「きっかけは2011」“なでしこジャパン”のエース 岩渕真奈が「勝負服」にかける想い

日本人にとって忘れることのできない2011年。東日本大震災による深刻な被害を受けた日本に光をもたらしたのが、FIFA女子ワールドカップ ドイツ大会で大躍進を遂げた“なでしこジャパン”の姿だった。あれから約10年ほど経ったいま。日本のみならず世界中が新型コロナウイルス感染症という未稀有の危機にさらされている。

このような状況下で「自分たちにできることとは何か?」と多くのアスリートが問う中で、2011年から現在もなでしこジャパンの中心選手として活躍する岩渕真奈は、感染症対応に尽力する医療従事者の方々に対する支援に向けてオークションサイト『HATTRICK』を通じたチャリティー活動に参加することを決めた。“あの頃”を振り返りながら、医療従事者への想い、チャリティー活動を行う理由について語ってくれた。

(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介、写真提供=FF)

「応援してくれる人たちのために何かしたい」という想いが強くなった「2011年」

――スポーツ界においてコロナ禍の状況が続く中、競技ができない時間にはどんなことを考えてましたか?

岩渕:アスリートたちが皆さんに何をもたらせているのか分からないですけど、自分たちって本当にいろいろな人のおかげで競技ができているんだなっていうことをあらためて感じるようになりました。

――厳しい状況の中でさまざまな競技が試合を開催するにあたって、現場にはこれまでにないストレスがかかりながら、それでもちゃんと試合を開催できる日本ってすごいですよね。

岩渕:日本人だからできるんだろうなというところもあると思います。

――こういった現状において、今回オークションサイト『HATTRICK』を通じたチャリティー活動に参加しようと思った理由は?

岩渕:試合を見て「元気をもらえました」ってSNSへメッセージをいただくこともあるけど、試合ができない時にも皆さんに対して力になれることがあれば、できる範囲でやりたいと考えています。それをきっかけに応援してくれる人が増えることもあるかもしれないし、試合を見てもらえる機会が減ってしまった中、こういった活動はいまの自分にとって大事なことだと思いました。

――チャリティ―活動に関心を持つようになったきっかけはあったのですか?

岩渕:きっかけはやっぱり2011年。3・11の東日本大震災があった年に(FIFA女子)ワールドカップ(ドイツ大会)で優勝できた時、日本の皆さんからすっごくパワーをもらったので。それが、応援してくれる人たちのために何かしたいという大きなきっかけの一つだったと思います。

あの時から応援してくれる人が増えたり、感謝の言葉を被災地の方からもらったりするようになって。自分はただ好きで楽しくサッカーを頑張っているだけで周りの人たちにそんなふうに思ってもらえるなんて、とってもいいなと思ったので。

――自分の行動が、結果的に日本中に元気を与えられるっていうのは素晴らしいですね。

岩渕:そうですね。

――ヨーロッパでは日本よりもチャリティーや社会活動に積極的な印象ですが、海外でプレー経験のある岩渕選手から見て、刺激を受けたことはありましたか?

岩渕:バイエルン(・ミュンヘン)にいた時には、病院で入院している子どもたちにクラブのグッズを配りに行ったりしましたけど、当時は自分も必死だったのであまり他の人たちがどんな活動をしているのか気づけていませんでした。でもやっぱりSNSを見ていると海外の有名選手はチャリティーだけでなくいろいろな活動をしているので、やっぱり刺激にはなります。

――そういう意味では最近、岩渕選手を含めさまざまなアスリートたちが積極的にSNSで発信するようになりましたよね。

岩渕:もともとはSNSやりたくない派だったので、人に誘われていやいや始めたんですけど(苦笑)。でもやっぱり発信することで自分のことを知ってもらえるし、応援してくれてる人たちの気持ちも知ることができるツールとしてはめちゃめちゃいいなと感じています。なので、イギリスにいる間も継続して活用していけたらいいなと思います。

「勝色」ユニフォームへの思い入れと医療従事者の方々への想い

――今回出品されたユニフォームの思い出を教えてください。

岩渕:このユニフォームを着始めた2018年の(AFC女子)アジアカップ(ヨルダン)では優勝、大会フル出場、MVPに選ばれて一番自分が輝けた時です。

――まさに岩渕選手が代表で絶対的エースとして大活躍し始めた時期ですね。岩渕選手はこのコロナ禍において、これまでもチャリティーオークションなどでユニフォームを出されていますよね?

岩渕:新型コロナウイルス感染症対応に尽力する医療従事者の方々に対する感謝の気持ちを伝えるために、最初は「拍手を送ってください」とか「コメントを下さい」ということを頼まれたんですけど、もっとできることないかな? と考えていた時に、家の片づけをしていたらユニフォームがいっぱい出てきて。それでこれらをチャリティー支援につなげられないかと考えるようになったんです。

これまでに着たユニフォームは自分自身でいくつか持っていて、仲の良い友人たちにあげたりすることもあるんですけど、自宅に置いておくよりは寄付することで誰かのためになるなら、役立てたいなと。

――医療従事者に対する岩渕選手の思いを聞かせてください。

岩渕:本当に大変な仕事だと思うんですよ。自分の生活にもいろいろなことを我慢して制限をかけながら働いてくださっているわけですし。コロナ禍でなくても自分はできない仕事だなって思うので、だからこそなおさらすごいですよね。本当に感謝の思いしかないです。

<了>

“アスリートとスポーツの可能性を最大化する”というビジョンを掲げるデュアルキャリア株式会社が運営する「HTTRICK(ハットトリック)」と、アスリートの“リアル”を伝えることを使命としたメディア「REAL SPORTS(リアルスポーツ)」との連動企画として、【REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション】を開催。

PROFILE
岩渕真奈(いわぶち・まな)
1993年生まれ、東京都出身。アストン・ヴィラLFC所属。ポジションはフォワード。小学2年生の時に関前SCでサッカーを始め、クラブ初の女子選手となる。中学進学時に日テレ・メニーナ入団、14歳でトップチームの日テレ・ベレーザに2種登録され、2008年に昇格。2012年よりドイツ・女子ブンデスリーガのホッフェンハイムへ移籍し、2014年にバイエルン・ミュンヘンへ移籍、リーグ2連覇を達成。2017年に帰国しINAC神戸レオネッサへ入団。2021年1月よりイングランド FA Women’s Super Leagueのアストン・ヴィラLFCへ移籍。日本代表では、2008年FIFA U-17女子ワールドカップでゴールデンボールを受賞、世間からの注目を集めるようになる。以降、2011年女子ワールドカップ優勝、2012 年ロンドン五輪準優勝、2015年ワールドカップ準優勝、2019年ワールドカップ・ ベスト16に貢献。

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