なめてるでしょ お母さんを…女の指図で母が暴行、苦しみ5歳死亡 判決へ ためらう母に女「面倒見ないよ」

さいたま地裁=さいたま市浦和区高砂

 昨年1月、埼玉県本庄市の住宅で男児=当時(5)=を暴行し死亡させ、遺体を床下に遺棄したなどとして、傷害致死や死体遺棄、暴行、監禁の罪に問われた母親(31)と同居人の男(36)の裁判員裁判の判決が8日午後、言い渡される。これまでの公判で浮き彫りになったのは、家庭内で追い詰められて孤立していった男児の姿。両被告の口からは、幼い命が奪われなければならない十分な理由が語られることはなかった。

 事件は昨年3月、県警が本庄市役所から「母子家庭の子どもの安否が確認できない」と連絡を受けたことから始まった。県警は母親と男、男と内縁関係にあった女=傷害致死などで起訴=に事情を聴き、3人が暮らしていた住宅の床下で男児の遺体を発見。司法解剖の結果、男児の死因は後頭部打撲による脳幹損傷と判明した。起訴状などによると、3人は昨年1月18日、本庄市内の住宅内で男児を投げ倒すなどの暴行を加え死亡させ、翌19日に住宅の床下に穴を掘り遺体を埋めたとされている。

■救いなき環境で苦しみ

 「お母さんのことなめているんでしょ」「たたかれないとしゃべれないの?」。暴行が始まったとされている2021年1月下旬、母親は女に促されるまま男児に言い寄り、その後暴行したとされている。

 母親は元夫からの家庭内暴力(DV)から逃れる形で、同月から男と女が暮らす住宅に身を寄せ始めていた。その後も3人は約1年間にわたり、男児をプラスチック製のたるの中に入れたり、逆さづりにしたり、猫用のケージで監禁したりするなど「しつけ」と称した暴行を繰り返した。同宅内に設置されていたペット監視用のカメラには一部始終が記録されており、公判中に証拠として一部の音声が流れると、満員の傍聴席は一層重い空気に包まれた。

 母親の被告人質問や証人尋問によれば、同被告が男児に対して手を上げ始めたのは女宅で暮らし始めるようになってから。同居に当たっての取り決めをまとめた誓約書を作成しており、その中には、男児へのしつけについての記載もあった。女は母親に対して「(男児を)厳しくしつけなければいけない」などと話しており、母親が「厳しすぎる」などと暴行をためらうと「面倒見ないよ」などと暴行を促したという。

 男も被告人質問で「(女が)保育士だったと聞かされていた」として、当時は暴行がしつけの一環だったと認識していたとした。

 本来自分を守ってくれるはずの大人、その中でも特に心のよりどころにしていたはずの母親にまでも虐待を受けていた男児は肉体的な苦痛だけでなく、精神的にも戸惑い、苦しみ、最後まで救いの手が差し伸べられずに亡くなった。

 両被告は起訴内容を認めており、検察側は母親に対して懲役12年、男に対して懲役15年を求刑。悲惨な事件を起こした両被告に読み上げられる主文に大きな注目が集まっている。

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