赤潮被害「回復に2年」 長崎南部・橘湾 7月下旬に13億円規模の大打撃

いけすのそばで被害状況を語る西元さん(左)=長崎市牧島沖

 長崎県南部の橘湾の広い範囲で7月下旬に赤潮が発生し、トラフグやシマアジ、マダイなどの養殖魚が大量死した。被害は長崎、雲仙両市で約110万匹、約13億円に上るとみられ、県内の赤潮被害としては過去最大規模。大打撃を受けた養殖業者は「回復まで2年」という長い道のりに立ちすくみそうになりながら、必死に前を向いている。
 「いけすのほとんどが空っぽ。餌を与えたくても出荷したくても、魚はほとんどいなくなった」。6日午後、長崎市たちばな漁協の養殖部会長、西元崇博さん(37)は穏やかな湾に浮かぶいけすを見つめながら厳しい表情を崩さなかった。
 赤潮を確認したのは7月末。海面は赤というより茶色に近かった。それまでの赤潮は、船が通ればその部分は海の色に戻っていたが、今回は茶色のまま。「かなり深いところまでプランクトンが発生している」と感じた。
 8月2日、湾対岸の雲仙の方で養殖魚がへい死したとの情報が入った。この日は午後7時ごろまでいけすの様子を確認していたが、異常はなかった。「このまま何事もなければいいが」。祈るような思いで翌朝を迎えると、大事に育てた魚が大量に死んでいた。連日処理に追われ、数日間の記憶がない。
 20歳で養殖業に就き、30代前半で水産会社の社長になった。当時、地元の養殖魚はトラフグが中心だったが、経営安定のためには新たな主力商品が必要と判断。同世代の別の水産会社社長の長野陽司さん(37)と知恵を絞り、地元特産のかんきつ類「ゆうこう」を餌に混ぜたシマアジとマダイをブランド魚として約3年前から売り出した。販路は独自に開拓し、県内の主要スーパーや居酒屋との取り引きが軌道に乗ってきていた。その矢先に赤潮被害が起きた。
 例年今ごろから出荷が始まるトラフグは大半が死んだ。通常1匹3千円程度の値が付くが、共済金で補償されるのは千円程度。2千円の損失が生じる。県や長崎市などは代替魚購入費補助などの支援策を示しているが、トラフグの稚魚を入手できるのは半年以上先。さらに稚魚を育てて出荷できるようになるまで一年半かかる。
 心が折れそうにもなったが、従業員とその家族を思うと落ち込んでばかりもいられない。取引先からは「2年待つからあきらめないで」といった励ましが相次いだ。長野さんと協力し生き残ったシマアジやマダイの海鮮丼を販売すると、多くの人が「力になりたい」と購入してくれた。
 「涙が出そうになった。おいしい魚を待ってくれている人、そして従業員のためにも」と再起を誓う。


© 株式会社長崎新聞社