「アレ」そして「ソレ」!消えない阪神マジック、3桁がついに1桁に 尼崎の商店街、独自理論貫く

いよいよ現実に点灯したマジックナンバーに合わせてカウントダウンが始まった尼崎中央三丁目商店街のオリジナルボードと、寺井利一理事長=尼崎市神田中通3

 2位広島カープとの直接対決3連戦を終え、「アレ(優勝)」に突き進むプロ野球の阪神タイガース。本来は一日に二つまでしか減らないはずの優勝への「マジックナンバー」が一挙に三つ減ったことでもニュースになったが、消えたり不規則に減ったりと難解なカウントダウンに、ファンは一喜一憂の日々を送る。この数字をおそらく球団以上に気にかけているであろう「アノ人たち」も、いよいよ歓喜の瞬間を確信し始めた。

 

■残り全勝理論

 マジックは原則、自力で優勝できる可能性が1チームに絞られた段階で出て、ゼロまで減ると優勝が決まる。

 そのため本来、ある程度試合を消化しないことには計算のしようがないが、「日本一早いマジック点灯式」で知られる兵庫県尼崎市の尼崎中央三丁目商店街では2002年から毎年、まだ順位のない公式戦開幕前からアーケード内に3桁の数字を張り出し、気の遠くなるカウントダウンを続けている。

 かつてはライバル球団の理論上の最大勝ち数から逆算する「一応の計算式」(振興組合の寺井利一理事長)を持ち合わせていたが、今は原則「残り試合数」を表示する。

 というのも、マジックは厳密に算出しようとすると「交流戦を除いたリーグ戦のみの勝率」まで考慮する必要があり、もはや素人の手には負えない。

 ならいっそ、他力は無視。商店街独自のマジックは「残り全勝すれば優勝できる」というシンプルな応援メッセージにほかならない。他球団にマジックがつけば数字を撤去するなど、ライバルチームへの敬意も欠かさずに続けてきた。

 ところが、一部のファンからは批判にさらされた。商店街には当初から、ネット掲示板やメールで「野球を知らんのか」「俺が計算方法を教えてやる」などという苦情が絶えない。阪神が連敗すると、通行人から「あんたらのせいや」となじられることもあった。

 寺井さんは以前、テレビ番組に出演した際、元監督の金本知憲氏に「選手に迷惑やったらやめます」と相談したことがある。本音だったらしいが、金本氏は「応援してもらって励みになってます」と背中を押してくれた。

 

■消えないマジック

 今年もシーズンの全試合数「143」をマジックナンバーとして掲げ、開幕を迎えた。交流戦で苦戦しようが、一時横浜に首位の座を奪われようがお構いなく、アーケードの天井からつるすボードの数字を地道に小さくしてきた。

 8月16日、現実にマジック「29」が点灯すると、残り試合数の38に合わせていた数字を一気に減らした。13日後にリアルのマジックが消滅して全国の虎党が慌てふためく中、同商店街では毅然(きぜん)と消滅前のマジック「21」を表示し続けた。「残り試合数」基準を適用すると数字が逆戻りしてしまうためで、「今まで数字を増やしたことは一度もない」との前例にならい、再点灯を信じて待った。

 一方で、優勝を意識した発言や準備は慎んできた。チームと同様、マジックが7度も点灯と消滅を繰り返してV逸した08年が教訓になっている。当時は優勝セールの印刷物を手配するのが早すぎて結局、「優勝」の部分を切り抜いて使うはめになった。今季は理事会でも暗黙で優勝の話題を避け、セールの会議も先送りにしてきた。

 チームは9月に再加速。猛スピードでマジックが1桁台に減り、「さすがに準備も必要なので」(寺井さん)と、ここだけの話、「優勝セール」と明記した販促ポップは既に作って各店舗に配っているという。優勝が決まれば、翌日午前11時にマジックを「0」に貼り替える記念イベントの開催も決めた。

 まだ岡田彰布監督は「アレ」、OBの藤川球児氏も「ソレ」と表現するにとどまっているところ、先走って大丈夫なんでしょうか-。寺井さんは「いやいや」と手を左右に振って笑う。「誰も『阪神が』とは言ってませんからね」 (井上太郎)

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