Vol.33 ありふれた日常も実は貴重な記録[田路昌也の中国・香港ドローン便り]

香港・上環の街で急に降られた雨を避けるため立ち寄ったギャラリーで「啓徳空港」写真展が開かれていました。 その瞬間、1990年代の香港で過ごした日々がフラッシュバックしました。啓徳空港の写真には飛行機がビルの隙間を縫うように着陸する様子が鮮明に捉えられていました。

Birdy Chu, Prime time of the Dragon City, Hong Kong 1998, Courtesy of Blue Lotus Gallery
Greg Girard, Cathay Pacific Tri-Star and Kowloon Walled City, Hong Kong 1989, Courtesy of Blue Lotus Gallery

参考リンク: 下のギャラリーHPのリンクから啓徳空港写真展概要がご覧いただけます。

Goodbye Kai Tak And Thank You|bluelotus-gallery

自宅に戻りアルバムを開いてみると、当時の空港や飛行機の写真は一枚もありませんでした。 スマートフォンがなかったからか、それともただそこにいつもあると信じていたからなのか。その瞬間、日常が実はいかに貴重であるか、そしてその貴重性に気づかないまま過ごしてきたことに、後悔と共に新たな気づきがありました。

ある日一変する風景

そんなある日、香港ドローン部の仲間から久しぶりに馬草壟(Ma Tso Lung)に行かないかとお誘いを受けました。何度か撮影してはいたのですが、とても画になるロケーションなのです。

そしてこれが馬草壟で撮影した写真と動画です。

shot on DJI Mini 3 Pro※ぜひクリックして大きな画面でご覧ください

画面中央、左右に流れている梧桐河が香港と中国を分ける境界線です。

というと、ほとんどの方は手前が中国、向こうにある高層ビルが林立した夜景が香港だと勘違いするのではないでしょうか。しかし実際にはため池が並ぶこちらが香港なのです。

香港ドローン部の友人が今回この場所に誘ってくれたのは、ここの再開発が決まったためでした。ニュースによると深センと香港の共同プロジェクトとしてこの地域にITパークを設立するそうです。

ある人は、この場所に手を付けなかった理由は対岸から香港をみた中国の人たちに香港は田舎なんだと思わせるためだなんて言います。その真偽は定かではありませんが、そう思わせる必要がないほど豊かになった中国があちら側にあるのは確かです。

さらに言えば土地の無い香港でこんな広大な場所が手付かずで残っているのは不自然ですし、もったいない。再開発も当然でしょう。

カメラとドローンを持って日常の撮影に出かけよう

新聞やニュースで目にするハワイやカナダの山火事、ウクライナの悲劇。これらの出来事は、美しい風景が一瞬で変わってしまうリアルな証拠です。一度失われた風景は二度と戻らない。だからこそ、今、この瞬間をしっかりと記録に残すべきです。

ドローンを手にでかけましょう

ドローンを持つことで、私たちは様々なシーンに簡単に挑戦することができます。未知の領域、未開の地、それがどれだけ遠くてもドローンならば手軽に探究できます。ドローンを持ってありふれた、しかし実はとても貴重な風景の撮影に出かけましょう。

そして、そのシャッターを切る瞬間、時間は一瞬静止します。その一瞬が、未来の誰かにとって「新しい」風景となり、また誰かにとって「懐かしい」場所となるかもしれません。

啓徳空港の写真が私たちに与えた感動、その場所と時間がもう二度と戻らないという貴重性を思い出しながら、私たちが生きている今この瞬間も、何年後かには「あの頃」と呼ばれる日々に変わるでしょう。

撮った一枚一枚の写真が、その時々の「今」を未来へと繋ぐ唯一の橋です。その橋を架けるために、今、カメラとドローンを持って、記録に残すべき貴重な瞬間を見つけに出かけましょう。

いつかその記録が誰かの心に触れ、新しい価値を生み出すかもしれません。

▶︎田路昌也の中国・香港ドローン便り

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