代表戦を終えアメリカに戻る富永に直撃
高校3年で出場したウインターカップで長距離3Pシュートを連発し、一躍その名を日本国内にとどろかせた富永啓生。その富永はアメリカの大学へ進学、さらにNCAAディビジョン1のネブラスカ大へと編入し、活躍を続けている。東京2020では3x3の日本代表として、そしてワールドカップ2023でも日本代表の一員として、3Pシュートを武器にその名を世界に知らしめた。すさまじい勢いで成長を続ける富永に、ワールドカップを終え、アメリカに戻る直前に話を聞いた。
――高校3年時にU18日本代表に選ばれて以来、ウインターカップの活躍、さらにはNCAA、オリンピック、ワールドカップとものすごい勢いでステージをステップアップしていますが、その変化をどのように捉えていますか?
「日々成長できているなという実感はあります。何よりそうした機会をいただいていることをありがたいと思っていますし、結果を出すことで証明してこられているのだと感じています。ですが、まだまだですね。天井というか、自分の目標はもった高いところですし、ここから成長できる場がたくさんあると思っています」
――自身を取り巻く環境も急激に変わってきていると思いますが、戸惑いを感じたりはしませんか?
「戸惑いといった感じはないですね。本当にもう目の前にあることをやっていくだけだと思っているので。目指しているのはNBAに行くこと。NCAAでのプレーも日本代表としてのプレーも、折角いただいた機会は、そのためのアピールの場だと思っていますし、そのチャンスが増えているといった感じです」
ネブラスカ大に欠かせないプレーヤーとして活躍する富永
――今回のワールドカップを見ていて、3Pシュートはもちろんなのですが、それを警戒されたときのドライブなど2ポイントのプレーの引き出しが増えたように思いました。
「そうですね。やはり3ポイントだけでは得点がなかなか伸びてこないこともありましたし。ドリブルからのレイアップだったりとかフローターだったりといったことは、向こう(アメリカ)でたくさん磨いてきていたので、そうした部分は通用できたのかなと思っています」
――体感として、NCAAのディビジョン1とワールドカップのレベルの差はどう感じましたか?
「やはりワールドカップでは、選手一人一人が国を背負っているというプライドを持っていると感じましたね。フィジカルの強度であっても、NCAAももちろん強度はすごいのですが、ただ強いだけではないという迫力みたいなものがありました」
――例えば、シュートを打つタイミングを変えなければといったレベルの差ではないわけですね。
「そうした部分は変わらないですね。それよりも一つ一つのプレーの強度、精度、それにかける思いといったものの違いを感じました」
――確かに、ドイツ戦での富永選手に対するディフェンスもすごかったですね。
「はい。あのようなディフェンスにあって、その中でももっとアテンプト(試投数)を増やさなければと思いましたし、そのためにはオフボールでの動きといった部分をもっと磨かなければと思いました」
――オフボールの動きなどは、渡邉雄太(サンズ)選手などにアドバイスをもらうことはあったのですか?
「見ているだけでもすごく参考になりますし、バックカットのタイミングなどを教わったり、いろいろアドバイスをしてくれました。特に駆け引きの部分など、とても参考になりました」
大会の中で渡邊から度々アドバイスをもらったという
「NBAにも行きたいですし、オリンピックにも出たいです」
――では、これからネブラスカ大に戻り、取り組んでいきたい課題といったものは、何か得られましたか?
「全てにおいて成長しなければと感じています。フィジカルも含め、全てですね。もちろんオフボールの動きも磨いていきたいですね」
――ネブラスカ大のチームメイトも注目していたと思いますが、そうした期待にこたえなければとか、日本代表として恥ずかしくないプレーをしなければといったプレッシャーはありますか?
「日本代表としてふさわしいプレーということもありますが、プレー面だけでなく、こうした大きな舞台を経験したからこそ分かったことを共有していきたいです。リーダーシップであったり、声を出していくことであったり、そうした部分でもチームを引っ張っていきたいと思っています」
――フィジカルの部分では、もっと体を大きくしていきたいといった感じですか。
「そうした方向性ではないですね。ワールドカッブでも当たり負けした感覚はなかったので。もちろん当たり勝てたわけでもないですけど。もう少し、強くしてもいいのかなとは思っていますが、ただ強く、大きくではなくシューターというポジションにとって必要な形でフィジカルを高めていくイメージです」
――ちなみに3Pシュートを打つ際にポイントとしていることはどんな部分ですか。
「まずは脚、下半身ですね。しっかりとした下半身から手の動きを連動していく形です」
「脚、下半身」こそが3Pシュートのポイントだと語った
――そうした安定感をより高めていくということですね。ワールドカップで証明したように、シュート力という部分では、すでに高いレベルで通用しているといった自覚はありますか。
「そうですね。それ以外の部分、駆け引きであったり、オフボールでの動きであったりといったことをよりレベルアップしていくことが、夢に近づいていく近道だろうと考えています」
――NBA選手になるために、NCAAにチャレンジしてきたと思いますが、NCAAでプレーし続けるには、バスケットボールがうまいだけでなく、しっかりと勉強もしていかなければならないですよね。大変ではないですか
?
「大変というより、目の前にある、やらなければならないことをやってきた感じです。アメリカでバスケットボールをしたいと思っていて、その場にいられているので、多少つらいことがあっても、NBAを目指していく中で必要なことなので頑張れています」
――日本代表に対してはどんな思いがありますか? 河村勇輝(横浜BC)選手と若手の二人で、今後の日本代表を引っ張っていってもらえたら頼もしいと思います。
「これまでは若手として、とりあえずがむしゃらにやっていれば良かったのですが、これからは二人で日本代表を引っ張っていけるよう、もっとお互いに成長していけたらと思います」
――今シーズンを終えると、NBAドラフト、パリ・オリンピックが待っています。仮にNBA入りが決まり、そしてオリンピックとなるとかなりタフなスケジュールになると思いますが、そんなことを考えたりはしますか。
「まだ、そこまで具体的にイメージしていませんが、自分のできる最大限のことをやっていければと思います。もちろん体を壊してしまうようなことは避けなければならないですが、まだ若いですし、頑張れるのではないかと。NBAにも行きたいですし、オリンピックにも出たいですしね」
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ワールドカップのオフィシャルガイドブックの富永のストーリーの中で、桜丘高時代の恩師、江﨑悟氏が語ったエピソードがあるので、以下に紹介したい。
~~実はウインターカップ中に啓生が記者から「何でそんなに楽しそうにバスケをしているのか?」と聞かれたことがあったんです。そうしたら彼は「5000人の観客の前でプレーできるんだから、楽しまないともったいないじゃないですか」と答えたんです。それを聞いた僕は「楽しまないともったいない」という言葉を今の桜丘高の横断幕にしました。~~
今も富永は“楽しみながら”NBAでプレーするという夢に向かって走り続けているに違いない。
さまざまな質問に答えてくれた富永