日々のくらしで、以下のようなことを思うことはないでしょうか。
- 「こんな悩みは、わたしだけだろうか」
- 「わたしのほかに、同じことで困っているひとはいないのかな」
- 「ほかのひとはどうしているんだろう」
以前に比べると、いろいろなことがインターネットで調べられるようになりました。
誰かに聞かなくてもわかる手軽さやスピード感のおかげで、便利になったと感じることも多いです。
一方で、困るときも調べるときもひとり、実際にやってみるときも解決したときもひとり、さらに解決しないときにはひとりで困り続ける…。
そんな「ひとり」を感じることはないでしょうか。
たったひとりでも誰かとつながることが、困りごとを解決する以上の助けになるのかもしれない。
そんなつながりを生み出そうと活動している任意団体「おやカンパニー」を紹介します。
おやカンパニーとは
2020年5月に立ち上がった「おやカンパニー」。
おやカンパニーという団体名、どこかで聞いたことがあるような気がしませんか。
実は、少しでも覚えてもらおうとの思いから、有名な企業名を参考にしたのだそうです。
親であるひとたちはもちろん、子どもがいなくても誰にでも親はいる、身近な存在でありたいという願いが団体名の由来です。
団体の理念
身近な存在でありたいと願うおやカンパニーの団体理念は三つあります。
おやカンパニーの理念
〇人と社会を繋げる新しい在り方の提案
〇笑顔と楽しい時間の共有
〇子どもから学び大人から学び愛情のシェア
「つなげる」、「共有」、「学び合う」。
ひととひととのやり取りから生まれるものを大事にしているようすが、理念の一つひとつから感じられます。
実際の活動はどのようなものでしょうか。
活動内容の紹介
活動の概要と、そのなかから「多世代交流ゆいまーる」と「わらしべ市」を紹介します。
活動開始3年間は、倉敷市の助成金である地域福祉基金を活用して運営してきました。
令和5年度からは助成金に頼らない運営を目指します。
多世代交流ゆいまーる ~ 子どもから大人、大人から子どものつながりの輪
2020年団体開始時には、赤ちゃんからお年寄りまで交流できる居場所・多世代交流つむぎカフェとしてスタート。
2021年1月から現活動名になり、誰でも利用できる地域食堂として活動を進めてきました。
多世代交流ゆいまーる(以下、「ゆいまーる」)の「ゆいまーる」は沖縄弁で「助け合う、共同作業、一緒にがんばろう」という意味があるのだとか。
その言葉の意味につながる活動の特徴があります。
ひとつは子どもが食事をつくること、もうひとつは活動内だけでつかえる「つむぎ紙幣」という通貨があること。
つむぎ紙幣は、食事をつくった子どもたちにお給料として支払われるもので、ゆいまーるでおこなわれるワークショップやハンドメイド作品の販売でつかえます。
一枚100円で大人が購入して寄付もでき、中学生までの子どもが、一日二枚までつかえる仕組みです。
子どもと大人のかかわりのほかに、食事につかわれる食材にも特徴があります。
ゆいまーるでつかわれる食材は、企業や農家、個人から提供してもらったものをつかい、廃棄食材削減にも一役買っているのです。
2022年の活動では、「コノヒトカン」をつかって、お弁当を提供しました。
「コノヒトカン」とは、一般社団法人コノヒトカンが、フードロスや貧困の社会課題の解決を目指してつくる缶詰です。
食材の循環に加え、ゆいまーるのなかにはものを循環させる仕組みもあります。
わらしべ市 ~ 必要なものが必要なひとへ届く市
わらしべ市とは、必要なものが必要なひとへ届くよう、ものの交流を目的とした活動で、ゆいまーる開催時だけでなく、おやカンパニーのほかの活動に合わせて開かれます。
わらしべの由来は、むかしばなしの「わらしべ長者」。
自分の持ちものを、必要なひとへ譲りつつ、自分自身も豊かになった青年のお話は、わらしべ市で叶えたい地域のありかたのひとつです。
企業や農家、個人から無償で提供された日用品や服、子ども用品や野菜などを、必要なひとが無料で持ち帰られるもので、倉敷市社会福祉協議会による「くらしき互近助パントリープロジェクト」とも連携しています。
精力的に活動を生み出し、つながるきっかけを増やし続けているおやカンパニー。
代表の松江つぐみ(まつえ つぐみ)さんに話を聞きました。
おやカンパニー代表・松江つぐみさんにインタビュー
「今年一年は、来年につながる学びの年にできたらと思っています」といいつつ、新しい活動を提案してくれた代表の松江さん。
活動の源になる思いについて聞きました。
おやカンパニーのきっかけ
──おやカンパニーをはじめたきっかけを教えてください。
松江(敬称略)──
ちょうど新型コロナウイルス感染症が流行して、初めて緊急事態宣言が出たころと、末っ子の出産が重なりました。
退院後のちょっとしたことも、どうしたらいいかわからない不安があったり、自由にできない制限があったりして、「こういうこと、他のひとはどうしているんだろう。同じことで困っているひともいるんじゃないか」と思ったんです。
末っ子の妊娠を機にいったん止めていたんですが、実は過去に起業してイベント開催やスペースづくりをしていたことがありました。
自分にできることはないのか、やりたいことはないのかと思ったときに、もう一度やってみようと思ったんです。
もともとやっていたんだし、つながりがあれば助け合えるんじゃないかと思って。
それで、もともと地域福祉に興味を持っていた知人たちに声をかけて、2020年5月に任意団体を立ち上げ、自分自身の体験をもとに、お弁当配達を秋ごろから始めることにしました。
わたし自身、県外出身で友だちや知り合いがいないなかで、出産・子育てを経験しました。
三人目を出産したときに実家から親が来て食事を運んでくれて、本当に助かったことが、お弁当配達をしようと思ったきっかけです。
──産前産後の活動のひとつですね。
松江──
そうです。
お弁当配達は、一日20食限定なので、家族4~5人分まとめて注文をもらうと、4~5家族分で終わってしまうんですが。
産後6か月ごろまでを目安にしつつ、希望があれば延長して配達するようにしていました。
産前産後の活動として、ほかにもファミリーマルシェというイベントを年に二回しています。
産後ママでも、起業したり、自分の好きなこと、やりたいことがあったりするひとがいます。
そのひとたちがやりたいことを形にしてマルシェに参加し、その姿を見たひとが「なんか、いいな」と感じて、自分に自信を持ってもらえるといいなぁと思うんです。
そういう活動をしているうちに、自分の好きなことはつながっていくことなんだなぁと気づいて、こんなことをやってみようとか、今までの人脈をつないでいこうと思いはじめました。
──つながっていくことで見える、おやカンパニーさんが目指すビジョンはどんなものですか。
松江──
おやカンパニーの活動の場所で出会ったひとたちが、何か一歩踏み出せるというか。
交流ができる場をつくっていくことで、いろいろなひとと助け合いながら生きていける社会にできたらな、と思います。
自分のやりたいことを自信を持ってやってもらえるような活動ができたらいいなと思うんです。
子どもを連れてあちこちに行くのって大変だけど、子連れで行っても受け入れてもらえる場所もあるし、自分がやりたいことを子どもが小さいからって諦めるのも、気持ちのなかではなかなかできないですよね。
それよりは、やりたいことをやって、その分子どもにもしっかりかかわってやっていけたら、大変だけど息抜きにもなるし、楽しいですよね。
助け合うことで、一人ひとりの活躍を目指す
──活動内容は子育て支援という言いかたになるかもしれませんが、お話を聞いていると、おもに子育てを担うことが多い女性自身の活躍を応援したい、というメッセージがあるように感じました。
松江──
そうかもしれないです。
わたし自身が自分のやりたいことをいまだに探しているようなところもあります。
自分の得意なことを探しているというか。
できないなぁと思っても、いざやってみたらできる経験もしてきて、誰にでもそんな活躍の場所があるといいなぁと思います。
──いろいろなひととつながって、助け合っていきながら、自分がやりたいことをして活躍できるように、ということですね。だからこそ松江さん自身が経験した困りごとをいかして、ほかのひとが困らないようにという思いも感じます。
松江──
経験といえば、経験したことや見たことがあるものからしか、提供できないと思っていて。
そんなときに、わたし自身がつなげる立場になりたいです。
たとえば、子どもの発達や学校の行きにくさなどで悩んでいるひとがいるとしたら、わたし自身は同じことで悩んでいなくても、いろいろな団体や人物とつながっていることで、悩んでいるひとと同じ悩みのひとや団体をつなげられます。
そんな立場になりたいですし、悩んでいるひとたちの思いをくんで、団体を立ち上げたい、何かしたいんだというひとがいれば、背中を押す立ち位置でもありたいと思っています。
──2023年5月に開催していた、居場所異業種交流会・マスク舞踏会は、まさに何かしたいひとの背中を押すイベントですね。
松江──
そうですね。
そこで出会って、「こういうのがやりたい」と話してくれたひとが、今は団体を立ち上げて活動されています。
一歩を踏み出す勇気って難しいというか。
誰かがやっているのを真似しながら、自分らしく活動できたら、それがいちばんいいと思うんです。
「やりたい」を原動力に
──やりたいことを形にしていくのは、大変ですがきっと楽しいですね。松江さんが体験した大変なことがあれば教えてください。
松江──
「ひととのやり取り」ですね。
同じ思いを持っているけれど、性格や価値観は違いますし、ここは譲れないというものや方向性が出てくることがあります。
その結果、別の道を選ぶこともありますよね。
なので、どうやって伝えようか、伝えるべきかどうかで悩むことも。
妥協すれば、自分のやりたいことがくずれることもあります。
もう一言を言わなかったばっかりに、周りからネガティブな反応が返ることもありました。
ひとですから、相手によって受け取りかたが違って誤解を招くこともあるので、難しいなぁと感じることがあります。
家にひきこもって自問自答しながら、数日かけて自分の道はこれだなと思っては、また進み、という感じです。
──大変なときに、「やっぱりこれだな」という、最後に戻ってくる思いはなんですか。
松江──
挑戦です。
やりたいと思うことが明確に自分のなかに決まっていても、ネガティブな意見や反応があれば、やっぱり落ち込みますよね。
落ち込むけど、そんなときは考え方も変えながら、何日か何週間か自問自答してみるんです。
でもやっぱりやりたいとなれば、挑戦する。
そうして一歩進めたときに、ぱぱぱぱっとものごとが進んでいくこともあって、あ、これで良かったんだなとか。
自分のやりたいことが明確になって、その目標に向かっていけばいいんじゃないかなと思います。
──まさに、やりたいことをして活躍する、の体現ですね。では、これまでのうれしかったことは何でしょうか。
松江──
うれしい感想をもらったときです。
「気持ちが落ちていたけど、この場でこのひとと会えて、こういう声をもらったから、立ち直れました」っていうプラスの声をもらったときに、やって良かった!と思います。
その感想を周りで聞いていたひとが団体のことを知って、一緒にやりたいと思ってくれたり、その場にいたボランティアさんがこれからもがんばりたいと思ってくれたりもするので。
──今後の活動について教えてください。
松江──
2023年は、助成金なしで活動する初めての年です。
これまでは緊急事態宣言のなか、待ってくれているひとがいるかもしれないという思いもあり、毎月やってきました。
小さい子どもがいるスタッフもいるので、2023年は今までよりもゆっくり活動しようかと話しています。
個人的には、学ぶ機会が巡ってきているので、ちょっとずつ知識を増やして、地域で何が困っているのかを探りながらできるかなと思っています。
──ゆっくり活動をとのことですが、「いちゃりば」は今年(2023年)から始まる活動ですね。
松江──
はい、「いちゃりば」は2023年7月に初開催しました。
親子でいちゃいちゃしながら過ごせる場所ができたらなぁと思って。
県外や学区外から来たひとたちも、この場所で参加者同士や、スタッフとつながって、そこからまた別の活動や団体、専門家につながれる場にしたいです。
ゆいまーるに来てくれるお父さんもいるんですが、「いちゃりば」にお父さん向けの講座も取り入れたいなと思っていて。
男性と女性で視点、観点が違うんですよね。そういうことが伝えられたらなぁと思います。
おわりに
取材中、何度も「つなぐ」、「つなげる」という言葉が出てきました。
ひととのやり取りに取り組み、やりたい気持ちを原動力に、いろいろなひととつながっていく代表の松江さん。
松江さんが活躍する姿が、おやカンパニーそのものだと感じました。
親でも、親でなくても。子育てをしていても、していなくても。
困っていれば助け合い、「何かをやりたい」ひとが活躍できる社会をめざして。
経験とつながりで一人ひとりを応援してくれる、松江さんとおやカンパニーの活動から、これからも目が離せません。