「日本を過小評価すべきでない」‬ドイツ人指揮官フィンク監督‪独占インタビュー

日本代表はドイツ代表との国際親善試合が日本時間今月10日午前3時45分開催(ドイツ・ヴォルフスブルク)と迫っている。2022年ワールドカップ(W杯)・カタール大会グループリーグで日本代表が2-1でマンシャフト(ドイツ代表の愛称)を打ち破った試合は記憶に新しい。

世界一に4度輝いた強豪のためリベンジマッチは勝利を求められているドイツに対して、直近の2試合(エルサルバドル、ペルー)で連勝している日本代表はマンシャフトに連勝して、勢いそのままに来年1月開催のアジアカップ・カタール大会に臨みたい。

決戦の前に、ドイツではハンブルガーSV、日本ではヴィッセル神戸の指揮を執ったドイツ人指導者、ベルギー1部シント=トロイデンのトルステン・フィンク監督にQolyは独占インタビュー取材を敢行。日本、ドイツに通じる名将が両国を熱く語った。

日本に勝機あり

――今月の日本時間10日深夜に日本代表とドイツ代表が再戦します。フィンク監督から見て現在のマンシャフトをどう評価していますか。

「(いまの)ドイツ代表チームは少し苦戦しているところがあり、いいチーム状況ではありません(直近5試合1勝1分3敗)。

もちろんすごく恐れるようなチームではないですが、(カイ・)ハヴァーツのようなトップタレントはいます。ウィングで(セルジュ・)ニャブリ、(ルロイ・)サネや(中盤にはエムレ・)ジャンといい選手はいますが、(ジャマール・)ムシアラ選手がケガしていたりと…。チームとしての戦術は確立されているわけではないので、いいチーム状況ではないです。

センターバックの(ニクラス・)ジューレは前には強いが、足が速いわけではないです。古橋亨梧選手(スコットランド1部セルティック)がもしプレーしたら、彼は裏抜けやボックス内のポジションがすごくうまいので、苦戦するのではと思います。

もし(ドイツ代表が)この2試合(日本、フランス)で勝てなければ、監督人事に問題があるから(ハンジ・フリック監督を)解任になる可能性があるとドイツメディアの記事を読みました。日本は前回の対戦でペルーに4-1で勝っていたので、いい状況だと思いますよ。

ストライカー、9番の選手がチームに足りないと思います。ドルトムントに移籍した(ニクラス・フュルクルク)選手がケガしているので、日本戦は難しい試合になるでしょう。前回みたいにハイプレスでくると日本に勝機があると思います。

もちろん、私はドイツ人なのでドイツに勝ってほしいです(笑)」

――フィンク監督から見てドイツ代表の危険な選手を教えてください。

「ルロイ・サネ選手がいまコンディションもすごくいいので、1番気を付けたほうがいい選手じゃないかと。

あとはセットプレーですね。ドイツの選手たちは身長が高い選手が多いので、そこが危険なポイントになると思います」

日本を過小評価すべきではない

意外にも日本優勢の考えを明かしたフィンク監督。神戸で指揮を執った際は天皇杯を勝ち取ってチーム初のタイトルをもたらすなど、日本で印象的な活躍を見せた。

知日派として日本サッカーをよく知るドイツ人監督は、神戸時代に指導した古橋を筆頭に教え子が招集されているサムライブルーの強さを理解している。

――W杯で日本代表がドイツ代表を打ち破りました。日本代表の評価を教えてください。

「日本はすごくいいチーム。前回大会(W杯)では1-2と(ドイツが)リードしていた中で逆転されて負けました。日本はすごくスピードのある選手たち、クオリティーの高い選手たちがいます。

W杯でいうと、(日本は)前半で後ろに下がって勝負している時間が多く、後半になってからボールを保持していたりと、ハイプレスをかけることによって試合を変えられたイメージがありました。今回も前半の最初から後ろに下がってディフェンスをすると、クロスやウィングでの1対1ですごくいい選手がドイツにいるため、そこは難しくなるんじゃないかと思います。

今回の対戦でいうと、古橋選手が前線で、トップ下の位置に鎌田(大地)選手が入って、4-4-1-1か4-2-3-1でプレーすると思います。ほとんどの選手がヨーロッパでプレーしている状況で、ヨーロッパのテンポやサッカーを分かっている選手がすごく多い。

いまドイツはちょっと自信が欠けているところがあるので、難しい戦いになるんじゃないかと…。でも試合を観に行きたいです(笑)」

――フィンク監督はW杯の日本対ドイツ戦を見て結果に驚きましたか。

「驚きではありませんでした。もちろん負けたという現実を受け止める上で少し驚きましたけどね。

ただ日本代表の強さは分かっていたし、W杯の試合前にドイツのメディアに、『(日本を)過小評価するべきじゃない』と話しました。日本がトップレベルの国になったことは分かっていたので、驚きではなかったです」

――同じ監督として、森保一監督のマネジメントや戦術についてどう見ましたか。

「すごく成功していると思います。2期目で長期体制にも入っていると思うので、それはいい監督の証拠だと思います」

若い世代が学び、成長したことでいまの日本がある

監督としては日本以外でもスイスの強豪バーゼルを国内2冠(2009-2010)、リーグ戦2連覇(2009-2010、2010-2011)に導き、選手としてもバイエルンでリーグ戦4回、チャンピオンズリーグ1回を制するなど華々しいキャリアを歩んできた。

欧州で実績を積み上げ、日本でもタイトルを勝ち取った指揮官だからこそ、「日本はなぜ強くなったのか」というシンプルな質問を問いかけた。

――今回シント=トロイデンからは橋岡大樹選手、シュミット・ダニエル選手が日本代表に選ばれました。2選手に抱く期待を教えてください。

「シュミット選手は、現日本代表のベストゴールキーパーじゃないかと思います。サイズがありますし、リーグの中でも上位のデータが出ています。右足も左足も、足元がうまい。クロスに対してもボックスの中から出てくるプレーが上手な選手で、ベルギーリーグの中でもトップGKの1人ですね。

橋岡選手は、(シーズンの)最初は少し移籍の話もありましたが、直近3試合ですごくいい試合をしました。クロスに良さもあるし、彼もフィジカル面のデータでリーグの中でもトップのデータが出ています」

――なぜここまで日本が強くなったと思いますか。

「分からないです(笑)。この2、3年で成長した理由は分からないですけど、新しい世代の選手たちはすごくクオリティーが高いと思っています。多くの選手がヨーロッパに来ているところが要因の1つじゃないかと思います。

日本人選手がヨーロッパに来る流れを作ったのは、香川(真司)選手をドルトムントに連れてきた(代理人の)トーマス・クロートさんだと思います。

若い選手たちがヨーロッパに来て、学んで、成長して、次のステップに行くという流れが出てきました。ヨーロッパのドイツに来ても、ベルギーに来ても、彼らは学ぶところがある。

日本はユースや大学といろいろありますけど、多くの若い年代の選手たちがヨーロッパに来てプレーしているところが一番大きい要因じゃないかと思います」

日本サッカーが成長していくには

後に「日本サッカーの父」と称されるドイツ人指揮官デットマール・クラマー氏(2015年死去)が1964年東京五輪男子サッカー代表を指導するため1960年に来日し、世界に通用する基礎的な技術を日本人選手、指導者に教育して日本サッカーの礎を築いた。

それから約30年後に日本はプロリーグを発足し、60年近いときを経て、ついにW杯の舞台でクラマー氏の母国である世界屈指の強豪ドイツを撃破するまでに至った。フィンク監督に日本サッカーの成長の鍵を尋ねた。

――日本のサッカーが今後より成長していくには、何が必要だと思いますか。

「(日本が)より成長していくには、より多くの選手がヨーロッパに来ることが大事だと思います。もうすでにいいチームなので、これ以上良くなってほしくないですが(笑)。もうヨーロッパのレベルと同等の力がありますからね。

新しい世代もすごくいいと聞いてるので楽しみにしてます。いろんなチームが日本人選手を欲していることがいいサインです。

数年前、数十年前だと日本人選手を誰も獲得しないという流れでしたが、いまは(欧州の)どのチームも日本人選手を探しているところが、日本サッカーが成長してきた証拠じゃないかと思います」

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時折、欧州のメディアで日進月歩の如く成長を遂げていると称される日本サッカーだが、着実な歩みにより世界と渡り合えるようになった。

その源流はクラマー氏の母国であるドイツにあり、日本サッカーにとってドイツは切っても切れない存在だ。これまでドイツ代表との対戦成績は1勝1分1敗と、2004年12月の初対戦(0-3で敗北)から20年弱で成績をイーブンにした。

成長の歩みを止めない日本は決戦の地ヴォルフスブルクでマンシャフト相手にどのようなサッカーを見せるのか注目したい。

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