野島伸司、「何曜日に生まれたの」に込めた“若者へのメッセージ”を明かす――「価値観を固めず、いろいろなことを受け入れてほしい」

ABCテレビが4月から新設し、日曜午後10時の全国ネット連続ドラマ枠の第2弾として放送中のドラマ「何曜日に生まれたの」。コモリビト(引きこもり)となってしまった主人公・黒目すい(飯豊まりえ)のもとに届いた高校時代の同窓会の招待状をきっかけに、サッカー部のムードメーカー・江田悠馬(井上祐貴)、エースの雨宮純平(YU)ら同級生との再会、そして橋爪リリ子(片山友希)が口にした「10年前のバイク事故の原因は私なの」という一言から、物語はいよいよ核心に迫っていく。

そんな本作で脚本を手掛けるのは、脚本家・野島伸司さん。「101回目のプロポーズ」(フジテレビ系)、「高校教師」(TBS系)など、多くの作品を世に送り出してきた野島さんだが、この「何曜日に生まれたの」は「コロナ禍を経験した若い世代に向けて作品を手掛けた」と明かす。物語の中でも、すいの同級生5人が大きな鍵を握っているが、そんな若いキャストが持つ力を野島さんはどのように感じているのか。

――「何曜日に生まれたの」は、どのようなところから着想を得られたのでしょうか?

「まず、主旋律として主人公のキャラクターをどうしようかと考えた時に、特殊なコロナ禍で青春時代に規制をかけられた、特殊な20代前半を生きた子たちに向けて寄り添って書いてみたいという感覚はありました。いわゆる、引きこもりや家庭内暴力といった事件は昔からある話ですが、そうではないコロナ禍で、そのまま引きこもりを余儀なくされた世代に向けて書いてあげたい、そういう感覚があったと思います」

――ドラマの予告でも「ラブストーリーか、ミステリーか、人間ドラマか、社会派か」とうたわれていますが、さまざまなジャンルを入れ込む中で気をつけたポイントはありましたか?

「実は、特に考えすぎずに書いたら出来上がったんです。予告映像も、あおったりもったいつけているわけではなくて、示しづらいからこそ『ラブストーリーか、ミステリーか、人間ドラマか、社会派か』と宣伝しているんじゃないかと思いますね。物語の前半は『10年前、主人公に何があった?』みたいな考察をしながらひもといていく感じでしたが、ここから後半にかけては全く違う形で話は進んでいきますので、自分でもカテゴリーとしてどこに入れればいいのかよく分からないところもありますね(笑)」

――制作発表記者会見では、溝端淳平さんが「すでに台本が出来上がっていた状態でクランクインできた」というお話もありましたが、物語自体は最初から完結まで、頭の中で構成されていたのでしょうか?

「僕は基本的に構成しないので、最終回の画だけはフワッとアバウトに決めていたのですが、それ以外はその時その時で楽しく書くというだけでした。先が見えてしまうと書くことが作業になって楽しくないので、書く時に(構成を)同時に考えるという自分のやり方は、他の脚本家の書き方とは全く違うと思います。確かに先が見えた方が書く時は楽かもしれないですが、構成をすればするほど、書いている時のライブ感や楽しさ、わくわく感がなくなって書きたくなくなってしまう。最初に決めたことに縛られすぎてしまうのもよくないと思うので、その時その時に書きながら考えているのですが、書いている時はものすごく脳みそを使うので、3時間が限界なんです(笑)。だから、効率的にも一番いいのは、2日で1話を書き上げる、それができたらいい状態だと思います」

――その中で、主人公のすいは引きこもりという役でしたが、キャラクターを作り上げていく中で意識されたこと、こだわったポイントはありましたか?

「基本的には父親と宅配の人ぐらいしか会っていない子だったので、“人と仲良く話すのがどういうことかを遮断されたような人”を入り口にしようとしました。キャラクターというより、背景的にそうならざるを得なかった、非常にプレーンなところから入ろうという感覚でした」

――すいを演じられる飯豊さんとはおよそ6年ぶりのタッグになりますね。

「新しいドラマ枠でみずみずしいキャストを主役にするということで、誰にしようかなみたいなお話をしたんです。僕は(飯豊が)高校生ぐらいの時に一度一緒にお仕事をしていたのですが、彼女はすごくプレーンで、芝居に関しても『私、芝居うまいでしょ』といった押し付けをするタイプでもなく、ドキュメンタリックすぎることもない、ちょうどいいバランスが取れた方なんです。たぶん、僕だけではなくて、作家や映像監督からも好かれるタイプの女優さんなのではないかと思います」

――本編の映像をご覧になられて、ご自身の中でイメージされていたキャラクターが「こんなふうになったんだ」といった気づきはありましたか?

「『イメージしない』といったらおかしな話なのですが、僕は(脚本を)書き終えたらただの一視聴者として別の見方をしているんです。特に、昔は映像を見返すには再放送やDVDを買うしか方法がなかったのが、今は(放送が)終わった後でもどこかで配信されるようになっている。考え方は昔と変わって、僕個人としても『いいものができればいいな』と感じていますね」

――今回、物語の中ですいの過去を知る5人の同級生キャストのオーディションには、野島さんも立ち会ったと伺いました。情報解禁時にも「若いキャストをそろえました」とコメントされていましたが、若いキャストが持つ力というのは野島さんから見てどのように感じていますか?

「どのぐらいポテンシャルがあるかが読めないので、今っぽく言えば誰がバズるか分からない。そういう楽しみ方があるのかなと思います。本来はそういう客層の量を増やしていくことが正しい連ドラ作家なのかもしれないのですが、そんなのはどうでもよくて、誰がフィーチャーされて、誰がガッと行くのかは本当に分からないのが面白いと思います」

――すいの同級生5人はそれぞれ個性豊かなキャラクターがそろっていますが、思い入れがあるキャラクターを教えてください。

「リリ子ですね。リリ子はそこまで特殊なキャラクターにするつもりはなかったのですが、書いていて『これじゃあつまんないよな』と、情景がどんどんその場で出来上がっている感じがありました。ああいう特殊なキャラクターって、『生い立ちとしてそういうふうになった』という想像力を与える作り方もあるのですが、今回はそれはいらないなと思って。『リリ子はそういう子なんだから』という感覚で描きました」

――情報解禁時には「普段ドラマを見ない、漫画とかアニメ派の方にも見ていただきたい」ともコメントされていましたね。あの言葉にはどんな意図が組み込まれていたのでしょうか?

「コロナでうっ屈した閉塞感の中で、いつの時代でも人が求めているものは必ずあって、みんなが崩れる時に聖なる英雄が生まれやすい。大谷翔平さん、藤井聡太さんみたいな人が現れている中、そのころエンタメでは日本人のスターが生まれるべきだったのが、みんな韓流ドラマに行ってしまったんですね。日本がコロナにじゅうりんされた時にはやったエンタメは『鬼滅の刃』で、僕はただの物書きなので、その時に漫画やアニメの方にも挑戦してみようと思って、ここ数年はそっちでも脚本を書いています」

――コロナ禍で漫画やアニメといった別ジャンルの作品の脚本を手掛けられる機会が増えたかと思いますが、今あらためて感じるドラマ作品とアニメ・漫画作品の面白さの違いを教えてください。

「かなり真逆だと思います。実写ドラマを見る人とアニメファンは、価値観や精神性も真逆に近い。よくアニメファンや漫画ファンの方って、“厨二病”とやゆされることがあるじゃないですか。それ3三次元のドラマに持ち込むと、『実際そんなやついねえから』みたいな理解できないキャラクターがそろってしまうと思うんです。でも、2次元なら面白ければ、かわいければいいから、そういう意味で受け入れ口のエンタメリテラシーが全然違う。アニメファンの方は、エンタメ濃度が高いのは間違いないと思います」

――野島さんにとっても、コロナ禍で意識の変化はありましたか?

「そうですね。2次元の方で脚本を書いてみて、自分は元からそっちの精神性が強いのかもしれないと思いました。例えば、実写作品だとリアリティーを求めて不倫ものがはやったりしますが、2次元の世界では性的な裏切り行為は完全にNGなんです。ヒロインや主役足り得ない、そういう潔癖な精神性というのは2次元の方がはるかに高くて、それが自分の感覚ともフィットするなと感じて。今回、陣内孝則さん演じる黒目丈治が漫画家であったり、溝端くん演じる公文竜炎がラノベ作家というドラマの設定はこの感覚からきていて、2次元寄りの感覚を引きずりながら実写ドラマの脚本を書いて、この『何曜日に生まれたの』が出来上がりました」

――本編の中でも、一部のシーンが漫画っぽく描かれる演出もありますね。

「2次元のファンと3次元のファンというのはかなり違いがあって、2次元のファンの方は好きなものをどこまでも深く好きになる、趣味的要素もすごくかぶってくるんです。今では配信があるので、深夜帯も含めると膨大な数の作品が毎クール作られていて、ただ消化されてしまっているだけの感じもすごくあるんです。でも2次元のファンというのは、好きなアニメがあったらずっとそのアニメが好きでいる。そういういちず性というのは、『もっと広いところで多くの人に』みたいな感覚もあるかもしれませんが、僕みたいな作り手からすると、少数でも好きになってもらう方がうれしいです。配信としてどこかに残るのなら、自分たちの死後ももしかしたら見る人もいるかもしれないので、リアルタイムの視聴者に向けてこびずに、消化されないドラマ、消化されないソフトを作りたいと思っています」

――コロナ禍を経験した若い世代に向けて作品を作られたというお話もありましたが、若者のテレビ離れが近年は進んでいる中で、若い世代に伝えたいエンターテインメントの魅力を教えてください。

「全面には出していないのですが、今回僕なりに“価値観”というものを一つのテーマにしていて。価値観を固定すると、自分の好きなものしか面白くないと思ってしまうので、とにかく価値観を固定せずにいろいろなものを受け入れる。若い世代でも、『私らしく』『自分らしく』みたいな風潮がありますが、それは意外とわなで、受け入れられないものは拒否反応が出たりするので、なるべく『自分ではよく分からない』『自分らしさなんてまだないかも』と価値観を固定しないでいただきたいです。『自分らしく』と価値観を固めた方がメンタルとしては安定するのですが、それは違う意見や違うものが入りづらくなってしまう。自分が分からずメンタルは不安定になるかもしれないのですが、『価値観を固定しなければ、その分いろいろなことがまだ受け入れられるんだよ。だからまだ自分を固めないで』というメッセージをこの作品には込めています」

――ドラマもいよいよ後半戦に突入していきます。今後のドラマの見どころを教えてください。

「コロナ禍での若い世代というのは、一番アンテナが立っているのにその青春時代を制約されてしまった、そういう人たちに向けてこの作品を書いているので、そういった狭くて強い思いが派生して、他の人も見てくれればと思っています。物書きは一種のラブレターを書くみたいなものなので、結果としては明確にその対象者を狭くした方がソフトとしてはいいものができるのではないかと思っています」

【プロフィール】

野島伸司(のじま しんじ)
1963年3月4日生まれ。新潟県出身。88年、「時には母のない子のように」で第2回フジテレビ・ヤングシナリオ大賞を受賞。以降、「愛しあってるかい!」「101回目のプロポーズ」「プライド」(すべてフジテレビ系)、「高校教師」「アルジャーノンに花束を」(ともにTBS系)、「パパ活」(FOD)など多くのドラマ作品の脚本を手掛ける。また、2021年にはアニメ「ワンダーエッグ・プライオリティ」の原案・脚本を担当、現在連載中の漫画「シード・オブ・ライフ」(光文社)では原作を担当している。

【番組情報】

「何曜日に生まれたの」
テレビ朝日系
日曜 午後10:00〜10:54
※放送終了後、TVer、ABEMAで最新話を見逃し配信
※TELASA、U-NEXTでは全話見逃し配信

配信限定スピンオフドラマ「10年前の放課後」
TVer、ABEMAにて公開
「10年前の放課後~拳と拳の戦い~」
「10年前の放課後~私のこと、どう思ってる?~」

取材・文・撮影/平川秋胡(ABCテレビ担当)

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