オカルトとカーアクション 当時人気の要素をミックス 問答無用の面白さ 『悪魔の追跡』

飯塚克味のホラー道 第58回 『悪魔の追跡』

映画業界を長く見ていると、「えっ?こんなことがあるの?」ということが、時々起きる。ほとんどの人はどの映画が、どこの配給会社かなんて、気にも留めてないと思うのだが、裏側にいる人たちにとっては、映画とは権利ビジネスで、人気シリーズの映画化権や、過去の名作の権利を持っているかは非常に重要なことである。『悪魔の追跡』の権利元は旧・20世紀フォックス。現在は20世紀スタジオとして存続しているが、『スター・ウォーズ』や『X-MEN』を持っていたがために、ディズニーに目を付けられ、買収されてしまった会社である。多くの旧作はディズニープラスで配信され、見ることができるが、そんな枠に適さない作品も当然ある。その内の一本が本作なのだ。ブルーレイはフォックス時代に発売され、現在も購入できるが、配信もされず、塩漬け状態だった。そんな作品がまさかの劇場でリバイバル公開されることになった。

本作が最初に公開された1975年は、空前の大ヒットを記録した『エクソシスト』(1973)の余韻がまだまだ残るオカルトブーム真っただ中で、『オーメン』(1976)誕生前夜である。また『バニシング・ポイント』(1971)や『バニシングIN60”』(1975)のようなリアルなカーアクションが人気を博していた時代でもあった。この二つの要素をミックスさせるという、安直と言えば安直な企画なのだが、これが奇跡的に功を奏した。映画の神様は、意外なところで微笑みかけてくれたのだ。

物語は、キャンピングカーで休暇に行った二組の夫婦が、たまたま邪教集団が行っていた儀式で、いけにえとして女性が殺されるのを目撃してしまい、絶え間ない追跡を受けるというもの。どんなに振り払っても、行く先々で待ち構えられ、主人公たちが次第に追い詰められていく様が実に怖い。

主演は『イージー・ライダー』(1969)で永遠のアメリカ像をスクリーンに残したピーター・フォンダ。言うまでもなく、父がヘンリー・フォンダ、姉がジェーン・フォンダ、娘がブリジット・フォンダという俳優一家だが、彼ならではの独自の道を歩み、2019年に亡くなった後も、出演作はどれも輝きを放っている。本作の前年に出演した『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(1974)も大傑作なので、機会があればチェックしてほしい。もう一人の主人公はウォーレン・オーツ。『ワイルドバンチ』(1969)や『ガルシアの首』(1974)といったサム・ペキンパー監督作や、ピーター・フォンダが監督した『さすらいのカウボーイ』(1971)にも出演した名優だ。

映画はB級と言えば、その通りなのだが、そこに留めておくにはもったいなほどの面白さが詰め込まれている。89分というコンパクトな時間にギュッと中身をまとめている点も、最近のダラダラした長尺の大作には見習ってほしいところだ。クライマックスのカーチェイスは、カメラのアングルや戦い方など、後年の『マッドマックス2』(1981)が、参考にしたのではないかと思えるようなポイントが随所にあるので、見比べるのも一興だろう。

もし映画館で観て、面白いと思ったら、発売されているブルーレイに収録されている日本語吹替版も聴いてほしい。ピーター・フォンダを『ルパン三世』やクリント・イーストウッドでおなじみの山田康雄が、ウォーレン・オーツを羽佐間道夫が吹き替えていて、実に完成度の高い出来になっている。何を隠そう、自分が最初に観たのはテレビの洋画劇場だったので、この吹替が最初の出会いでもあったのだ。

何はともあれ、問答無用に面白いこの映画、48年ぶりという、せっかくの上映の機会を逃すことはあまりにももったいない。このチャンスを逃したら、スクリーンで観ることはもうないかもしれないのだ。是非、映画館のスクリーンでスピード感あふれる本作を、心ゆくまで楽しんで、震え上がってほしい。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
悪魔の追跡
2023年9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町ほか全国順次ロードショー
配給:コピアポア・フィルム
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