像:TradingViewより

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

© 株式会社マネーフォワード