ジャニーズ謝罪会見で御用マスコミが変わらぬ忖度! スポニチは社名継続を前打ち、テレ朝と日テレの唖然とする会見報道

ジャニーズ事務所公式サイトより

9月7日、ジャニーズ事務所が4時間にもおよぶ記者会見を開いたが、その内容は絶句するほどの酷さだった。

ジャニー喜多川氏による性加害については、外部専門家による事実認定を受け、ようやくここにきて認めたものの、被害者に対する補償のスキームについては何の具体性もなく、第三者委員会の設置を表明しただけというお粗末さ。挙げ句、かつて藤島ジュリー景子氏との交際や結婚が囁かれ、“ジャニーズ事務所の後継者”と目されたこともある東山紀之を新社長に据え、ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦とともに会見に出席。本来、ジュリー氏や、“ジャニーズの番頭”として長年事務所の中枢にあり “ジャニーズをもっとも知る男”と呼ばれてきた副社長の白波瀬傑氏(5日付で引責辞任)がこれまでの総括をおこなうべきだったのに、タレントが矢面に立ったことにより、芸能会見のような状態になってしまったのだ。

しかも、会見では、性加害の被害を拡大させた要因として指摘されてきた「メディアとの癒着やメディアによる忖度」を一掃することを東山や井ノ原が明言したが、ジャニーズ事務所とメディアの癒着の実態は、いまだ何も変わっていないことは明らかだ。

そのことを象徴するのが「社名」問題だ。会見当日の7日朝、大手スポーツ紙は各紙とも東山の新社長就任を報じたが、スポーツニッポンだけが論点のひとつとなっていた社名問題に踏み込み、〈「ジャニーズ事務所」の名称は存続する〉〈名称変更は行わず改革に取り組む〉と断定して報道したのだ。

スポーツ紙にはバーニング担当のB担とジャニーズのJ担がおり、J担は広報担当の白波瀬氏と日常的に癒着し、タレントについては一切ゴシップや批判を書かないという構造が連綿とつづいてきた。なかでもスポニチと日刊スポーツの“ジャニーズ癒着度”は高く、たとえばSMAP分裂騒動でも事務所からのリークで第一報を打ち、事務所の意に沿って独立組批判の論調の先鞭をつけるなどし、「ジャニーズ御用新聞」「ジャニーズの広報紙」と呼ばれてきた。

つまり、ジャニーズは、今回もスポニチにだけ「名称変更なし」という特ダネを流していたと考えられるのだ。

ジュリー氏は会見で「広報は長年、白波瀬がやらせていただいてきたもので、今年の春から自分もできるだけ介入してきた」と述べていたが、ようするに「ジャニーズにおけるメディア支配の象徴」であるメリー氏が鬼籍に入り、白波瀬氏が引責辞任しても、いまなお特定メディアとの癒着関係は変わっていないと見られるのである。

●ジャニーズ会見で厳しい質問を投げかけたのは主にフリーランスや独立系メディアの記者、一方御用記者たちは…

だが、ジャニーズ事務所とメディアの関係性がもっとも露骨にあらわれたのが、会見での質問だ。

今回の会見では厳しい追及がおこなわれ、報道番組やワイドショーもそうした場面を放送しているが、実際のところ、厳しい質問を浴びせていたのは、おもに大手マスコミ以外のネットメディアやフリーランスの記者たちだった。

たとえば、名称変更について「ジャニーズというのは創業者の名前でもあり、初代グループでもある。何より大事なのは、これまでタレントさんが培つちかってきたエネルギー、プライドだと思ので、その表現のひとつでもいいんじゃないかと思う」などと述べた東山に対し、「あまりにも常識外れ」「(ジャニー氏が重大な)犯罪を犯したという自覚が足りないのではないか」と問いただしたのは、東京五輪問題などを追及してきたノンフィクション作家の本間龍氏だったし、何の具体性もない発表内容に対し、「社長交代と被害者への補償。それで十分だと思うのか。どこが解体的見直しなのか」と迫ったのは「ビデオニュース・ドットコム」の神保哲生氏だった。

また、これまでジャニー氏の性加害を「知らなかった」などと説明してきたジュリー氏に対し、「信じがたいこと」「過去の反省や自分が共謀者という罪悪感はないのか」と追及したのは、首相や官房長官会見でも鋭い質問をおこなっている「ラジオ・フランス」特派員の西村カリン氏。『ミュージックステーション』(テレビ朝日)におけるジャニーズ以外の男性競合グループが出演できない問題や、ジャニーズ退所後に芸能界で干されてしまう問題を取り上げたのは、ジャーナリストの松谷創一郎氏だ。

さらに、東山自身のハラスメント疑惑について口火を切ったのは、しんぶん赤旗の記者であり、その後、フランスのル・フィガロ紙の記者や「Arc Times」尾形聡彦編集長、TBSラジオの澤田大樹記者、東京新聞・望月衣塑子記者、「文藝春秋」で活躍するジャーナリスト・秋山千佳氏らが後につづいた。白波瀬氏を会見に出席させなかった問題を追及したのも、望月記者をはじめ、「NewsPicks」や東洋経済新報社といった“非御用メディア”だった。

そして、こうした“非御用メディア”やフリーランスとは対照的に、ぬるい質問に終始したのが大手マスコミ、とくにテレビ局とスポーツ紙、芸能レポーターだ。

●NHKとTBS以外のテレビや芸能リポーターはぬるい質問に終始、スポニチ・日刊スポーツは質問せず

NHKとTBSについては、性被害に対するジャニーズ事務所の組織的な問題に踏み込んで質問をおこなっていたが、そのほかのテレビ局は当たり障りのない質問ばかり。

たとえば、フジテレビの木村拓也アナウンサーは「被害当事者の会との直接的な対話はジュリー氏と東山さんのどちらがおこなうのか」と質問。日本テレビも、ジュリー氏の退任時期について「どこまでの責務を終えたらと想像しているか」というものだった。

また、芸能レポーターたちにいたっては、完全に「芸能人会見」のノリ。実際、ジャニーズタレントの取材を看板にしてきた芸能レポーターの駒井千佳子氏は「芸能人としてタレントとしての活動が充実しているなかで社長を受ける大きな決断に至った経緯を詳しく」と尋ね、「テレビ朝日」と名乗って質問した山崎寛代氏は、「さきほどから東山さんが、ジャニー喜多川さんのことを喜多川氏と呼んでおりますけれども」と前置きして「ジャニーさんへの想い」について質問する始末。

同様に、サンケイスポーツの記者もジャニー氏を“さん付け”で呼んだ上、「もしジャニーさんに声が届くのならと仮定して、どういった言葉をいま伝えたいと思っているか」「ジャニーさんがこの一連のことをもし見ていたら、どういう言葉、どういう反応をするかと想像するか」という、あ然とするような質問をおこなったのだ。ちなみに、“ジャニーズとの癒着度が高い”と前述したスポニチと日刊スポーツは、最後まで何も質問しなかった。

ようするに、ジャニーズ事務所と癒着してきたテレビ局やスポーツ紙は、TBSとNHKを除いては、この期に及んでもジャニーズを「忖度」し、厳しく追及することを放棄したのだ。

●会見の感想すら口にしなかった羽鳥慎一、玉川徹もテレ朝の罪に踏み込まず、『zero』は櫻井翔のプロパガンダ垂れ流し

会見での質問がこの有様だったのだから、当然ながら、その後も手ぬるい報道ばかりだ。とくに目にあまるのが、やはりテレ朝の報道だ。

本サイトでは繰り返し指摘してきたが、テレ朝とジャニーズの癒着の歴史は古く、また、テレ朝がジャニーズにレッスン場を提供し、そこが性加害の現場になってきたのではないかという疑惑もある。つまり、ジャニーズとの関係を検証・総括することが強く求められるテレビ局のひとつだ。

だが、会見後の『報道ステーション』も、会見翌日の『羽鳥慎一モーニングショー』も、会見でおこなわれた厳しい追及の場面を流すものの、会見の評価は企業ガバナンスの専門家や弁護士といった有識者に任せっぱなしで、『報ステ』の大越健介キャスターは「ジャニーズ事務所が(調査)報告書が求める“解体的出直し”に踏み出すことができるかどうかは、テレビを含むエンタメ業界全体の今後にも大きく影響してくる問題」などと他人事コメント。羽鳥も、批判はおろか会見の感想さえ口にしなかった。

その上、酷かったのが、7月いっぱいでテレ朝を定年退職した玉川徹のコメントだ。玉川氏はジャニー氏の性加害問題をテレビが沈黙してきたことの問題点を語ったのだが、「恥ずかしいのは、今回はBBCの報道をきっかけにして始まっているということですね」と発言したのだ。

言っておくが、テレビは3月のBBCの報道後も沈黙をつづけ、ジャニー氏の性加害問題を取り上げはじめたのは、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で記者会見をおこなった翌日にジャニーズ事務所が公式コメントを発表して以降のことだ。しかも、テレ朝にいたっては、ジュリー氏が5月半ばに謝罪と公式見解を明らかにする動画と文書を公表するまで2カ月もダンマリを決め込んだのである。果敢に政権批判をおこなってきた玉川氏でさえ、この体たらくとは、まったく情けないにもほどがあるだろう。

しかし、問題はテレ朝だけではない。日本テレビも、会見後に放送された『news zero』では、月曜キャスターを務める櫻井翔のインタビューを放送。そのなかで櫻井は東山に「強い決意、覚悟を感じた」と強調し、「我々としては、とにかくストレートにエンタテインメントを届けるような環境にしなくてはならない」などと発言。いまだ被害者救済のスキームもはっきり示されない状態だというのに、櫻井は“ファンに笑顔を届けるジャニーズ事務所の再始動”を印象づけたのだ。日テレは、こんなたんなるジャニーズ・プロパガンダを垂れ流し、櫻井にキャスターを名乗らせているのである。

●藤島ジュリー景子、東山紀之による被害者軽視の暴言にもほとんどのテレビは無批判

無論、これはテレ朝や日テレだけの問題ではない。他の局・番組も、被害者救済に具体性がなかったことや社名問題などについては批判的なコメントを寄せるなどしてはいるが、逆にいうと決まりきった批判しか出ていない。そして、会見ではもっと批判されるべき発言が多々飛び出したというのに、多くの番組においては、それらの暴言が“美談”のように扱われてさえいる。

たとえば、多くの番組が、会見中にジュリー氏が「(ジャニーズタレントが性被害を受けて)いまスターになっているわけではなく、1人ずつのタレントが本当に努力して、そしてそれぞれの地位を勝ち取っている。失望も誤解もしないでほしい」と涙ながらに語った場面を無批判に放送しているが、この発言は性被害に遭った人たちを冒涜するようなものだ。

東山が被害者救済について「夢を奪われた彼らと、夢を諦めた僕が向き合っていきたい」語った場面も同様だ。TBS『Nスタ』などはこの言葉を批判していたが、一部番組では “ヒガシの決意が込められた言葉”であるかのように紹介。ジャニーズという絶大な芸能権力の庇護の下、スターとして順風満帆な道を歩んできた人物が、その末に社長業という選択をしただけであるにもかかわらず、性加害の被害者と同列に語るというのは、暴言以外の何ものでもないだろう。

しかも、東山は自身のセクハラ・パワハラ疑惑にかんしても、「(ハラスメントを)訴えをされてる方と今後対話をされる予定はあるか」という質問に対しても、「対応してもいいと思っています」とまさかの“上から目線”で返答。また、ジャニー氏の行為を「鬼畜の所業」だと断罪しながらも、「そういった思いを他のタレントさんにも伝えていくのか」と問われると、「それは各個人の思いが尊重されなければいけないんじゃないかな。それこそ人権なのかなと思います」などと言い出す始末だった。

これらの発言は、いずれも前社長・新社長としての資質を疑わざるを得ないものばかりだが、テレビでは無批判に流すか、ほとんど批判がなされないままなのだ。つまり、ほとんどのテレビ局・番組のスタンスが「ヨソが批判しているからウチでもやっておくか」といった“右にならえ”状態であるため、その結果、表面的な批判しかなされていないのだ。

本サイトはテレビ各局がジャニーズとの癒着の構造について検証をおこなうべきだと訴えてきたが、アリバイづくりの批判をしただけで、このまま嵐が過ぎ去るのを見守るつもりなのではないか。いや、この調子では、今後、東山をトップに据えた新体制としっかり距離を取ることができるのかも疑わしい。

会見において厳しい質問をおこなっていたTBSは『報道特集』『報道1930』をはじめとしてジャニーズ問題について継続的な報道をつづけており、同じように会見で厳しく迫っていたNHKも、11日に自局を含むテレビ業界がジャニーズの性加害に向き合ってこなかった問題を取り上げる番組を放送するという。NHKの番組内容がどのようなものになるのか、そしてテレ朝をはじめとする他局でも同じ動きは出てくるのか。注視する必要があるだろう。
(編集部)

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