「ONEに出てくる選手は甘くない」日本人初王座目前で臨むハイリスクな一戦、若松佑弥・秋元皓貴が明かす胸中

日本時間12月3日(金)21時30分から行われるONE Championship「ONE: WINTER WARRIORS」に出場するONEフライ級3位の若松佑弥と、ONEバンタム級キックボクシング3位の秋元皓貴。若松は前回のリース・マクラーレン戦に勝ってランク上げを果たし、秋元はジャン・チェンロンとの2連戦に勝ち、その地位を確固たるものにした。そして二人は、今大会に勝てばタイトル戦は現実的なものとして見えてくる。そんな“タイトル戦前夜”となる一戦に、若松と秋元はどんな思いで臨むのか。

(インタビュー・構成=篠幸彦、写真提供=ONE Championship)

チャンピオンはもうタイトル戦を断れない状況になる

若松は前回、リース・マクラーレン戦に勝利し、試合後のマイクパフォーマンスで「フライ級日本人初の王者になる」と宣言。今、もっともタイトルに飢えるファイターの一人だ。

――若松選手は前回、リース・マクラーレン戦に勝ち、タイトル戦への希望を口にされていました。今大会のフー・ヨン戦に対して、若松選手はどんな意味や価値を感じていますか?

若松:タイトル戦を見据えると、この一戦のリスクはすごく高いと思っています。僕の立場からすれば絶対に負けられないし、勝って当たり前なんですよ。でも、もし負けたらこれまでやってきたことが振り出しに戻ってしまう。だから確実に勝たなければいけない。そういうリスクのある試合だと思っています。

――ノーランカーとの対戦というところにはどう思っていますか?

若松:ランカーだろうが、ノーランカーだろうが、誰が相手でも危険だと思っています。ランキングは関係なくて、みんな死に物狂いで相手を倒しにくるので少しも油断はできない。一戦、一戦、過去最高に仕上げていくだけで、誰であろうと気を抜く理由にはならないですね。

――現在4連勝でランキングも3位に上がり、タイトル戦はもうまもなくというところまできています。今ベルトとの距離感はどれくらいだと感じていますか?

若松:遅かれ早かれ、もう1、2戦くらいでタイトル戦はくると思っていて、僕は次だと思っていました。でも今回のフー・ヨン戦を挟んだことで、チャンピオンのアドリアーノ・モラエスはもう断れない状況になると思いますね。もし僕がこの試合に勝ったらもうモラエスはベルトを返上するか、僕とやるしかない。だからベルトはもうすぐ近くだと思います。

――ベルトの獲得経験がない若松選手にとって、ベルトの価値というのはどのように感じていますか?

若松:手にしたことがないのでわからないんですけど、やっぱりベルトがあるのと、ないのとでは人生が変わると思うんですよね。それを手に入れることで、今よりも見える景色の高さとか、見え方が変わるんじゃないかと思っているし、そうなることに期待していますね。

アメリカの武者修行で得たメンタリティ

――今年5月末から1カ月間、アメリカのメガジム「SANFORD MMA」というジムへトレーニングに行かれました。タイトル戦への準備という意味合いもあったんでしょうか?

若松:それもありましたね。あとアメリカがどんなトレーニングをしているのか知りたかった。ONEの相手はアメリカとか、向こうの選手が多いので、それを肌で感じてみたいと思って武者修行に行きました。

――その武者修行では何を得られました?

若松:一つは飛行機に乗って敵地に乗り込むというメンタル面ですね。家族と離れて一人で乗り込むというのは試合と変わらない。だから自分としては試合をしに行くような感覚でアメリカに行きました。環境の変化に慣れることができたのは、今回の修行で大事な経験だったと思います。

――ONEはシンガポールが拠点なので、海外での環境の変化に慣れるのは精神的に大きいわけですね。

若松:僕はすごく大事なことだと思いますね。日本だったら試合直前のファイトウィークに入っても通常の生活なんですよ。でも海外に行くと日常とは違う環境の中で、トレーナーと2人だけでコンディションとか気持ちをつくっていかなければいけない。そこへの慣れや図太さみたいなものは必要だと思いますね。

――今回は武者修行を経て、これまでよりも余裕を感じます?

若松:アメリカは行くだけで丸一日くらいかかったので、それと比べればシンガポールのほうが近いので余裕はありますね。それにONEの試合自体も7回目なので、そういう意味での慣れも大きいと思います。

徹底的にたたきつぶして、タイトル戦につながる内容に

――ONEで7試合目ということですが、ここまでのストーリーは、思い描いたとおりに進んでいる感触はありますか?

若松:最初の2戦に負けた時は「やばいな」と追い込まれていましたけど、そこから4連勝できて、良い流れができていると思います。チャンピオンのモラエスは、僕が最初に負けた2人(デメトリアス・ジョンソン、ダニー・キンガッド)に勝っていて、現在最強とされているんですよ。そこで僕がベルトへの挑戦権を得て勝つことができれば、ベルトを奪うだけじゃなくて最初の2敗も帳消しにできる。だからもうストーリーは出来上がっているんですよね。

――それだけストーリーが出来上がっているからこそ、ここでつまずくわけにはいかないですね。

若松:フー・ヨンがノーランカーだからといって簡単な相手なわけじゃない。甘く見ていると絶対に足をすくわれることになるので、キンガッドとかとやるつもりでいきますよ。この試合だって自分がチャンピオンになるまでのストーリーとしてつながっているので、ちゃんとたたきつぶしてタイトル戦につながる内容にしたいですね。

――ただ勝つだけではなくて、自分の力を誇示する内容にしたいと?

若松:圧倒したいですね。打撃一発でいくだけじゃなくて、寝技でも強くて、MMAとしてトータルで強いっていう場面を見せられたらファンの人たちも楽しめると思うんですよ。

――そんなファンの方たちにどんな期待をしてほしいですか?

若松:もしかしたらファンの方の中には、楽な相手と思う人もいるかもしれない。でもONEに出ている時点で強い相手であるのは間違いないと思っています。ただ、だからこそ、ここで力の差を見せつけて、徹底的にたたきつぶして、「やっぱり若松は強え!」って言ってもらえるような試合にしたいと思います。

今でもタイトルを取れる自信はある でもまだ焦る段階じゃない

一方、秋元は若松のようにベルトを渇望しているわけではない。しかし、胸の内では「まだキックボクシングで世界を取っていない」と、その目線は常にベルトを捉えている。中国最強とうたわれるチュー・ジェンリャン戦は、そのベルトへの物差しの一つとなるか。

――秋元選手の対戦相手は中国最強ともいわれるチュー・ジェンリャン選手です。チュー選手についてはどう見ていますか?

秋元:彼は中国やキックボクシングの世界でも高く評価されている選手ですよね。ランキングに入っているのは僕のほうですけど、自分が上だとは思わず、集中して臨まなければやられる可能性はあると思っています。

――相手からすると3位の秋元選手を食って、タイトルマッチにつなげたいという立場だと思います。秋元選手側からすると、そういう相手はどう感じるものですか?

秋元:全然評価されていない選手がそう考えているならどうなのかなと思います。でも今回のチュー選手はすでに実績もあって評価されている選手で、そう思うのは当然ですよね。ただ、そう簡単にやられるつもりはないですよ。

――前回のジャン・チェンロン選手を倒してランキング3位になり、タイトルマッチが期待されていますが、その前に大きな山場となりそうですね。

秋元:ONEに出てくる選手は誰であっても強いことはわかっていますから。タイトル戦までは厳しい道のりで、そのタイトル戦はさらに厳しいものになります。それは自分がチャンピオンになった後も続くものなんですよ。ただ、それが続くということは、自分がベルトを巻いているということなので、ずっと続けられたらいいと思いますね。

――秋元選手はこれまでWBCムエタイ日本フェザー級のチャンピオンや全世界フルコンタクト空手男子軽量級の世界タイトルなど、タイトルを獲得されてきた実績があります。今、秋元選手はタイトルというものに対して、どのような思いを持っていますか?

秋元:正直、まだONEで早くタイトルが欲しいという気持ちは持っていないです。キックボクシングに転向してからキックボクサーとしてようやく仕上がってきて、レベルも上がっていると実感しているところなんです。

――キックボクサーとしてさらに完成されてからタイトルに挑戦したいということですか?

秋元:ここからどこまで強くなれるのかわからないですけど、その過程でチャンピオンになるのか、強くなりきったところでチャンピオンになるのか。いずれにしても結果的にチャンピオンになれていればいいと思っています。

――タイトルマッチへの気持ちの準備というところもまだ先のところにあるんでしょうか?

秋元:どうでしょう……。自分が今どれくらい強くなって、さっき言った過程のどのへんにいるかわからないんですよね。ただ、今でもタイトルを取れる自信はあります。そういう意味での準備はできていますね。だからと言って焦るような段階ではないです。

周囲は簡単に“大丈夫だよ”と……その言葉は「全然信じていない」

――秋元選手がONEに初挑戦するタイミングでのインタビューで「周りは大丈夫と言ってくれるけど、全然信じていなかった」という言葉が印象的でした。それは自分の中で確信がないと自信が持てないということでしょうか?

秋元:なんて言うんですかね……。常に試合ができる状態をつくってはいるんですけど、対戦相手が決まって、その相手に対して調整できていないといつだって不安ですね。自分が持っているもので、相手に対して何ができて、どう戦うかを調整していくことで、本当に戦える準備が整うんですよ。みんな簡単に「大丈夫だよ」って言うので、今でも全然信じていないですね。

――キャリアでの実績はもちろん、場数もかなり踏んでいると思いますけど、今でも試合に恐怖心はありますか?

秋元:ありますね。試合が怖いとは思わないですけど、いろんな人が期待して、応援してくれているので、それに応えられず、負けるかもしれないという結果に対して恐怖心を抱くことはありますね。

――今回の試合に対して、そういった意味ではどのくらい準備できていますか?

秋元:今言った「負けるかもしれない」という不安や恐怖というのはないですね。あとは疲れを抜けばもう試合ができるというところまで仕上がっています。

世界で評価される選手を倒すことが、世界を取るための自信になる

――チュー選手といえば18連勝中と勝ち続けている選手でもあります。秋元選手もONEの試合も含めるとキックボクシング20連勝という実績があります。勝ち続けられるというのはそれだけの理由があるものですか?

秋元:僕はほとんど国内だけなのであまり偉そうなことは言えないんですけど、彼が世界のトップレベルでそれだけ連勝できるというのは、集中力はかなり高いだろうし、目が良くて、相手の対策をしっかりと練られる選手なんだと思います。

――なかなか隙はなさそうですね。

秋元:ただ、どんな選手であっても空回ることはあるし、自分の経験とか想定したことが当てはまらないことはあるんですよ。そうなれればいいと思っていて、そうなるために試合を組み立てていきたいと思っています。

――では改めて、秋元選手にとってこの試合の意味をどう捉えていますか?

秋元:チュー選手は中国で最強といわれていたり、世界でも高く評価されている選手で、そうした評価されている選手を倒すというそのこと自体に価値や意味があると思っています。

――それは自信につながるということでしょうか?

秋元:正直、僕はキックボクシングで世界を取ったことがないんですよ。でも他の団体で世界チャンピオンを取ったことがある選手と戦って勝ってきました。そうした一戦、一戦が僕にとっては世界を取るための自信になっているし、今回もそういう試合だと思っています。だからここで勝つことでさらに自信を得て、また一つレベルアップにつなげていきたいですね。

――最後に大会を楽しみにしている方々に対して、この試合をどのように注目して見てもらいたいですか?

秋元:相手はすごく強い選手ですけど、1ラウンドから倒しにいきます。それだけじゃなくて、完封するような内容で勝ちたい。そのための準備をしてきました。力の差を見せつけて完勝したいと思うので楽しみにしていてください。

<了>

日本時間12月3日(金)午後9時30分から開催される「ONE: WINTER WARRIORS」は、ABEMAでライブ配信される。 ABEMA ライブ配信ページは【こちら】
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