失明危機・松本光平、壮絶なリハビリからクラブW杯目指す再出発「朝から晩まで歩いて、倒れては吐いて…」

2019年にニューカレドニアのヤンゲン・スポートの一員として、FIFAクラブワールドカップにも出場している「オセアニアのサムライ」こと松本光平。その後、トレーニング中の不慮の事故で失明の危機に陥りながらも、必死のリハビリとトレーニングを経て、再びクラブワールドカップの舞台を目指している。そんな彼が、オークションサイト『HATTRICK』を通じたチャリティーに出品したのが、リハビリ中に着用していたブルーのトレーニングウェア。『ドリブリーゾ』というブランドの商品である。果たして、このシャツにはどんな思い出が刻まれているのだろうか?

(インタビュー・構成・撮影=宇都宮徹壱)

苦しいリハビリ期間をともに歩んだブルーのシャツ

──松本選手はいつから、ドリブリーゾからトレーニングウェアを提供されるようになったのでしょうか?

松本:2019年のクラブワールドカップからですね。ヤンゲン・スポート(ニューカレドニア)に行く前にいただいたんですけど、その時はブルーではなくて蛍光イエローでした。クラブワールドカップが終わって、一時帰国した時にいただいたのが、このブルーのシャツです。今持っているもので、最もきれいな1枚を出品させていただくことにしました。

──松本さんご自身、蛍光イエローとブルー、どちらがお気に入りだったんでしょうか?

松本:僕、特に色にこだわりがないんですよ。スパイクも毎回(色が)違うし、色の好き嫌いもないんです。「はい、これ着て」と言われたら着るみたいな(笑)。ちなみに目の手術のために帰国して以降、リハビリをしている時の映像は、基本的にこのブルーのシャツを着ていました。

同じ警官に「また君か!」。何度も職務質問される日々

──目の手術後、しばらくうつ伏せで寝ている状態を続けてから、ようやく身体を動かせるようになったと聞きました。とはいえ、いきなりボールを触れるわけではなかったそうですね。どんなリハビリから始めたのでしょうか?

松本:それこそ、まっすぐ歩くところからですね。去年の7月の終わりから1カ月、朝から晩までずっと歩いていました。マスクして、サングラスして、しょっちゅう倒れては吐いて……。完全な不審者ですよね(苦笑)。実際、何度も職務質問されましたよ。同じ警官に「また君か!」みたいなことを言われて、こっちも「真面目にリハビリしているので、わかってください」としか言えなかったですね。

──吐くというのは、乗り物酔いに近い感覚なんでしょうか?

松本:まさに、そんな感じです。長い距離を歩くと目が回って、だんだん気分が悪くなってくるんですよ。あと、右目は見えないんですけど、光は感じることができるんです。ただし瞳孔が開きっぱなしなので、眩しいというよりも痛いんですよ。そんな感じで、眩しい晴れの日も、足元が悪い雨の日も、何度も転びながら歩行練習をしていました。これはきれいなやつですけど、リハビリで着ていたシャツはドロドロに汚れてしまいました。

──壮絶の一言ですね。そこまでしてリハビリに励んできたのも、再びクラブワールドカップの舞台に立つという、明確な目標があったからですよね?

松本:そうです。普通にサッカーできるのは3〜4年かかると言われたんですけど、クラブワールドカップに出場するためには、半年でプレーできるように間に合わせないといけない。そのうち、歩くのも吐くのもうまくなって(笑)、今では白い杖があれば普通に歩けるようになりました。あらためて、人間の適応能力はすごいなと。地道に歩行訓練を続けたおかげで、その後のリハビリはわりと順調でした。

何事においても「全力」。自分には、それしかない

──残念ながら2月のクラブワールドカップは、所属するオークランド・シティFCが出場辞退となりました。それでも12月には、今度は日本でクラブワールドカップが開催される予定です。再び夢の舞台に立てたとしたら、このシャツの価値も高まりそうですね。

松本:僕、何でもそうなんですけど、モノに対する執着やこだわりがないんですよ。ですから、これまで所属したクラブのユニフォームなんかも手元に1枚もなくて……。このドリブリーゾさんのシャツだけが、ずっと着続けているし、唯一残っているものでした。このシャツを落札いただいた人がいたら、まったく同じシャツを持っているのは世界で2人だけかもしれないですし、ぜひ一緒に並んで写真を撮りましょう(笑)!

──それ、いいですね(笑)。最後に、サインと一緒に書いていただいた座右の銘「全力」の意味するところを教えてください。

松本:自分は「サッカーはうまくない」って思っています。ちょっとでも手を抜いたら、他の人と対等にプレーできないですよね。全力だったから、何とか生き残ることができました。そして今、こういう目の状態ですから、これまで以上に全力でサッカーに取り組む必要があります。ですから、何事においても「全力」。自分には、それしかないんですよね。

<了>

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PROFILE
松本光平(まつもと・こうへい)
1989年5月3日生まれ、大阪府大阪市出身。オークランド・シティFC(ニュージーランド)所属。ポジションはサイドバック・サイドハーフ。セレッソ大阪U-15、ガンバ大阪ユースを経て、高校卒業と同時にイングランドのユースチーム・チェルシーFCコミュニティに所属し海外経験を積むと、2012-13シーズンにオーストラリアのブリスベン・ロアーFCで海外でのプロキャリアをスタートさせる。その後、ニュージーランドの強豪オークランド・シティ、ホークスベイ・ユナイテッド、ワイタケレ・ユナイテッド、ハミルトン・ワンダラーズと渡り歩く。その間、OFCチャンピオンズリーグに出場するため2017年2月にはフィジーのレワFC、2019年1月にはバヌアツのマランパ・リバイバースと短期契約。2019年11月にはニューカレドニアのヤンゲン・スポートに期限付き移籍し、オセアニア代表としてFIFAクラブワールドカップに出場。2020年5月18日、トレーニング中の不慮の事故で失明の危機に際し、日本に緊急帰国。6月8日に手術を行い、以後懸命にリハビリを続け、2020年12月にオークランド・シティ加入が決定。

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