「きっかけは余命宣告」一緒に暮らし始めて4年目の夏、ニワトリおじさんと“きなこ”の今に密着

2023年8月27日、名古屋市中区新栄で開かれた「新栄祭」。その会場でひと際注目を集めていたのは、大きなニワトリを連れて歩く近藤功久さん(59歳)でした。

なぜ、ニワトリと一緒に暮らすようになったのか、その裏に抱えている思いとは何なのか。一緒に暮らし始めて4年目の夏を迎えた、近藤さんとニワトリの“きなこ”の現在の生活に密着しました。

「あの子がいるから頑張る」余命宣告がきっかけで飼い始めた“きなこ”との深い絆

2022年6月、「街中でニワトリを連れた男性が散歩している」とSNSで話題になり、近藤さんと“きなこ”の生活を密着取材しました。2019年から飼い始めた雌鶏の“きなこ“は、「岡崎おうはん」という品種のニワトリで、肉も卵もおいしいのが特長ですが、近藤さんはあくまでペットとして“きなこ”を飼っているといいます。

独特な存在感を放つ2人の関係性は、単なる独身男性とニワトリの共同生活ではないようです。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「(Q何の検査?)がんの再発がないように定期的に。最初はステージ4で見つかって、(余命)3年ぐらいと言われたんですけどね」

6年前にステージ4の大腸がんが見つかり、大腸のほとんどを切除しました。しかし、その後、腎臓に転移。今も抗がん剤による治療を続けています。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「自分が5年生きられるとしたら、5年くらいの寿命の生き物がちょうどいい。今では支えに近いですからね。あの子がいるから頑張らなきゃいけない」

“きなこ”の存在を支えに、がんと闘う近藤さん。そこには、飼い主とペットの関係を超えた強い絆がありました。

ニワトリの平均寿命は5~10年、夏バテ気味の“きなこ”を看病

初めて近藤さんと“きなこ”に密着取材した日から約1年。近藤さんと“きなこ”がいつも散歩中に立ち寄る公園に行ってみると、近藤さんの姿しかありませんでした。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「(Qきなこはいない?)きなこはちょっと今暑いので、もうちょっと涼しくなったら散歩に出そうかと。ニワトリは暑いと体調を崩したりする」

実はこの3日前、“きなこ”は散歩中に熱中症のような状態になってしまったといいます。立つことができず、水場に顔を突っ込むようにして水を飲んでいたのです。近藤さんの看病もあり、きなこの体力は回復してきました。この後、近藤さんが向かったのは公園から徒歩3分ほどの所にある「浅井鳥獣店」です。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「僕はここで分からないことは聞く」

まだ完全に食欲が戻らない“きなこ”のために、ニワトリの大好物だという特別なエサを買いに来た近藤さん。自宅に戻ると、すっかり元気になった様子の“きなこ”が出迎えてくれました。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「もう覚悟決めたんだけどね、もうこの子だめだって…。でもなんとか元気になってくれたんでね」

回復したといっても、ニワトリの平均寿命は5~10年。今年で4歳になった“きなこ”は、以前のように卵も産まなくなりました。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「普通だったら(寿命は)4、5年だからそろそろかなというのはあるけど、もうちょっと頑張ってくれたら僕もうれしい」

「いつ逝ってもいいように」終活中に漏らした“孤独死”への恐怖

別の日、近藤さんは愛知県知多市に墓参りに訪れました。知多市出身の近藤さんは毎年、お盆の時期に墓参りに来ています。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「おやじもがんですね。おやじが52歳の時に病院に入って、2週間かそこらですね」

約40年前に肝臓がんで亡くなった父・保政さんの墓前に手を合わせます。自分ももっと健康に気を使えたらよかったという近藤さん。大腸がんが見つかった時には既にステージ4でした。自分も一緒の墓に入ることを考え、墓は建て直しました。いつ逝ってもいいように、墓石には自分の名前も刻まれています。自分が亡くなったあとは、妹が墓の面倒を見てくれる予定です。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「余命宣告されていましたからね。いつ逝ってもいいようにというのはあったので。正直苦しいんですよ、抗がん剤の副作用って。下手すれば、病気より苦しいんじゃないかと思うときもある。こんな苦しい思いするんだったら、この延命治療やめちゃって、さっさと決められた(余命で)死ぬのもありだよな、なんて…」

孤独な闘病生活で、これまで何度も死を覚悟したといいますが、近藤さんには“死”以上に恐れていたことがありました。最後にお参りしたのは、身寄りがない人や、管理する人がいないお墓を集めた「供養塔」です。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「隣に誰が住んでいるのか分からないで、いつの間にか隣で亡くなっていたというのも、実際に自分の近所の部屋でもありましたからね。孤独死ですよね」

近藤さんが最も恐れていたのは、誰にも看取られることのない“孤独死”という人生の最期の迎え方でした。

4年ぶり!一緒に夏祭りへ「この子がつながりを作ってくれている」

2023年8月27日の「新栄祭」では、地域の店舗や企業がブースを出店し、大勢の人で賑わいました。新型コロナの影響で中止が続いていたため、開催は4年ぶりです。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「(この祭りは)本当に久しぶりですね。(きなこが)小さい頃なので、その頃から散歩には来ていた」

4年前、“きなこ”を飼い始めた頃に初めて訪れた夏祭り。今年も“きなこ”と一緒に参加することができました。近藤さんと“きなこ”の周りには子どもたちだけでなく大人も集まります。そこには、“孤独”を恐れる近藤さんの姿はありませんでした。

(ニワトリと暮らす近藤功久さん)
「『最近散歩に来てなかったけど、大丈夫?』とか言ってくれる人もいるので。この子がつながりを作ってくれている。ありがたいですよね、この子の存在は」

今日も、これからも、近藤さんと“きなこ”が一緒に過ごす日々はまだまだ続きます。

CBCテレビ「チャント!」8月28日放送より

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