斉藤由貴が演じる 宿命の少女 麻宮サキ「スケバン刑事」は初代こそ最高傑作!  9月10日は斉藤由貴誕生日

元スケバンにして死刑囚の母のために魂を売った宿命の少女・麻宮サキ

「スケバンまで張ったこの麻宮サキが、何の因果か落ちぶれて、今じゃマッポの手先。笑いたければ笑えばいいさ。だがな! てめぇらみてぇに魂までは薄汚れちゃいねぇんだぜ!」

一度聞いたら忘れないインパクトのあるこのセリフは、今から38年前に放映されたドラマ『スケバン刑事』(フジテレビ)で主人公・麻宮サキが悪党を懲らしめる際に放つ決め口上である。 元スケバンにして死刑囚の母のために魂を売った宿命の少女・麻宮サキを演じたのは斉藤由貴。同ドラマは彼女の俳優デビュー作でもある。

シリーズはその後、第3作まで製作され、南野陽子、浅香唯というトップアイドルを輩出した。80年代アイドルブームを語る上で避けては通れない重要作品であるが、やはり原点こそが頂点と言うべきか、個人的には斉藤由貴主演の初代が最高傑作だと声を大にして主張したい。

斉藤由貴以外の初代麻宮サキなど想像さえできないほどの当たり役

明星食品「青春という名のラーメン」のコマーシャルでテレビ初登場。お茶の間に登場するや、瞬く間に全国の男子の心を鷲掴みにした斉藤由貴は、85年2月のデビューシングル「卒業」の大ヒットで一躍してトップアイドルの座に登り詰める。そして4月には『スケバン刑事』が放映開始―― と矢継ぎ早の出演ラッシュである。この時期はテレビで斉藤由貴を見ない日は無いという状況だった。

『スケバン刑事』は元々、別のアイドルが麻宮サキ役を演じる予定だったが、諸般の事情で急遽、斉藤にチャンスが巡ってきたという経緯がある。いわば代役としての抜擢だが、今となっては斉藤由貴以外の初代麻宮サキなど想像さえできないほどの当たり役となった。しかし、当時の斉藤といえば大きな瞳とポニーテールが魅力の清純派アイドルだ。言わばスケバンとは正反対の存在だが、敢えてパーマやアイシャドー、細眉、紫色の口紅といったツッパリの定番イメージを一切スルーし、“アイドル・斉藤由貴” のまま演じたことが勝因だったように思える。

正直、あのキュートなルックスで元スケバンという設定は相当ムリがあるのだが、だからこそ冒頭に紹介した決め口上や、「〜だぜ」といった男言葉がイメージとのギャップによって際立つのだ。いつの時代もギャップは正義。ドラマのデビュー作にしてイメージ通りの可愛らしい役柄ではなく、スケバンという斉藤由貴本来のキャラとは程遠いエキセントリックな役に挑戦したことが、同性を含めた幅広い支持を生むきっかけになったと言えるだろう。

岩をも砕くヨーヨーを使ったアクションシーン

ところで『スケバン刑事』は表向き、学園ドラマの体を成しているものの、実質的には「特撮」にカテゴライズされるべき作品だと思う。岩をも砕くヨーヨーを使ったアクションシーンを筆頭とした荒唐無稽な演出の数々はいかにも特撮的である。それもそのはず、同ドラマの制作はあの東映なのだ。メイン監督の田中秀夫は『怪傑ズバット』や『宇宙刑事シリーズ』で実績を積んだ名匠中の名匠。同じく監督を務めた坂本太郎、小西通雄も『東映不思議コメディシリーズ』、『スーパー戦隊シリーズ』を多数手がけるなど、両者ともに特撮ファンの間では知らぬ者のいない伝説的な人物である。

それに加えて東映といえば、古くから刑事ドラマを得意とする映画会社だ。上述の監督たちはいずれも『非情のライセンス』『Gメン'75』『特捜最前線』といった名作に携わってきたキャリアを持つ。『スケバン刑事』全編を通して流れるハードボイルドな空気感―― 救いがなく、後味の悪いエンディング等には、こうした刑事ドラマの影響が色濃く反映されている。

刑事ドラマ要素に加え、決め口上やお約束的なパターン展開はこちらも東映のお家芸である時代劇要素も感じられる。これらを『スチュワーデス物語』以降のトレンドになっていた旬のアイドルを起用したメロドラマにぶち込み、悪魔的な化学変化をもたらしたのが『スケバン刑事』なのだ。ちなみに原作は和田慎二の同名漫画だが、大まかな設定以外はほとんどオリジナル作品と言ってもいいほど改変されている。

これぞ東映! というケレン味たっぷりの世界観、エンディングテーマは斉藤由貴「白い炎」

全25話の物語は明確な二部構成。第10話までは学園にはびこる小悪党をこらしめる一話完結の事件編で、第11話からは日本支配を企む海槌コンツェルンとの死闘を描いたメインストーリーが展開される。果たしてサキの母親の運命は? そしてサキは普通の女の子に戻れるのか? 回を重ねるごとに悲壮感が増し、ハードになっていくストーリーは見応え十分だ。ぶっとんだ設定や演出が時に “キワモノ” とも評される同ドラマだが、これぞ東映! というケレン味たっぷりの世界観はクセになること請け合いだ。

エンディングテーマは斉藤由貴「白い炎」。この曲をバックにしてセーラー服の斉藤が原宿や神宮外苑を散策する映像がとても印象深い。80年代の都内の様子を捉えた歴史資料としても貴重な映像であるが、特に三角クレープを手に、ほんの一瞬だけ斉藤由貴がとびきりの笑顔をみせるカットの神々しさたるや――! その直後、次回予告での決めゼリフ「おまえら、許さねえ!」とのギャップも相まって破壊力抜群である。

カタリベ: 広瀬いくと

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