格闘技界に「新しい時代」到来! 日本待望の“真”の世界王者へ、若松佑弥・秋元皓貴の意外な本音

日本の格闘技界の歴史が大きく変わるかもしれない。3月26日(土)、世界最大級の格闘技団体ONE Championshipの10周年を記念した、史上最大のイベント「ONE X」が開催される。総勢10人の日本人選手が登場する中、2人の若武者が念願の世界タイトルに挑む。これまでにもさまざまな格闘技団体で日本人がチャンピオンになったことはあったが、ONE Championshipのような世界的な団体で2人の世界王者が誕生するとなれば、まさに偉業だ。歴史に名を残す大舞台を控えた今の心境を、若松佑弥、秋元皓貴の2人に聞いた。

(インタビュー・構成=篠幸彦、写真提供=ONE Championship)

若松佑弥「モラエスに勝てば、僕の時代がくる」

――昨年12月の「ONE:WINTER WARRIORS」で中国のフー・ヨンに判定3−0で勝利してONEフライ級2位に上がり、いよいよ念願のフライ級タイトルマッチ、アドリアーノ・モラエス戦です。若松選手はTwitterで「チャンピオンになるまであと何日」とカウントダウンされていますが、どういった心境で一日一日を過ごしていますか?

若松:長いようで、短い感じですかね。試合の準備は、もう十分追い込んできました。あとはケガだけには気をつけて、当日を迎えられればいいという心境です。

――もう試合の準備は整っているんですね。

若松:ここで無理しても変わらないので。今日までやるべきことはやってきました。

――ONEでデビューしてからタイトル戦まで約3年半たちました。ここまでの道のりは長かったですか?

若松:デビューした日はついこの前のようにも感じるし、思ったよりも時が過ぎているなという気もして、いずれにしてもあっという間でしたね。「もうタイトル戦か」と思うけど、でもそんなものだと思います。

――ずっと待ち望んでいたタイトル戦ですが、間近にするとどんな心境ですか?

若松:「ついにきたんだな」と思う反面、「こんな心境なんだ」という感じもします。

――「こんな心境なんだ」というのは?

若松:格闘技を始めた頃の自分にとって、タイトル戦は果てしなく遠いものでした。あの頃、タイトルマッチを戦えるくらいの自分を想像したときは、ものすごく輝いて見えていました。でも実際にここまできてみると、全然普通なんですよ。ただいつものように試合を迎えるだけ。なんていうか、成長しているのかなと思いますね。

――地に足がついた自然体で迎えられているんですね。

若松:そうですね。浮足立ってない。もう「当たり前でしょ」みたいな感じです。当たり前というか、別にもてはやされて急にここまできたわけじゃない。ずっとここを目指して準備してきたので、とっくに覚悟はできているんですよね。

――相手はチャンピオンのアドリアーノ・モラエスです。去年の4月にデメトリアス・ジョンソン(DJ)と対戦して2RのKO勝ち。DJはキャリアで初めてのKO負けだったそうですね。若松選手はモラエスをどう評価していますか?

若松:世間からの評価よりも素晴らしい選手だと思っています。61.2キロ(フライ級)の中では世界屈指で、5本の指に入るファイターだと思います。フライ級というだけで注目されないところはあると思いますけど、本当に強いと思うし、尊敬できる選手です。

――あのDJ戦はどう思いました?

若松:KOはないにしろ、判定でモラエスが勝つと信じていました。それがまさかの2RでKOというのは、もう驚きましたね。本当にやってくれたなと思いました。あの穴がないDJを相手になにもさせていなかった。ONEのフライ級は世界最強だということを知らしめてくれて、感謝しているし、尊敬に値する試合だったと思います。

――その世界屈指のモラエスに勝つことができれば、フライ級の新しい時代になりそうですね。

若松:そうですね。モラエスに勝てば、新旧の入れ替わりになって僕の新しい時代がくると思いますね。

若松佑弥「タイトル戦は落ち着きだけじゃ勝てない」

――先日の記者会見で若松選手は、モラエスに対してトータル的に能力が高い中でもグラップリングがとくに強いという評価でした。前回のフー・ヨン戦では、打撃だけではなく、グラップリングに持ち込む展開も多く見られたのは、モラエスへの意識もあったのでしょうか?

若松:そうですね。一試合でも早くグラップリングの能力を見せて、客観的に見て打撃だけではなく、テイクダウンもできる、ディフェンスもできるというところを証明したいと思っていました。

――確かにフー・ヨン戦は、打撃も寝技も圧倒した判定勝ちだったと思いますが、納得できる内容でした?

若松:倒してほしいという声もありましたが、僕の作戦通りの内容でした。理想的な試合ができたことは自信になりましたね。

――トータルで圧倒できたこともそうですが、終始落ち着いていたのも印象的でした。2019年3月にDJに負けたあと、冷静に確実に勝ちを狙いにいくようDJからアドバイスをもらったそうですね。

若松:そのアドバイスをもらったのが3年前で、それから意識しようと思っても難しくて、冷静な戦いというのにトライできていなかったんですよ。前々回のリース・マクラーレン戦までは片道切符というか、どうなってもいいという気持ちで挑んでいました。

――それがフー・ヨン戦ではようやくトライできるようになったわけですね。

若松:今までとまったく違うことを試してみようと思って、トライしてみました。自分の中ではギャンブルでしたね。でもそれがいい方向に働いて、なにがきても対応できるというくらい地に足がついた感覚がありました。一皮むけたのかなって、自信になりましたね。

――判定のときもすごく冷静に聞いていたような印象でした。

若松:戦っている最中に勝ったという確信があったんですよね。正直、最初に交わった時点で「今日は勝てる」と思いました。だから試合前に考えていた作戦Aでいこうと、それを冷静に遂行しようと思えました。

――逆にフー・ヨンのほうが、浮足立っていたような印象がありました。

若松:僕がDJと試合をしたときのような感じでしたね。フー・ヨンが僕で、僕がDJ。フー・ヨンは一撃で倒したいから力んで興奮してしまって、うまくいかずにどんどん削れていく。それを僕が冷静に勝ちに徹する。3年前のあの戦いの真逆でしたね。

――先日の会見では「モラエスを狩りにいくように」という言葉もあって、タイトル戦に前のめりなところもありましたね。

若松:やっぱり、タイトル戦は落ち着きだけじゃ勝てないと思うんですよ。ディフェンスも考えて、オフェンスも考えて、相手になにかアクシデントがあった瞬間に畳みかける準備もできている。かといって急ぎすぎない。冷静と前のめりなところ、その真ん中でニュートラルな状態ですね。

――もうモラエスと戦うイメージはでき上がっていますか?

若松:でき上がっていますね。それも一つじゃない。殴り合いもできるし、グラップリングのみの試合もできる。MMA(総合格闘技)で上回るつもりです。

――最後にタイトル戦を観戦する皆さんに一言お願いします。

若松:3月26日は僕がチャンピオンになる日です。ぜひPPVを買って、しっかり生で見てもらいたいですね。絶対に勝ちます。

※編注:3月26日(土)開催「ONE X」にて、21時から放送の「GRAND FINALE(第3部)」に登場するアドリアーノ・モラエスvs若松佑弥は、ABEMA PPV ONLINE LIVEにてPPV配信となる。

秋元皓貴「カピタンより、ほとんどにおいて自分のほうが上」

――昨年12月の「ONE:WINTER WARRIORS」で中国最強ともいわれたチュー・ジェンリャンに勝って4連勝を飾り、日本人初のスーパーシリーズ(立ち技)のベルトを懸けて、王者カピタン・ペッティンディーとバンタム級キックボクシングのタイトルマッチを戦います。前回チュー戦の前にインタビューさせてもらった際には、「自分がいまどれくらい強くて、世界のどのくらいの位置にいるのかわからない」という話でした。チュー戦に勝ったことで、なにか見えたものはありました?

秋元:わからないですね。というのも、前回の試合から僕自身が変わった部分もたくさんあるので、またどのへんにいるのかはわからないです。でもチュー戦に勝ったことで、確実に強くなっているという実感がありましたし、さらに自信がつきました。

――強くなった実感というのは、試合のどんなところで感じました?

秋元:一番は試合を完全にコントロールできたというところですね。相手になにもさせず、自分がやりたいことだけをやるというのが理想だと思っています。そういった意味で自分が思い描いていた形がかなりできていたと思います。

――ローキックを中心に終始圧力をかけながら圧倒していましたね。

秋元:予想では相手がもっとパンチを打ってくると思っていたので、そうしたらもっとそのローキックが効いていたと思います。でもローキックから攻めて足を崩すというのは、予定通りの試合内容でした。

――以前、別のインタビューで「自分のレベルが急激に上がっている実感がある」というお話をされていました。それはどういうところから感じているのでしょうか?

秋元:今でもそうなんですけど、まだ自分のファイトスタイルというものが完成していないんですよね。やっぱり完成してしまうと選手は伸びしろが少なくなってしまうと思うんです。でも僕は全然完成していなくて、吸収するばかりで成長を感じやすいんだと思います。

――チュー戦でもその成長は見られました?

秋元:見えた部分もあるし、たくさん課題も見つかりましたね。

――課題というのは例えば?

秋元:確実にダメージを与えている手応えはあったんですけど、ダウンまでつなげられなかったり、KOまでいけなかったりというのは、課題としてあると思っています。どうやったら倒しにいけるかというのは、チュー戦の試合をやりながらもそうですけど、終わったあともずっと考えていましたね。

――その課題を感じながらタイトル戦に向けてはどう準備してきたのでしょうか。

秋元:倒しきれないのは、自分の攻撃が完全に乗りきれていないという部分があると思うんです。その理由は距離感だったり、当て感だったり、タイミングだったりといろいろあると思うんですけど、そこを今回かなり調整してきました。そこを見せられたらいいなと思います。

――先日の記者会見のなかで、チャンピオンのカピタン・ペッティンディーよりも自分のほうがレベルはかなり上だと思うという話がありました。そう思う理由はどんなところにあるのでしょうか?

秋元:試合を見ていても技のバリエーションだったり、スピードだったり、ほとんどにおいて自分のほうが有利だと思っています。ただ、パワーにおいてはカピタンも持っているので、そこはやってみなければわからないところですけど、スピードとテクニックは自分のほうがかなり上だと思います。

秋元皓貴「タイトルはゴールではなくスタート」

――秋元選手にとってタイトルがかかった試合というのは久しぶりだと思いますが、プレッシャーを感じることはありますか?

秋元:正直、あまりないですね。周りに言われて「タイトルがかかっているんだよな」と思うことはありますけど、自分自身でタイトルというものにプレッシャーを感じることはないです。「日本人初のスーパーシリーズ(立ち技)のタイトル」というのも周りに言われてちょっと意識するぐらいで、目の前の試合に勝つことだけに集中していますね。

――前回(チュー戦前)お話を伺ったとき、今すぐタイトルがほしいとか、タイトルに対して強い思いは正直あまりないという話でした。タイトル戦が決まった今でもタイトルに対しての思いは変わっていませんか?

秋元:変わっていないですね。タイトルがかかっていようが、いまいが、「この試合に勝ちたい」という気持ちはどの試合も同じですね。

――ただ、キックボクシングでまだタイトルを取ったことがないというのも前回の話の中ではありました。キックボクシングでのタイトル獲得という意味ではどうでしょうか?

秋元:空手のときもそうでしたが、タイトルというものに執着がないんです。ただ、本当に試合に負けたくない。相手に負けるとか、自分が諦めることが本当に嫌なんですよね。

――では秋元選手にとって、タイトルとはなんだと思いますか?

秋元:タイトルはゴールではなくて、スタートだと思うんです。タイトルは取って終わりではなくて、そこからそのタイトルを守るということが始まるんです。だからタイトルは取ってからがスタートで、今回カピタンに勝つことができればタイトルに対しての意識が変わってくるかもしれないですね。

――そのカピタンですが、パワーを生かしながらかなり前に圧力をかけてくる選手だと思います。タイトル戦ではどんな展開になると予想していますか?

秋元:僕との試合でも前にどんどんプレッシャーをかけてくると思います。それに対して、戦い方のバリエーションはたくさん用意してきています。圧力をかけてくるのに対してカウンターを当ててダウンやKOを狙うというのが1、2ラウンドの展開だと思います。そこを越えたらカウンターを嫌がってプレッシャーをかけてこなくなると思うので、そうなったときの戦いも準備しています。ただ、それよりも相手のプレッシャーをつぶすぐらいの勢いで、自分が圧力をかけて相手のペースを乱すというのが一番安全な勝ち方だと思っています。

――ONEでの初KOをタイトル戦で狙いたいところですね。

秋元:そうですね。ずっと狙ってはいるんですけど、まだそこまで自分を完成させられていなかったということなんだと思います。だからタイトル戦で一発狙いたいと思います。

<了>

日本時間3月26日(土)13時30分から開催される「ONE:X」は、ABEMAでライブ配信される。21時からのGRAND FINALE(第3部)はONE Championshipの10周年を記念し、ABEMA PPV ONLINE LIVEにて初のPPV配信となる。

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