プレイ中のセクシーボイスまで再現! なぜ中国で上映禁止に?『トゥームレイダー』シリーズ徹底トリビア解説

『トゥームレイダー』『トゥームレイダー2』©TOHO-TOWA

アクションヒロインのアイコンとなった『トゥームレイダー』

最近はゲームを原作とした映画がたくさん公開されている。ひとくちにゲーム映画といっても、昨今の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023年)や『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)のように、ゲーム制作者やファンたちが愛情を持って作り上げた作品か、またはかつての『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(1993年)や『ストリートファイター』(1994年)のように、まだあまりゲームというものを理解していなかった映画人によるカルト化したゲーム映画群、そのどちらかに二極分化されるのではないか。

そんな2大勢力の狭間に公開された、女性アクション映画の超大作シリーズ1作目、アンジェリーナ・ジョリー主演の『トゥームレイダー』(2001年)も、実はゲーム映画であることを、もしかしたら知らない人もいるかもしれない。

「トゥームレイダー」はプレイステーションで1996年にリリースされ、3Dアクションゲームとして全世界的に大ヒット。秘宝を求めて世界を駆けめぐる主人公のトレジャーハンター、ララ・クロフトは大人気となり、シリーズ作はゲームハードを越えて多数作られた。ララの人気は、ロックバンド・U2がツアー内の映像に彼女を起用し、ヨーロッパでは切手が発行されるくらいであった。

ゴスっ娘だったアンジーのイメージを変えたハマり役

そんな人気を受けてアンジェリーナ・ジョリー主演で実写映画化された『トゥームレイダー』だったが、ゲーム映画の印象が薄いのはもしかすると、アンジェリーナ・ジョリーのあまりのララ役へのはまりっぷりに凌駕された点が大きいのではないか。

アンジーのララ役への意気込みは相当なもので、役作りのためにイギリス特殊部隊<SAS>の元隊員から銃のレクチャーを受けたほど。ヨガとキックボクシングも習得した特訓は、6ヶ月に及んだという。

また作中、自宅を賊に襲われるシーンでのバンジーアクションは、アンジー自身でやっている。その際にシャンデリアのガラスで足を切ったり、パジャマの裾に照明から火が燃え移って火傷するなど、とても危険な撮影にも挑んでいたようだ。

アンジーは元ゴスっ娘で、身体はタトゥーだらけ(そのため本編でのシャワーシーンではタトゥーが映らないようにするのに苦労したそうである)、幼い頃の夢は葬儀屋さん。結婚式では自分の血で花嫁衣装に夫の名前を書く……という筋金入り。そんな彼女が、ララのようなアクションをこなすセクシーな美女を演じ、そのイメージが以後も定着していくのだから、わからないものである。

当時、アンジーの元夫であるジョニー・リー・ミラーが彼女そっちのけで「トゥームレイダー」のゲームに没頭していたため、その当てつけのためだけにララ役を受けたのでは? という噂もあったが、彼女はこれを否定。しかしミラーがこのゲームに夢中になっていたのは事実で、アンジーも「当初はララが嫌いだったわ」と冗談を言っている。

アンジーの人生を変えたカンボジアロケ

この映画でアンジーは一躍ハリウッドスターとなり、また女性アクションスターの仲間入りを果たした。もともとのララ役の候補リストは、デミ・ムーア、シャーリーズ・セロン、ユマ・サーマン、ミラ・ジョヴォビッチなど錚々たる顔ぶれだったが(変わったところではゲーム版ララ・クロフトのモデルをつとめたローナ・ミトラに演じさせる案もあった)、今ではアンジー以外には務まらなかっただろうと思わせる。

政情不安定が長く続いていたカンボジアで大規模ロケが敢行された『トゥームレイダー』だったが、すべてのロケにアンジーは同行している。この撮影がきっかけで彼女はカンボジアに魅せられ、後にライフワークの一つになる“戦地跡の地雷除去活動”に加わっている。また、最初の養子であるマドックスに出会ったのもカンボジアであり、いろいろな意味で彼女の人生を変えた映画である。

ゲームの名シーンを再現! 小ネタ的な描写も要チェック

ゲームの映画化ではゲームの名シーンをどれだけ入れてくるかもキモの一つだが、実は『トゥームレイダー』はゲームでおなじみのシーンを多く入れ込んでいる。銃のリロードが早くなるリロードベルトや、所持品数が増えるバックパックなどゲーム内の装備も登場、ララがアイテムを拾うときの「アーハ!」という特徴的なかけ声も再現している。

アクションシーンでの“サマーソルトキック中に銃を抜く”などのトリッキーな動きは、ゲーム版をやりこんだ熟練者ならば可能な、特徴のある動きを再現。ララが屋敷の中、ハンマーで時計を壊すシーンでは執事が銀のお盆で顔を隠しているが、あれはゲーム内の該当シーンでは執事を射撃することができてしまうのだが、そのとき彼は弾丸を銀のお盆で防ぐ。そんな小ネタ的描写も含まれているのだ。

また、ララの父親役をアンジーの実父であるジョン・ヴォイトが演じていたり、現在は大スターとなったダニエル・クレイグが敵役を演じたりしているのも見所。ちなみにクレイグの使用しているワルサーP99は後に彼がジェームズ・ボンドとして出演した『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)でも所持している拳銃である。

作中、神殿から蘇る多腕の女神の石像との大立ち回りシーンがあるのだが、これはどこからどう見てもストップモーションアニメの神様、レイ・ハリーハウゼンの『シンドバッド黄金の航海』(1973年)に登場する女神カーリーを彷彿とさせる。しかし、監督のサイモン・ウェストは「見たことなーい」と、その関係性を否定。このようにインタビューで監督が自作と、明らかに影響を与えた他作品の関係性を否定する光景をたまに見かけるが、何か問題があるのだろうか……?

なぜ? 中国では上映禁止に

9月のCS映画専門チャンネル ムービープラスでは『トゥームレイダー』と併せて続編『トゥームレイダー2』(2003年)も放送されるが、『1』ではグラマラスなララのバストサイズを再現するためにパッドで調節していたアンジーが、続編ではそれをしていない。それに代表されるように、前作よりもリアル指向を目指した作品となっている。

フライングスーツで滑空するシーンではCGもワイヤーも使わず、アクション面でもよりリアルさを目指そうとしていたようだ。しかしゲーム的なシーンも健在で、『2』でも塔の周囲を上ってヘリに飛び移る際に、ゲームそっくりの伏せるポーズが再現されているなど、おなじみのシーンも登場する。

なお『2』は中国が舞台になっているが、無政府状態の混沌とした国で秘密結社に支配されている……かのように描いたため、中国では上映禁止の憂き目を見た。

そして全く関係ないが、2作を通して執事役を演じているクリス・バリーは、イギリス産SFコメディドラマ『宇宙船レッド・ドワーフ号』(1988年~)のリマー役で日本では有名である。その実体は死亡してしまい、ホログラムデータだけの存在だが、時代/予算的にCGは使わずに、額に「H」のマークを貼ってホログラムであることを示しているバカな表現は一度見たら忘れられない。ちなみにその「H」マーク、30年以上も貼り続けていたので、額のしわが変形してしまったらしい。そんな彼の演技にも注目だ。

ちなみに本作は、『トータル・リコール』(1990年)などの名カメラマンで、『ツイスター』(1996年)『スピード2』(1997年)の監督としても知られるヤン・デ・ボンの、今のところ最後の監督作となっている。

アンジーの「もうやりたくない」で幻と消えた『3』

そんな『2』の完成後、すでに3作目も予定されていたのだが、「もうやりたくない」とアンジーがコメント。結局『3』はキャンセルになってしまった。その後、すでに完成したララ像を描いたアンジー版とは異なり、さらにリアルなアクションを追求し、ララ・クロフト誕生譚を描いたリブート作『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018年)まで、再映画化には15年を要した。

制作元のパラマウントもこの後、ゲーム映画は『ソニック・ザ・ムービー』まで17年間も制作しないことになる。ヒットしたか否かに関わらず、ゲーム映画というのは作ること自体が大変なものなのかもしれない。ついゲーム映画であることを(また、その存在を)忘れられがちな『トゥームレイダー』シリーズ。だが、そこには後の芳醇なゲーム映画の世界を作った礎が、確かに存在したのである。

文:多田遠志

『トゥームレイダー』『トゥームレイダー2』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「トゥームレイダー イッキ観!」で2023年9月放送

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