自然市場タスクフォース、自然経済を促進する7つの提言を発表

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アマゾン協力条約機構の首脳会議が8月8-9日、ブラジル・ベレンで開かれ、Taskforce on Nature Markets(自然市場タスクフォース)が最終報告書「Making Nature Markets Work, Shaping a Global Nature Economy in the 21st Century(自然市場を機能させ、21世紀のグローバルな自然経済を形成する)」を公表した。報告書では、自然を経済に織り込むというかつてない転換によって、市場をどのようにして人と地球のために機能するものに変えていくかを示した7つの提言が紹介されている。(翻訳・編集=小松はるか)

過去5年間で、自然を活用した気候変動対策に210億ドル(約3兆724億円)が投じられた。“生物多様性”は、2022年12月に開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)以降、先進的な企業・政府の注目を集めるテーマとなっている。時を同じくして、企業がもたらす自然界へのインパクトを把握、測定し、対策を講じるのに役立つ多数の報告書やツール、フレームワークが登場してきている。

しかし、ネイチャーポジティブな国際金融の実現を促進するNatureFinance(ネイチャーファイナンス)のイニシアティブ「自然市場タスクフォース」(2022年4月に発足)が指摘しているように、自然を持続不可能な形で酷使する経済から転換するための扉は閉ざされようとしている。したがって、これまでのように非常に遅いペースで大転換を進めていては不十分だ。自然市場タスクフォースは、英国政府が2021年に発表した重要な報告書『生物多様性の経済学』(ダスグプタ・レビュー)の結論に賛同し、グリーンウォッシュを防ぐために市場と協力し、より強力な政治的支援のあるガバナンスの枠組みを発展させるよう継続的に求めている。

また自然市場タスクフォースによる報告書は、政策立案者をはじめ市場関係者、市民に向けて書かれており、野心的ながらも実践的な内容となっている。報告書の提言のなかには、食品の一次産品市場におけるトレーサビリティの促進、そして事業者に対して自然や気候変動に考慮するように求めるほか、炭素市場や新興の生物多様性クレジット市場において自然が豊かな国や先住民、地域コミュニティに公正な価格の支払いを保証することなどが含まれている。

ネイチャーファイナンスでマネージングディレクターを務めるジュリー・マッカーシー氏はこう指摘する。

「経済的な意思決定において、適切なガバナンスと共に、自然の価値に適切で矛盾のない価格を付けることはよりネイチャーポジティブな市場を促進することにつながるだろう。そして、自然を保全・回復するために数十億ドルの投資を呼び込み、自然を管理する最前線にいる先住民族や地域コミュニティにも公正に報いることになるだろう」

多様な生物が暮らす生態系が警戒すべき損失状況にあることのほかに、自然を無限で無料のものと捉えて経済的な対策を取らない不適切な管理は、気候危機を加速するだけではない。不平等を増加させ、財政的安定や食料安全保障を弱体化させる。

さらに自然市場タスクフォースは、自然は、気候変動と闘うためのクリーンエネルギーを用いたソリューションを提供するなどして役立ってきた一方で、テクノロジーによる恩恵を受けていないと指摘する。自然市場のトランスフォーメーション(変革)は、地方や地域、国際的な政策インセンティブや規制、新しいガバナンスの枠組みに依存しているのが現状だ。

欧州委員会の経済・社会インパクトグループの議長で「Taskforce on Nature Markets」のメンバーでもあるサンドリン・ディクソン氏は、「自然市場は経済システムの全面的な変革への懸け橋だ。私たちは、自然に価値を置くだけにとどまることはできない。真の変革には、低炭素で自然を活用した解決策によって変化に投資するだけではなく、同時に、現在の金融・経済システムを人や地球、そして発展に、真に寄与するものへと変えていくことが必要だ」と語る。

7つの提言 国際金融活動に自然・公平性に関する目標を取り入れるには

以下の7つの提言は、自然の危機に対する政府や市場によるいかなる解決策も、効果的な対策を考案・実行する上で、自然の管理者、とりわけ自然界の8割を管理する先住民や地域コミュニティの参加なくして成功しないだろうとの認識に立って行われている。

「Taskforce on Nature Markets」のメンバーであり、ブラジル・スルイ族首長のアウミール・ナラヤモガ氏は「先住民が自然市場を設計・管理するという権限のある立場に就くことは基本だ。自然なくして地上に生命は存在せず、持続可能な経済もまた存在しない」と話す。

7つの提言はベストプラクティスをもとに考案された。報告書は、緊急性と決断力を持って、世界規模で変化を加速するよう呼びかけている。

1.経済・金融構造を公正でグローバルな自然経済と整合させる。金融・通貨の政策や規制、貿易・投資ルールを公正でグローバルな自然経済を促進するための必須事項と整合させる。

2.中央銀行と監督当局の政策を整合させる。中央銀行には、金融機関・市場・システムによる取り組みと自然や環境に関する政府・国際政策の公約を整合させるよう求める。

3.公共財政と公正でグローバルな自然経済に必要な条件を整合させる。公共財政管理と生物多様性の国際的枠組みで具体化された自然に関する国際公約を整合させる。

4.食料の一次産品市場において、人や地球に関する説明責任が果たされるようにする。食料の世界貿易を促進する世界最大かつ最も影響力のある自然市場であるため、政策立案者や規制機関に対し、全体的なトレーサビリティ、もたらす影響について透明性を強化するよう義務付けることを求める。

5.自然を管理する人々の経済的利益の向上を確保する。合意した価格で、公平性・持続可能性の観点から整合性の高い生態系サービスを提供するために、豊かな自然を有する主権国家、先住民、地域コミュニティからなる連合をつくる。

6.自然に関連する犯罪(木材の違法伐採など)による悪影響に対処する。バリューチェーンにおいて自然に関する違法行為がないことを証明するために、投資家・金融機関のための要件を定めることで、違法行為の発生率・影響を減らす(自然に関する犯罪は違法な資金の流れの発生源の第3位に入る) 。

7.自然の状態を測定する方法を統一する。自然の総合的な状態を測定する世界共通の取り決めをつくるほか、グリーンウォッシュを回避し、説明責任を果たさせるために必要な基本データを公開して共有する。

私たちには今、企業や市場、経済が機能する方法を根本的に変えることが求められている。そうしたなか、自然市場タスクフォースによる7つの提言は、ポスト炭素経済への移行を支えるより公正でネイチャーポジティブな市場の実現を可能にするものだ。

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