すばる望遠鏡で活躍した撮像装置「Suprime-Cam」国立科学博物館で常設展示中

「すばる望遠鏡」とは国立天文台がハワイのマウナケア山頂で運用する反射式光学赤外線望遠鏡で、日本が運用する光学望遠鏡としては最大サイズとなる口径8.2mの主鏡を備えています。すばる望遠鏡は20世紀末に稼動して以降、現在も世界的な成果を挙げています。

すばる望遠鏡で星を初めて撮像したエンジニアリングファーストライトは1998年12月のことで、ファーストライト(試験観測)の実施は1999年1月、共同利用観測は2000年12月から始まりました。それ以来、同望遠鏡の主力撮像装置として2010年代半ばまで活躍してきたのが、主焦点カメラ「Suprime-Cam(シュプリームカム:Subaru Prime Focus Camera)」です。このSuprime-Camが現在は国立科学博物館に展示されていて、間近に見ることができるのをご存じでしょうか。

【▲ 国立科学博物館の常設展示に加わった主焦点カメラ「Suprime-Cam」の実機(Credit: 国立天文台)】

Suprime-Camは、いわば巨大なデジタルカメラのような装置で、画素数は合計で8000万ピクセルでした(当時の高性能デジタルカメラの約40倍)。なお、画素数が「合計」で示されているのは、1個あたり4096×2048ピクセルのCCDを10個並べたモザイクCCD構造が採用されていたからです。

このような構造が採用された理由は、口径が10m前後に達する大口径望遠鏡の弱点を補うためでした。大口径望遠鏡は天体からの微弱な光を捉えるのは得意なのですが、視野が狭いことを弱点としています。そこで国立天文台では、天体からの微弱な光を捉えられる性能はそのままに視野を広げる技術として、モザイクCCDを備えたSuprime-Camを主焦点に取り付ける方法を編み出したのです。これにより、満月とほぼ同じサイズの34分角×27分角という広い視野を一度に撮影できる性能が実現しました。

【▲ すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」で最後に観測された棒渦巻銀河「NGC 7479」のカラー画像(Credit: 国立天文台; 画像処理: 田中壱)】

このモザイクCCDをはじめ、巨大な冷却用真空容器に格納されたカメラを主焦点に取り付けるといった技術は、2000年当時の最新技術でした。国立天文台によると、大口径望遠鏡による主焦点観測という手法を最初に実践したのがすばる望遠鏡で、その後は他の大口径望遠鏡でも同手法が採用されていったということです。

しかし、技術は日進月歩で進んでおり、デビュー当初は最新だった技術も時が経つにつれて旧式化していくのが世の常です。天文学の分野でも世界的な競争が行われており、他の大口径望遠鏡も常に性能向上に努めている中で、すばる望遠鏡でもアップデート計画「すばる2」が進められています。

【▲ 国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡(Credit: 国立天文台)】

同計画では4つの新型観測装置がすばる望遠鏡で稼動する予定ですが、一足早く2014年に正式稼動を開始したのがSuprime-Camの後継機となる超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(ハイパーシュプリームカム:HSC)です。HSCは2013年にファーストライトを達成し、2014年から共同利用観測がスタート。それに伴ってSuprime-Camは使用されなくなり、2017年には正式に引退となりました。

ちなみに、HSCはCCDを116個も並べたモザイクCCDとなっており、合計画素数は8億7000万ピクセル、満月9個分の視野を有しています(Suprime-Camの視野はアンドロメダ銀河の一部しか捉えられませんでしたが、HSCは同銀河のほぼ全体を1視野に捉えることができます)。

【▲ すばる望遠鏡主焦点に搭載された「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム:HSC)」(Credit: 国立天文台/HSC Project)】

同じ機械でもクルマなどの場合は、旧車やクラシックカーなどとして愛好家が手入れをしながら古い車種を乗り続けていたり、世界中の展示施設などで保存されたりしています。しかし、望遠鏡の観測装置はなかなか特殊な機器であり、引退後に展示施設で第二の人生を歩めるというのは希なことでしょう。

現在、Suprime-Camは国立科学博物館上野本館の地球館地下3階常設展示「宇宙を見る眼」のコーナーに展示されています。あなたもぜひ、すばる望遠鏡の主力撮像装置として日本の天文学を牽引し、そして世界とも渡り合ってきたSuprime-Camの勇姿を目にしてみてはいかがでしょうか。

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  • Image Credit: 国立天文台
  • 国立科学博物館 \- 「すばる望遠鏡 主焦点カメラ」を常設展示します
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文/波留久泉

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