【戦争=原爆だけじゃない】赤字覚悟で『戦争の記録』を伝える1児の母 身銭を切った行動の熱意に迫る

8月6日は広島被爆の日。今年、被爆から77年を迎えました。
広島にある原爆ドームや、平和記念館など原爆の悲惨さを伝える施設は残っていますが、年々被爆した際のエピソードを話せる語り手は少なくなっているといいます。

そんな中、「この被爆の記憶を風化させてはいけない」と『平和映画祭』を立ち上げた御手洗志帆さん。御手洗さんが開催した映画祭は今年で12年目を迎えました。
今回は御手洗さんにこの映画祭をはじめたきっかけなどを聞きました。

「映画だったら、色々と感じられるものがある」

御手洗さんの活動の原点はヒロシマ。小学2年生のときに「語り部」から聞いた被爆証言に衝撃を受けました。(御手洗さんより提供)

高校卒業まで広島で育ち、被爆証言を聞くことは何度かあったという御手洗さん。高校卒業後、東京の短大に進学すると、広島にいたときのように、被爆証言に触れる機会が一気に減ったと感じました。

この経験で、御手洗さんは“戦争、原爆について伝えていかなければいけない”、“この戦争の記憶が風化されてしまう”という危機感を感じました。そんなある時、偶然『新藤兼人』という原爆や戦争をテーマにした映画をつくっている広島出身の映画監督を知ります。御手洗さんは、新藤さんの映画を観てみることに。

映画には、被爆後の広島の様子が映っていました。御手洗さんは、日常の中に被爆の爪痕が残っている映画の様子を観て、「映画だったら、戦争について色々感じられるな」と思い、『新藤兼人映画祭』を個人で主催することを決断。(現在は『戦争の記憶と記録を語り継ぐ映画祭』に変わっています)

初回は3日間の開催で1日3回映画を上映し、参加者のトータルは250人ほど。参加者から入場料として1000円をいただいていたものの、経費が入場料だけではまかないきれず、結局5〜60万の赤字。原因は開催ノウハウの不足でした。
御手洗さんは「収支の計算わからないまま、勢いで始めたので最初はすごい赤字でした(笑)」と話します。

コロナ禍での開催に…「ここで歩みを止めてはならない」

2020年、世界はコロナ禍に突入し、大きなイベントは自粛ムードに。

御手洗さんはこの情勢を見て、「映画祭の開催は難しいかもしれない、今辞めるのは簡単だけど、全国の慰霊祭が中止になっている。こういった形で風化がはじまるのでは?」と焦りを感じました。御手洗さん自身、1回辞めてしまうと継続する志を燃やし続けるのも辛いと感じたそうです。

御手洗さんは「本当に開催するべきか?」「辞めるべきか?」を何度も自問自答し、「お客さんがいなくても、続けよう」と映画祭を開催しました。開催に踏み切ったのは、「私自身が辞めたらだめになっちゃう」と強い意志をもったからです。

2022年8月には、生後5か月の息子を連れて映画祭を開催。(御手洗さんより提供)

映画祭を始めての変化

映画祭には過去に著名なゲストとして吉永小百合さん、映画監督の山田洋次さんなどが登壇されています。最初は事務所に手紙を書いたり、FAXで文章を送り出演交渉をしたりしていたそうで、初めは断られることが多かったとか。現在は実績も増え、交渉がしやすくなってきたといいます。

さらに、この映画祭を始めてからの変化は顕著にあったと話してくれました。

1つ目は、この映画祭の認知度が上がり、御手洗さんの思いが世の中に広まったこと。今までは映画祭の内容的に政治的にみられることが多く、誤解を招いていたことも。
しかし、御手洗さんの中では「個人の感情を揺さぶるような映画を観てほしい、政治的ではない、自由な発想で観てほしい」という思いがありました。だんだんと映画祭が認知され、今はより映画祭での説明が簡単になったと話してくれました。

2つ目は、最初の開催から12年経ち、知り合いの被爆者の方、ご登壇された方が亡くなったことが増えたことから、この記憶を残す大事さをより伝えていきたいと感じるようになったこと。トークショーで被爆した方が話した内容を伝える大事さに毎年気づかされているといいます。

3つめは、映画祭のタイトルを「戦争の記憶と記録を語り継ぐ映画祭」に変えた(2020年から)時から。もともと戦争=原爆と思っていたのが、各地の空襲の被害など、数々の記憶があると気づいたそうです。タイトルを変えることで、上映できる作品の数も増え、より戦争について伝える幅が広がりました。

この映画祭は、来年のための開催資金としてクラウドファンディングを毎年行う予定です。「次の世代に受け渡せるような土台を作れるようにしたい」と話してくれました。

「続けてほしい」の声が励みになっています

2021年開催 高校生と戦争と性暴力をテーマにシンポジウムを開きました。(御手洗さんより提供)

この映画祭では毎回アンケートを行っており、「がんばってください」「似たような企画もないので、来年も続けてください」という声が多く寄せられています。このメッセージが御手洗さんの励みになっています。

来場者の多くは60代。もっと若い世代にも興味を持ってもらえたらと思います。

現在、ウクライナとロシアの戦争が続いています。過去の被爆国、日本としては「どうか戦争を止めて欲しい」そう考える方も多いのではないでしょうか。

この映画祭が、戦争を考えるきっかけ、「戦争の記憶を風化してはならない」と奮闘されている方を知るきっかけになれば幸いです。

ほ・とせなNEWS編集部

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