マゲシカ遺伝子に「独自性」 DNAの違い判明 基地工事進む馬毛島に生息 研究チーム公表、防衛省アセスに異議

草地を移動するマゲシカの群れ=2022年8月16日、西之表市馬毛島

 福島大学などの研究チームは8日、鹿児島県西之表市馬毛島と種子島に生息するマゲシカについて、遺伝的独自性を持つとする論文を「保全生態学研究」電子版で公表した。自衛隊基地整備に伴う防衛省の環境影響評価(アセスメント)は、独自性を未確認としていた。研究チームは同省の分析に異議を唱え、専門家による調査と適切な保全を求めている。

 マゲシカはニホンジカの亜種とされるが、位置付けは定まっていない。環境省のレッドリストに掲載。防衛省はアセス評価書で馬毛島に700〜千頭が生息すると推定している。

 チームは公開されている九州本土、対馬列島、五島列島、大隅諸島のニホンジカのミトコンドリアDNAの塩基配列データを解析。馬毛島の5個体と種子島の39個体のマゲシカの塩基配列も分析した。その結果、他のシカとの塩基配列が明確に異なることが判明。マゲシカは「独自の遺伝的なグループ」と結論付けた。

 チームは「島特有の遺伝子は確認されなかった」とする防衛省のアセス結果について、遺伝系統の最も基本的なデータのミトコンドリアDNAを検討していないことを疑問視。調査の内容が異なれば遺伝子の固有性が示される可能性があると指摘した。

 防衛省は取材に「論文を把握していない」とした上で、「他の論調一つ一つを精査することは考えていない」と答えた。

 論文筆頭著者の兼子伸吾・福島大准教授(分子生態学)は「マゲシカは何万年というスケールで歴史を紡いできた。研究すればニホンジカ全体の構造の解明につながる。正しい認識を持って、向き合い方を議論してほしい」と話した。

■上空から見ると…

 1月に自衛隊基地の本体工事が始まった西之表市馬毛島。昨年8月、マゲシカ研究者の調査に同行した際は、マゲシカの群れが行き交う森林や草原が広がっていた。今年7月のドローンの空撮では基地整備が進み、生息できる環境が明らかに減っているように見えた。

 調査は同市西之表港をチャーター船で出発し、馬毛島北東部に上陸。沿岸を歩いた。海岸には石灰岩や堆積岩が転がり、内陸の草地には水分を含んだシカのふんが多く見られた。メスと子のもののようだった。

 内陸の丘に姿を現したオスは毛艶が良く、栄養に問題はなさそう。約5時間の調査で、8回ほどオスの集団に出くわした。こちらに気付くと鳴き声を上げて逃げ出し、近づくことはできなかった。

 本来、メスは餌の多い森林部、オスは周辺の草地や沿岸に住む。調査した北海道大の立澤史郎特任助教(保全生態学)は「海岸にメスがおり、マゲシカの理想的な生息域の構造が壊れてきている」。当時は基地本体着工を前に、管理用道路の工事が始まって半年たっていた。

 今年7月の空撮では、約1年前に比べて森林の半分がなくなっている様子が分かった。写真を見た立澤特任助教は「失った森林の代替環境を早急に確保しなければ、冬期に特にメスと子の居場所がない」と懸念した。

【別カット】丘の上に集まるマゲシカの群れ=2022年8月16日、西之表市馬毛島
「虎刈り」のように樹木の伐採が進む馬毛島の西部=7月10日(小型無人機で撮影)

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