狙いは【新NISA】か−−増える株式分割、発表した銘柄の株価はどう動いた?

ここのところ、株式分割を行う企業が急増しています。株式分割とは何なのか、株式分割がもたらす企業と個人投資家のメリットとデメリットについて、実際の例を交えながらお伝えします。


株式分割とは

株式分割とは、企業がその発行済み株式の数を増やす一方で、各株の価値を相対的に減少させる手法です。

例えば、1株1,000円の会社が1株を2株に分割する場合、新しい株価は約500円になります。株主には分割後の株式数に応じて新しい株が与えられるため、1株保有していた人は2株保有することになり、その所有する資産価値に変動はありません。

株式分割自体は企業価値に直接的な影響を与えないので、投資判断をする際には他の多くの要因(財務状況、成長率、市場環境など)も考慮する必要があります。ただし、株式分割が行われると、一時的に株価が上昇する場合もあるので、短期トレーダーはこの動きに注目することがあります。

企業側のメリット・デメリット

株式分割の主な目的は、株価を下げることで一般の投資家が購入しやすくすることです。株価が高いと、特に小口投資家は手が出しにくく、株の流動性が低下する可能性があります。

また、株価が低い方が心理的に購入しやすいともされています。東京証券取引所の2022年度の株式分布状況調査によれば、2022年4月に株式分割した商船三井(9104)について、個人の保有比率が13年度以来9年ぶりの水準となり、個人株主数が増えた順のランキング首位となっています。

株主分割だけが理由ではないと思いますが、分割も個人株主数が増えた一因だといえるでしょう。新たな資金流入につながると期待できるのはメリットですね。

逆に考えると、高額な株価は一部の投資家しか参入できない状況を生む可能性があるわけです。株価について、2022年秋に東証が「5万円以上50万円未満が望ましい」としており、最低投資金額の引き下げを要請したことで、それに応える形で株式分割する企業も増えています。

株式分割によって株価が低くなると、多くの投資家がその株を手に入れやすくなります。特に小口投資家にとっては、高額な株よりも低額な株の方が購入しやすいため、株式分割は新たな投資家層を引き込む可能性があります。

これにより、株式の流動性が高まることが期待されます。

流動性が高まるということは、株式の売買をしている人が多いということなので、株を購入したり売却したりする際に思った価格で取引できるようになり、取引がスムーズに行えるようになります。高い流動性は大量の株を短期間で売買したい機関投資家や短期的な取引を好む投資家にとっても有利です。

また、流動性が高まると、株価の価格発見機能が向上することもあります。分割のニュースや出来高ランキングなどで、注目される可能性もあるでしょう。

一方、企業側にはデメリットもあります。

まず管理コストの上昇です。株式分割に伴い、新しい株式証券の発行や記録に関わる管理コストが発生します。また、株式分割直後は市場での需給バランスが崩れやすく、株価が不安定になる可能性があることもデメリットと言えそうです。

個人投資家のメリット・デメリット

株式分割が個人投資家に与える影響として、企業側と同様に株式分割によって株価が下がると、少額から投資できるようになります。これにより個人投資家がポートフォリオに組入れやすくなるなど、資産の多様化が容易になる場合があります。

また売買する人が増えて流動性が上がると、買いや売りの注文がスムーズに行われるようになります。それにより株価が上がれば保有している株主にとっては大きなメリットとなります。

ただデメリットや注意点としては、株価が安くなったからといって、その銘柄が「割安」になったわけではありません。企業の基本的な価値は変わっていないため、誤って高リスクな投資をしてしまう可能性があります。

また流動性が高まると、短期的な価格変動が頻発する可能性があります。これは、価格の安定性に影響を与える場合があり、不慣れな個人投資家にとってはリスクとなることもあります。分割によって手に入れやすくなった株に投資する際は、分割したから上がると思い込むことなく、その企業の基本的な健全性や将来性もしっかりと評価する必要があります。

株式分割と株価の値動きの実例

それでは実際に、株式分割を行った銘柄の値動きについて見ていきましょう。

まず丸千代山岡家(3399)。2023年7月18日(火)に株式分割と株主優待制度の実質的な拡充を発表。すると翌7月19日(水)の東京株式市場でストップ高となりました。

丸千代山岡家の株主優待は100株以上保有でラーメン無料券やお米などがもらえますが、株主優待の内容が一部を除いて据え置かれ、株主優待利回りが実質2倍になることや、インバウンド関連銘柄として海外からラーメンに熱い視線が注がれているのも評価されている模様。

画像:TradingViewより

寿スピリッツ(2222)は8月1日(火)に、2023年9月末を基準日として1対5の株式分割を発表。株式分割に伴って株主優待の配布区分と内容の変更し、100株以上の株主に一律で自社グループ製品3,000円相当を贈呈するという実質優待利回りを拡張しました。

傘下にチーズケーキで有名な「ルタオ」など、北海道から沖縄まで日本全国を網羅した販売プラットフォームを持ち、アフターコロナで旅行が再開した恩恵や、インバウンド関連としても注目されており、2024年3月期(通期)の連結業績予想では売上高が前期比11.4%増、経常利益も同13.8%増と好調であることなどから株価も上昇しました。

画像:TradingViewより

マツキヨココカラ&カンパニー(3088)は、8月10日(木)に9月30日(土)を基準日として、1株を3株に株式分割すると発表。株式分割するは旧マツモトキヨシホールディングスが18年に1株を2株にして以来5年ぶりのこととなります。株式分割と併せて実質増配も発表。また同日発表した2023年4-6月期連結決算で純利益が前年同期比51%増と好決算だったことなどから、翌営業日である8月14日(月)に上場来高値をつけました。

画像:TradingViewより

同じく8月10日(木)に9月30日(金)を基準日として、1株を10株に株式分割すると発表したパーソルホールディングス(2181)の株式分割は、2015年に1株を3株にして以来8年ぶり。 1株を10株に株式分割ということで、大きく投資単位が引き下げられることになりますが、同日発表した2023年4-6月期の連結決算(国際会計基準)で、純利益が前年同期比16%減となったことなどから、株価を下げることになりました。

画像:TradingViewより

8月9日(水)に本田技研工業 (7267)が9月30日(金)を基準日として、1対3の株式分割を実施すると発表。株式分割をするのは2006年6月以来となり、17年3ヵ月ぶりの分割です。同日発表の2024年3月期第1四半期連結業績は売上高が前年同期比20.8%増であることも寄与し、株価は上昇しています。

画像:TradingViewより

最後に8月22日(火)に10月1日(日)付で1対5の株式分割を発表した東海旅客鉄道(9022)。2012年10月に1株を100株に分割して以来11年ぶりの株式分割で、JR各社に比べて高かった同社株が買いやすくなったことが好感されたよう。株主優待の発行基準も変更し拡充することも併せて発表しています。

画像:TradingViewより

他にも株式分割を発表した企業は多くありますので、興味があれば調べてみてください。株価が高くて買えなかったあの銘柄が、買うことができる金額になっているかもしれません。


株式分割は、企業と個人投資家双方にメリットとデメリットがあります。

個人投資家は投資しやすくなる一方で、短期的な価格変動などに警戒が必要です。株式分割が、必ずしも流動性を高めるわけではありません。企業の基本的な健全性や市場環境、他のニュースや出来事なども流動性に影響を与える要素です。

株式分割は一要素に過ぎないという点を理解することが重要です。株式分割に対する理解を深めることで、より賢い投資判断が可能になると考えます。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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