飲み込む力弱くても外食楽しんで 味、見た目、軟らかさ…兵庫・明石の居酒屋がコース料理提供

見た目も普通の食事に近いとんかつや煮物など(年輪提供)

 病気や障害、老化などでかむ力、のみ込む力が弱い「嚥下(えんげ)障害」の人にも外食を楽しんでほしい-。パピオス明石(兵庫県明石市大明石町1)1階の居酒屋「酒商いNENRIN」が、見た目や味にこだわった嚥下食のコースを提供している。(領五菜月)

 同店は、高齢者施設などに給食を提供する会社「年輪」(同市大久保町大久保町)が6月に開いた。発案したのは社長の西澤健作さん(44)。給食提供先の高齢者施設などが催す外食ツアーに、通常の食事が難しい人は参加できないことが気にかかっていた。そこで「嚥下が困難な人にも外食を楽しんでほしい」と嚥下食に対応する飲食店を作ろうと決意したという。

 店で調理するメニューのほか、食品会社が作るムース状の魚や野菜などの嚥下食を使い、手作りソースなどでアレンジしたものを提供する。何十食もの嚥下食を社員らで試食し、よりおいしいものを選んだ。

 こだわるのは味だけではない。うなぎのかば焼きは表面をバーナーであぶって焦げ目を付けるなど、元の食材の見た目に少しでも近づけようと工夫を凝らす。

 西澤さんは初めて嚥下食を利用した客が忘れられない。「おじいちゃんの退院祝いにおいしい物を」と高齢夫婦とその子ども、孫らの親戚の集まりだった。

 メニューを決める際は細かな聞き取りが欠かせない。嚥下機能には個人差があり、その人に合った軟らかさ、とろみでないと誤嚥(ごえん)を招く恐れがある。そのため、食べたいものや苦手な食材のほか、普段の食事、病院では何を食べていたのかなど、5回以上聞き取りを重ねて決定したという。

 当日、男性は好物のウナギをじっくり見た後、箸でつまんで口に入れ「おいしい」とにっこり笑ったそう。家ではミキサー食を食べている。「お箸を使って食事ができた」と顔をほころばせ、2週間後の予約をして帰った。

 西澤さんは「外食を諦めていた人たちがたくさん居るはず。家族や友人らと楽しんでもらいたい」と話す。

 嚥下食は2日前までに予約が必要で、コース2500円から。お弁当での提供も可能。午後3~11時(月曜定休)。同店TEL080.7300.2218

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