【F1第15戦無線レビュー(2)】首位走行中のフェルスタッペンに緊急の無線「ギャップをもっと大きくしろ」

 2023年F1第15戦イタリアGP。レース後半、モンツァで表彰台を狙うフェラーリ勢とセルジオ・ペレスによる熾烈な順位争いが繰り広げられた。一方でトップを独走するマックス・フェルスタッペンだったが、終盤にはエンジニアから緊急の無線が入った。イタリアGP後半を無線とともに振り返る

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 19周目にピットインしたジョージ・ラッセル(メルセデス)は、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)の1秒後ろ、10番手でコース復帰した。ハードタイヤに履き替えたラッセルに、担当エンジニアから指示が飛ぶ。

マーカス・ダドリー(→ラッセル):アウトラップが重要だ

2023年F1第15戦イタリアGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)

 ラッセルはすぐにボッタスをかわし、5秒前方のセルジオ・ペレス(レッドブル)を追う。しかし徐々に、引き離されていった。

 一方、ハードタイヤでスタートしたルイス・ハミルトン(メルセデス)は、27周目でミディアムに交換。このピットインのタイミングが、ハミルトンには納得いかなかったようだ。

29周目
ハミルトン:この(ミディアム)タイヤで行くには、残りの周回数が多過ぎないか?

 それでもコース復帰後すぐに、アロンソを抜いて9番手に上がった。

 この時点でフェラーリは、カルロス・サインツ2番手、シャルル・ルクレール3番手。ダブル表彰台がかかっているだけに、ルクレールはペレスの攻撃を必死に堪えていた。

32周目
ペレス:(ルクレールは)スペースをいっさい空けてくれない
ヒュー・バード:君の方が速い。とにかく行くんだ

 ターン4でルクレールに押し出されたことに文句をいうペレスに、バードが「さっさと抜け」と鼓舞。次の周、32周目のターン1でかわして、3番手に浮上した。

 抜かれたあとも、ルクレールは何とか1秒以内に食い付く。しかし抜き返すほどのペースはなさそうだ。サインツにしてみれば、ルクレールにがんばってほしいところだが。

33周目
サインツ:このまま最後まで行くのは、けっこうギリかも
リカルド・アダミ:わかった。ベストを尽くしてくれ

 ペースの勝るレッドブルに猛追される状況に、つい弱音を漏らすサインツ。アダミの返答が、少しそっけなく聞こえる。

35周目
ジェームズ・アーウィン(→アレクサンダー・アルボン):ここまでいい仕事してるぞ。タイヤもしっかり持たせてる。マクラーレンは、手こずり出したようだ

2023年F1第15戦イタリアGP アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)&ランド・ノリス(マクラーレン)

 6番手アルボンと背後のランド・ノリス(マクラーレン)との差は、わずかコンマ5秒。それでもしっかり押さえ続けている。その後ノリスはターン1で仕掛けるが、徒労に終わる。

ノリス:僕は完全に横に並んでるのに
ホセ・ガルシア:向こうもタイヤに苦労し始めてるようだ
ノリス:わかってる。わかってるってば。君に見えてることは、僕にも見えてる

 ノリスは前戦オランダGPで担当エンジニアのガルシアをアホ呼ばわりして、あとで謝罪していた。しかしふたりの関係は、今回もどうもうまくないようだ。

37周目
ハミルトン:もうダメかも。このタイヤでどこまで行けるか、全然わからない
ピーター・ボニントン:いや、他はミディアムでしっかり走ってた

 不平を漏らすハミルトンを、いつものこととばかりに軽くいなすボニントン。ハミルトンと10年間、相棒を続けてきた蓄積があればこそだ。

 そしてハミルトンは41周目のターン4で8番手オスカー・ピアストリ(マクラーレン)に仕掛けるが、両者接触してしまう。フロントウイングにダメージを負ったピアストリは緊急ピットイン。入賞圏外に後退した。

ピアストリ:僕の前をブレーキングで横切って行った!

 これでハミルトンは、5秒ペナルティを科された。

ボニントン:5秒ペナルティだ
ハミルトン:僕が十分なスペースを与えなかったからね
ボニントン:ルイス、自分を責めるな。君には十分な速さがあった

 先ほどのやり取りではハミルトンを諌め、ここでは一転して慰める。まるで心理カウンセラーのようだ。

 3番手ペレスもサインツに果敢に仕掛けるが、必死の防戦になすすべもない。

43周目
ペレス:ブレーキングで動いた
バード:マックスに対しても、同じことをしてた。報告するよ
ペレス:まったくスペースを開けてくれない。これじゃレースなんてできない!

 温厚なペレスが、珍しく声を荒げた。

 しかしサインツも46周目に力尽き、3番手に後退。ここからはルクレールとの、表彰台を賭けたバトルが続いた。

49周目
サインツ:みんな、このままゴールしようよ

 ルクレールの猛追に、チームオーダー発令を訴えるサインツ。一方ルクレールは、抜く気満々だ。

ルクレール:カルロスはリヤタイヤに苦しんでる
シャビエル・マルコス・パドロス:チェッカーまでリスクを犯すな

 その指示を無視してルクレールはターン1で再び仕掛け、盛大にタイヤから白煙を上げた。

 フェラーリの2台がバトルを繰り広げている一方で、首位を独走していたフェルスタッペンにトラブルが出たようだった。

ジャンピエロ・ランビアーゼ(→フェルスタッペン):ガスリーとのギャップを、もっと大きくしろ。これは緊急要請だ

 周回遅れ寸前のピエール・ガスリー(アルピーヌ)に、あまり近づくなという指示。レース後の説明では、「温度上昇を懸念した」とのことだった。

 そしてフェルスタッペンは無事にチェッカー。今季12勝目を、前人未到の10連勝で飾った。

ランビアーゼ:やったね、マックス。少しばかり、歴史に名を残しそうだ
フェルスタッペン:いやあ、悪くないね。また勝った。信じられないよ。しかも1-2フィニッシュだ
クリスチャン・ホーナー代表:誇るべき結果だよ

 レッドブルとフェルスタッペンの連勝記録は、はたしてどこまで伸びるのだろう。

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