大人になるまで気づかない“見えない障害” 「生きづらさは発達障害の特性」

小中学生の15人に1人が抱えているといわれる『発達障害』。コミュニケーションが苦手だったり、こだわりが強いなどの特性がみられ、子どもの頃からそうした特性が現れる人もいます。しかし、最近では大人になってから診断を受け、初めて気づくケースが増えているといいます。当事者たちを取材しました。

「自分に何か問題があるのか」抱え続けた生きづらさの理由

(女性)
「いろんな音が一気に入ると集中できなくなってしまうので、町中に行く時はイヤホンをつける」

(男性)
「友達も少なくて仕事もできなくて、何回も転職を繰り返していて、自分に何か問題があるのかなと思って」

ずっと抱えていた生きづらさの理由。発達障害であることを大人になってから知る人たちがいます。

名古屋市に住む白浜渚土さん(仮名)当時31歳。3年前に発達障害の一種、“自閉症スペクトラム”と診断されました。“アスペルガー症候群”とも呼ばれ、人とのコミュニケーションが苦手などの特性があります。しかし、記者が1日取材していても…

(白浜さん)
「(Q話していてもコミュニケーションをとれているように感じるが?)そうですね、短い付き合いだといいんですが、長く付き合ったり仕事の面だと(認識の)行き違いや思い込みが発生して…」

その障害は、簡単には見えてこないのです。白浜さんは、学校の勉強などでは特に問題はありませんでしたが、専門学校を卒業して就職すると多くの困難が待っていたといいます。

(白浜さん)
「自分がこうだと思っていたことが上司や周りの人の意向とは違って、(認識の)食い違いが発生したりして、気を付けようとはするが同じパターンで仕事に結果が出せなくて周りに似たような注意をされて(会社に)いづらくなって辞めていく」

“空気が読めない”、“相手の気持ちをうまく汲み取れない”。周囲にも理解されないまま、白浜さんは職場でミスを繰り返し、これまでに5回の転職を経験。現在は障害者として雇用されることも視野に就職活動を続けています。

(白浜さん)
「生きづらいというか、孤立したり苦労していたことは発達障害の特性だと納得して腑に落ちた」

そんな白浜さんを救ったのは、同じ境遇の人たちとの対話でした。

学生の頃は“おっちょこちょい”で済んでいた

交流会を開いたのは、名古屋で発達障害のある人たちの支援活動を行う、水月ひなたさん。ここ最近、白浜さんのように大人になってから発達障害と診断される人が
増えてきているといいます。

(水月ひなたさん)
「平成5年くらいに生まれた子供だと検査で(発達障害だと)わかったりするが、それ以前に生まれている人だとそういうことがないのでわからない。なんとなく学生の時も困っていたが、勉強さえできていれば何とかなった。社会人になってマルチタスク(同時平行作業)ができなくて困り始める」

この日、交流会に訪れていた岡田奈々美さん32歳。

(岡田さん)
「20歳の時に注意欠如・多動症=ADHDの不注意型と診断されて、忘れ物が多いとか時間が守れないとか、片付けができないというタイプ」

注意力が散漫で、自分の興味あること以外には集中力が続かないなどの特性がある“ADHD”。

(岡田さん)
「学生の頃は“ちょっと変わっている”か、“ちょっとおっちょこちょい”で済まされていたが、社会のルールで生活するとなった時に初めてつまずいて、病院に行きました」

岡田さんの名古屋市内の自宅にお邪魔しました。

夫と、5歳と3歳の子どもの4人で暮らす岡田さん。その生活の様子を覗いてみると…

子どもが遊んだおもちゃなどを片付けるのは、夫の修一さんです。

(夫・修一さん)
「(妻は)片付けができないという部分で、出したものがそのままの状態で1日、2日そのままということもあるので」

イヤホンで耳を塞ぐのは、1つの音に集中するため

毎日の食事を作るのは、岡田さんの役割です。

(岡田さん)
「耳ふさいでいていい?イヤホン」

イヤホンをしながら料理をするのにも、ワケがあります。

(岡田さん)
「“聴覚過敏”に入るのだと思うが、喋っている声、おもちゃの音、(周囲が)何をしているのか気になって、結構(料理を)焦がしたり、火をつけっぱなしにしたりとか危ないことが増えていて」

人より周囲の音が大きく聴こえる“聴覚過敏”。これもADHDの人にみられる特性の一つで、イヤホンで音楽を流して、一つの音に集中することで気が散るのを防いでいるのだそうです。

(岡田さん)
「(Qこういう中で話をするのは?)結構しんどい、音がすごい。聞き取りと、こっち(子供の声)の音と自分の声で、耳の中でガーっと音が反響している状態」

(岡田さん)
「彼(長男)も自閉スペクトラム症と3歳の時に診断されています』

かつては発達障害が原因でこんな問題がありました。

(岡田さん)
「(長男は)寝なかった。寝ないのが辛かった。1歳の時くらいから朝8時に起きてお昼寝なしで明け方の3時4時まで元気なんですよ。訴えていることもわからないし、こっちも毎日朝まで頑張って起きて…」

なかなか眠りにつけない“睡眠障害”は、発達障害の子どもにみられる特性の一つ。当時、夫のサポートもありましたが岡田さんは過酷な育児に疲弊し、産後うつになったといいます。

(岡田さん)
「どうすることもできなかったので(夫婦で)もがいていた。何をしたら正解なのかもわからなくて…」

どの家庭にもある子育ての苦労。しかし、発達障害が原因でその大変さは何倍にもなることもあるのです。

「『お母さん、ちゃんとしつけていますか?』とものすごく言われた」

(水月さん)
「気持ちがわかる人たちと感情を共有するのは、すごく大切だし有効だと思う」

発達障害がある人やその家族の支援活動を行う水月ひなたさん。活動を始めたきっかけは、自らのある経験でした。

(水月さん)
「私の場合は子どもがすごくわかりやすい発達障害」

長女の りなさん(仮名)は、中学3年生の時に発達障害と診断されました。

(水月さん)
「学校から逃げ出すとか、授業をしていて嫌だったら逃げちゃうとか、思いがけない行動に出たりするので毎日ひやひやしていた」

りなさんは発達障害と診断されるまで学校ではただ単に問題児として扱われ、水月さんとの親子関係も良好とは言えなかったといいます。

(水月さん)
「『学校でできないのは親のしつけが悪い』『お母さんちゃんとしつけていますか?』とものすごく言われた」

水月さんには、月に1度必ず訪れる場所があります。

(水月さん)
「子どもはこのお墓に眠っている。長女は2005年に亡くなっている」

水月さんの長女・りなさんは中学3年生の時に建物の5階から転落。発達障害と診断されてから、わずか半年後の事故でした。

(水月さん)
「当時、発達障害がわかってからは、かなりコミュニケーションはうまくいっていたが、もうちょっと一歩踏み込んで話していたら、事故は防げたかもしれない。自責の念でしかない」

当事者ですら気づくことが難しく目には見えない障害、発達障害。しかし、周りの人たちが見方を変えることで、救うことはできると水月さんは話します。

(水月さん)
「(長女が)心療内科にかかった時に『典型的なアスペルガーです』と言われたんです。その時に子どもが『なんでもっと早くわからなかったの?』と言って…私のようになくしてから後悔することはたくさんあるので、少しでも理解すればそれは変えられるので、(支援活動が)そういった人たちのお手伝いになればと思っています」

2021年6月「チャント!」放送

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