“社会貢献は人のためならず” 桃田らトップアスリートたちが自ら課外活動に積極的な本当の理由

アスリートの果たすべき社会貢献とは何か? サッカーの香川真司(PAOKテッサロニキ)、バドミントンの桃田賢斗、陸上短距離のサニブラウン・アブデル・ハキーム、スポーツクライミングの楢﨑智亜など、各競技のトップ選手が集うUDN SPORTSは、「アスリートが、社会を変える。あなたと変える。」をメインコンセプトに掲げ、2017年の設立以来、積極的にアスリートの社会貢献活動を行っている。アスリートのデュアルキャリアを考え、サポートする株式会社デュアルキャリアが運営するオークションサイト『HATTRICK』への参加もUDN SPORTSが取り組むアスリートの自発的な社会貢献、競技者と社会をつなぐ活動の一環だ。今回のオークション参加で、児童養護施設への支援を呼びかけるUDN SPORTS所属選手にその思いを聞いた。

(インタビュー・文=大塚一樹[REAL SPORTS編集部]、写真=GettyImages)

世界最強になった桃田賢斗が気付いた社会とのつながりの重要性

新型コロナウイルスが猛威を振るい、アスリート自身も決して小さくない影響を受けている中、UDN SPORTS所属アスリートは、なぜ社会貢献活動を行うのか?

日本人選手として初めて世界選手権を制覇、世界ランキング1位に君臨するバドミントンの桃田賢斗は、「社会貢献は自分のためでもある」とその思いを語る。

「自分はもっともっとバドミントンをメジャーにしたいと思っているんです。今回の新型コロナウイルスの感染拡大という状況もそうですが、自分たちだけじゃなくていろいろな人たち、子どもたちが難しい状況に立たされていると思うんですね。そういうときに、ただ『試合をして勝つ』だけじゃなくて、自分に何ができるか考えることで、自分としても意識を高く持ってこの状況を乗り切れる気がしたんです」

桃田の活躍は、バドミントンの知名度アップ、競技人口増に間違いなく貢献している。男子選手、しかもシングルスでこれだけの成績を残した選手は日本のバドミントン界にはいない。さらに言えば、2018年9月に初めて世界ランキング1位の座に就いてから、王座をキープし続けるという実績は、コロナ禍による中断期間があったとはいえ、オールスポーツを見渡しても歴代最強クラスの日本人アスリートと言っていい。

「自分としては全然そんな意識はないですよ。まだまだ足りないところだらけなのでコツコツできることをやっていきたい」

謙遜する桃田だが、バドミントンの普及、バドミントン、そしてスポーツ、アスリートが社会とつながる活動については、「引っ張っていけるような存在になれたら」と、競技の結果とはまた違うモチベーションを公言する。

楢崎智亜が踏み出した「クライマーの価値向上」への一歩

同じくUDN SPORTSに所属するスポーツクライミングの楢﨑智亜も、自らが打ち込む競技と、社会との関係性を強めることが、競技の普及、オリンピックや世界大会を目指す競技者の未来につながると話す。

「スポーツクライミングが東京五輪の追加種目に正式採用された2016年に僕も世界選手権で初優勝できてメディアにも取り上げてもらう機会が一気に増えたんです。自分でも運がいいなと思っていて、正式種目採用後は、クライミング人口も増えましたし、ユースの大会を見ていても競技レベルが上がってきているのを実感しています」

オリンピック種目に採用されたタイミングで楢﨑の世界選手権優勝、ワールドカップ年間総合優勝、さらに野口啓代、野中生萌ら女子選手も含めた日本人選手の活躍があり、一気にメディア露出が増えたスポーツクライミング。ボルダリングが運動不足解消のDoスポーツとして注目を集めていたこともあり、急激に知名度を上げていった。楢﨑は、「トップ選手ががんばり続けて結果を残すことで裾野が広がる」と激変したスポーツクライミングを取り巻く状況を振り返りつつ、注目を集めている中で社会貢献を行う意義についてこう話す。

「社会貢献活動というか、こういう困っている人に貢献できたり、自分たちが誰かのためにできることをすることは、スポーツ自体の価値を高める行為だと思っているんです。今までスポーツクライミングはこういう活動に全く参加してこなかったわけじゃないですか。アスリートが社会に貢献する活動にクライマーが参加することで、クライマーの価値も上がっていくと思うんです。これは競技を一生懸命やっているクライマーみんなにとってすごく大きな一歩じゃないかなと思っています」

桃田も楢﨑も、「世界一」という競技での究極の目標を一度は達成した選手にもかかわらず、結果だけでは得られないスポーツの価値の向上、自分たちが打ち込む競技の存在意義や新たな価値の創出に目を向けている。

「自分が興味を向けていなかっただけかもしれませんが、バドミントン界ではそれほど社会貢献やチャリティーに積極的な選手っていなかったんですよ」

桃田が振り返るように、桃田自身、社会貢献に目が向いたのはUDN SPORTSにジョインしてからのことだったという。

「なんとなく何かをしたいという意識はありましたが、UDNにはいろいろな競技の選手が所属していて、そこに関わる人、サポートとしてくれるファンの人も、年齢層も含めていろいろな人がいる。競技単体、一個人ではなく、UDN SPORTS全体が一つのチームとして恩返しができるのは大きいなと。そこから自分にできることをいろいろ考えるようになりました」

楢﨑は、「一つのきっかけ」としてアメリカ人選手の活動を挙げる。

「アメリカの選手は社会貢献活動に積極的な選手が多くて、どんなことをしているのかを聞いて僕も興味を持ち始めたのがきっかけです。ある選手は、自分の年収の数パーセントを寄付すると決めて競技に臨んでいるというのを聞いて、スポーツは見てくれる人、応援してくれる人がいて初めて成り立つという当たり前のことに改めて気付かされたんです」

サニブラウンが感じた「アメリカでの当たり前」

同じくUDN SPORTSに所属する男子100mの日本記録保持者、サニブラウン・アブデル・ハキームも、現在本拠としているアメリカのアスリートの姿に影響を受けているという。

「競技の面でもアメリカの選手たち、コーチから知識も含めていろいろなことを得ていますが、練習だけじゃなくて、練習外の体のケアや食生活一つひとつが自分の最高のパフォーマンスにつながっているという意識が強いんですね。競技での結果は、自分の生活が作り上げているという考えなので、社会貢献活動もチャリティー活動も、当たり前、普通のことで、生活の一部という感じなんです」

新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)され、昨年は大会はおろか練習もままならない時期もあったというサニブラウンは、UDN SPORTS所属選手が取り組むUDN FOUNDATIONのプロジェクトの一つで、コロナ禍で誰もが不安を抱えていた2020年5月に立ち上げられた『「#つなぐ」プロジェクト』を通じて、自らの貢献が人々の笑顔につながることを実感した。

UDN SPORTSは志を一つにするアスリートの共同体

『「#つなぐ」プロジェクト』は、全国の子どもたちや医療従事者、各選手の縁のある地域にマスク20万枚とUDN FOUNDATIONの活動の証しであるリストバンド、そして選手のメッセージが入ったレターを配布するプロジェクトだ。

「『「#つなぐ」プロジェクト』では、今まで普通につながっていた人たちと直接的につながれなくなってしまった人たちが、心のつながりを持つきっかけになればと思って始めた活動なんですが、このプロジェクトはもちろん、僕自身もコロナ禍で活動を制限されてしまった中高生のみなさんとお話ししたりする中で、『元気が出た』と言ってもらえたことが心に残っています。その言葉に自分自身が一番元気付けられましたし、学ぶことも多かった。こういう活動を一つひとつ大事にしていかなきゃなというのは感じましたね」

サニブラウンが語るように、株式会社UDN SPORTSは、アスリートのマネジメント事業を中心に活動するいわゆるマネジメント会社でありつつ、スポーツ、自らが打ち込む競技と社会のつながりに必要性、重要性に気が付いたアスリートたちの共同体でもある。

「所属選手の中では、僕自身、選手としてまだまだという思いもあるので、影響力の面で『まずは競技』と、一歩引いてしまっているところもあったのですが、コロナ禍を経て自分の思いを届けたいと強く思うようになりました。UDNのメンバーしかできない社会貢献に積極的に参加して、世の中を少しでも明るくできたらなと考えています」

緊急事態宣言下で自分の「自分に何ができるんだろう?」と自問した橋岡は、競技の結果を追求するだけでなく、「メッセージを送る」ことの意義に気付いたという。

「何か特別な活動をするときだけではなく、今はSNSもありますから、自分のコンディションとか取り組みを発信する際に、見てくれる人を少しでも元気付けられるようなメッセージが届けられるといいかなと思っています」

同じく、「影響力のある選手がたくさんいる中で刺激を受けている」と語るのは、元陸上選手のスピードを生かし、競技歴1年半でラグビー女子日本代表入りした大竹風美子だ。

「アスリートとして刺激を受けるというのもそうなんですけど、UDN所属の選手たちのプレーを見て素直に感動したり、『スポーツの力ってこういうことなんだ』と実感したりすることもあるので、自分もそういう感動やポジティブなパワーをみんなに伝えたいなと思っています」

大竹の取材中、女子サッカーの日テレ・東京ヴェルディベレーザ(当時)に所属する長谷川唯が皇后杯全日本女子サッカー選手権4連覇が決まった。

「仲間の活躍は本当にうれしいし、誇らしい。他競技の女子選手と話す機会もこれまではなかなかなかったので、機会があれば話してみたいし、自分もがんばろうと思える」

さまざまな競技でUDN SPORTS所属選手が活躍することで、相乗効果を得ている。さらにその競技の現状の注目度にとらわれない視野を得る機会にもなっている。

さらに、今年2月に前十字靱帯を痛める大きなけがを経験し地元開催のオリンピックを前に競技から遠ざかるという辛い状況にある大竹に対し、「大竹さんのけがを聞いたとき、自分のことのようにショックだった。仲間として自分が全力でプレーすることで何か少しでも彼女の希望になってほしい」(長谷川)、「私も同じ前十字靭帯をけがした経験があり、当時は非常につらかったので、大竹さんの気持ちがわかります。ただ、それで選手生命が終わるわけではないですし、私の経験で何かできることがあればサポートしたい」(湯田)というように仲間を気づかい、支え合っている。

持続可能な未来のために……UDN SPORTS×デュアルキャリアが起こす化学変化

今回UDN SPORTS所属アスリートが参加するオークション『HATTRICK』を運営する株式会社デュアルキャリアは、「アスリートの持続可能な未来をつくる」ことをミッションに掲げている。UDN SPORTSも契約アスリートが商品をプロデュースし、売り上げの一部を次世代の育成や社会貢献活動に充てる社会貢献型のブランド『SHIFTH(シフス)』をスタートさせるなど、アスリートが持つ社会的な影響力をよりよい社会のために行使すること、ファンやサポーターとのつながりをよりソーシャルなものにしていこうという意識を持って活動している。

ベレーザからイタリアの名門ACミランに移籍し注目を集めている長谷川唯は、UDN SPORTSの持つ多様性が、アスリートの影響力を高め、多くの人を「巻き込む」ことができると実感しているという。

「競技にかかわらず影響力のある人たちが多いので、それぞれの発信を通してたくさんの人を巻き込んでいけるのが強みかなと。一緒に『「#つなぐ」プロジェクト』などの活動に参加したことは、自分にとってすごくプラスになりました」

自分一人ではできないこと、限られた競技だけでは届かないことを社会に届けたい。長谷川は、「サッカー選手としてだけでなく、一人の人間として地域や社会に貢献できる活動を通して憧れられる存在になりたい」と語る。

競技で結果を残すという目標に加えて、自分たちが人生をかけて取り組んでいるスポーツが社会にいい影響を与えることができれば、競技やそれに打ち込むアスリート、そして社会もよりよくなっていく好循環が生まれる。社会貢献活動やチャリティー活動は、「誰かのため」になるだけでなく、巡りめぐって自らの競技、スポー界、そしてアスリート自身に還ってくる。

ホッケー女子日本代表でプレーする湯田葉月も、自身のプレーするホッケーを多くの人に知ってもらうこと、そして子どもたちのプレー機会をつくることと「社会貢献」というUDN SPORTSのビジョンが重なり、所属の決め手になったと話す。

「これまでチャリティ―活動に参加したことはなかったのですが、UDNが取り組む社会貢献について考えたときに、子どもたちへのクリニック、ホッケーをプレーしたりスポーツに親しむきっかけづくりは是非やりたいことだなと自分ごととしてとらえることができました」

ホッケー女子日本代表は、アテネオリンピックで初めて出場権を獲得。その際に大きな注目を集め、著名人やスポンサーのサポートを受けて北京、ロンドン、リオデジャネイロと連続でオリンピック出場を果たすなど躍進を果たした。リオオリンピックに出場している湯田も周囲のサポートへの感謝の気持ちは強い。

「日ごろから支えてくれている人に、自分ができることを少しずつ返していけたらいいなといつも思っています。アスリートとして、プレーで感動や勇気を与えることはもちろん、サポートに応えるためにも社会に貢献したい」

今回のチャリティーオークションには、バドミントンの桃田賢斗、陸上界からは男子100mサニブラウン・アブデル・ハキーム、男子走幅跳の橋岡優輝、スポーツクライミングの楢﨑智亜、サッカーの長谷川唯、ラグビーの大竹風美子、ホッケーの湯田葉月の7人のアスリートが趣旨に賛同し、参加、出品する。

UDN SPORTS所属のアスリートたちは、今回参加する7人の選手だけでなく、競技を越えた交流の中で互いに刺激を受け、さらにスポーツの枠を越えた社会性を身に付けることの重要性に目を向け始めている。

「アスリートが、社会を変える。あなたと変える。」

UDN SPORTSが打ち出しているメッセージは、アスリート自身の変革がスポーツ界の変化につながり、社会にいい影響を与える。ファンやサポーターは、アスリートがそうした役割を果たすための重要なパートナーということなのかもしれない。

<了>

“アスリートとスポーツの可能性を最大化する”というビジョンを掲げるデュアルキャリア株式会社が運営する「HATTRICK(ハットトリック)」と、アスリートの“リアル”を伝えることを使命としたメディア「REAL SPORTS(リアルスポーツ)」との連動企画として、【REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション】を開催。

入札ページ:

© 株式会社 REAL SPORTS