好評につき、スズムシお裾分け今年も 飼育歴40年の旧国鉄マン 地元14施設や個人にお届け 兵庫・福崎

塩山顕治さん(後列右)と、スズムシの音色を楽しむ園児たち=福崎町福崎新

 兵庫県福崎町内のこども園や文化センターでは毎年この季節になると、スズムシが奏でる涼やかな音色が聞こえてくる。同町に住む塩山顕治さん(79)が大切に育て、長年「お裾分け」を続けている虫たちだ。楽しみにする住民も多く、親しみを込めて塩山さんを「鈴虫おじさん」と呼んでいる。(喜田美咲)

 塩山さんは同県朝来市出身。旧国鉄時代からJRに40年ほど勤めてきた。知人から譲り受けたのをきっかけに、1983年からスズムシを育て始めたという。

 国鉄が民営化された87年ごろ、駅のサービス向上の一環として、社宅のあったJR吹田駅にスズムシを入れた虫かごを置いてみると好評だった。同僚らから頼まれ、観光客の多い京都駅や関西空港駅にも贈るように。自宅で卵をかえして毎年、数を増やしてきた。

 退職した62歳のころ、実家のある福崎町に引っ越した。それ以降、数年前までは福崎駅にもスズムシを譲ってきた。感激した利用客から「出迎へは 鈴虫の音よ 里の駅」との句も駅に寄せられたという。

 7年前、地域で民生委員を始めて学校やこども園とのつながりができたのを機に、子どもたちにも「鈴虫おじさんだよ~」と虫かごを届けるようになった。

 すでに育てる数は数え切れなくなっているが、今年は5千匹を優に超えているという。卵がかえる6月ごろには成育に適した湿度のある土を作り、えさ場を備えた虫かごを作っていく。負担も大きいが、子どもらの喜ぶ顔を見ると「また来年も」と思えるという。現在は町内14の施設や希望する個人にプレゼントを続ける。

 8月17日には福崎幼児園(同町福崎新)を訪れ、子どもたちに虫かごいっぱいのスズムシを手渡した。塩山さんが「音が鳴るのは雄だけ。口じゃなく、羽をこすり合わせて出しているんだよ」と解説すると、子どもたちはかごに張りついてじっくり観察していた。園児(5)は「虫は苦手だったけれど、音がきれいでもっと聞きたくなった」と笑った。

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