終活・相続で「遺言書」を作る前に必ずやらなければならない「推定相続人と財産状況の確認」

終活・相続でどんな準備をすればよいかをネットで調べると、「遺言書」や「家族信託」、「節税対策」に「不動産を活用する」など、たくさんの方法を見つけることができます。

もちろん「遺言書」や「家族信託」、「不動産の活用」は、終活・相続において必要な方法ですが、どれを取り組むにしても、その前に「現状の全体像を把握すること」が大切です。


全体像の把握とは、(1)推定相続人の確認、そして(2)財産状況の確認です。

相続人は「配偶者+血縁関係にある人」

まず、(1)の「推定相続人の確認」は、自分が亡くなったときに財産を引き継ぐことになる相続人が誰になるのかを確認することです。

確認する方法は、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等を本籍地の役所から取り寄せます。そして、法律で定められている相続人が誰なのかを戸籍謄本等を読み込み確認します。

では、誰が相続人になるのでしょうか。それは、「配偶者+血縁関係にある人」になります。

現在、婚姻していれば配偶者は常に相続人です。血族関係にある人には法律上優先順位があり、第1順位:子(子が先に亡くなって孫がいる場合は孫)、第2順位:親(親が亡くなっていて祖父母がいる場合は祖父母等)、第3順位:兄弟姉妹となります。

つまり、配偶者は常に相続人になりますが、配偶者だけが相続人になるのではなく、子・親・兄弟姉妹がいる場合には、このうちの誰かとペアで相続人になるということです。注意点は、第1順位の子がいれば、配偶者と子が相続人になり、第2順位の親や第3順位の兄弟姉妹は相続人にはならないということです。

父・母・子の3人家族の場合で相続人はどうなる?

たとえば、父・母・子の3人家族を例にして説明します。父が亡くなった場合、まず、配偶者である母は相続人です。加えて第1順位の子がいるので相続人は母と子になります。子が先に亡くなっていて孫がいる場合には、母と孫が相続人になります。

父に戸籍上の子や孫が存在しない場合には、母に加えて第2順位の親が相続人です。親が先に亡くなっていて、その親(祖父母等)が健在の場合には、母と父の祖父母等が相続人になります。

父に戸籍上の親や祖父母が存在しない場合には、母に加えて第3順位の兄弟姉妹が相続人です。兄弟姉妹が先に亡くなっていて甥姪がいる場合には、母と父の甥姪が相続人になります。

なお、この戸籍上の兄弟姉妹が存在しない場合にはじめて配偶者である母ひとりが相続人になります。

戸籍謄本を生前に集めておくことで負担を減らすことができる

相続関係を確認するためには、戸籍謄本等を確認していく必要があります。なぜなら、把握していない相続人がいる可能性もあるからです。

子に関しては、現在の夫婦間の子だけではなく、離婚歴があり、前配偶者との間に子がいる場合も相続人になります。親権は前配偶者にあり、長年会っていない子も含まれます。同じ戸籍内に記載がなくても戸籍上の親子関係は変わらないため、再婚した最新の戸籍謄本だけではわからないのです。相続が発生した後で、相続人が知らなかった子の存在を知ることもあり戸惑う相続人を見てきました。認知している子がいることもあります。

生前に相続人の確認をしておくことで、誰が相続人になるのかが分かります。これにより、遺言書の必要性が明確になるだけでなく、どのような内容の遺言書を作成すればよいか検討することができます。

また、戸籍謄本は相続手続きをする際、最初に必ず必要となります。出生から現在までの戸籍謄本を取得していくと、除籍や改製原戸籍といった名称の戸籍が取得できます。この除籍や改製原戸籍は、一度取得しておくと有効期限に関係なく使用できます。万が一のとき、相続手続時に家族の負担を減らすこともできます。

どこにどんな財産があるか把握する

次に、(2)の財産状況の確認は、今ある財産の棚卸です。

財産とは、主に不動産、有価証券、預貯金等です。ご自身であれば頭の中にあれとこれといったように所有している不動産や取引のある銀行を思い浮かべることができますが、いまもし不慮の事故等で万が一のことがあった場合、その財産の内容を誰かご存じでしょうか。相続が発生した際に一番困るのは「どこに」「何があるか」を相続人が把握していないことです。なぜなら、今の日本にはこれを調べる制度がないからです。

不動産の見落としに注意!放置で手がつけられなくなることも

不動産であれば毎年春に固定資産税の納税通知書が届きます。その通知書でおよそ所有している不動産を把握することができますが、納税通知書は課税されている不動産の記載はあっても、課税されていない不動産は記載されていないことがあります。すると相続発生時に見落とされ、名義変更がされないまま放置されることにもなりかねません。

2024年から「相続登記の申請義務化」が始まります。これにより、相続により不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなります。正当な理由なく申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が課されることがあります。

もうすでに先代の名義のまま登記が残っていて相続人が複数にわたり手が付けられなくなっている不動産もありますが、まずは所有している不動産がどのような状況なのか知っておくことから始めてみましょう。このように所有不動産の存在を知っておくことと、現状のまま次の世代へスムーズに引き継いでいけるかどうかの確認をすることはとても大事なことです。

有価証券と預貯金は金融機関がわかるように

有価証券、預貯金に関しては、残高より、どの金融機関に何があるのかを分かるようにしておくことが必要です。特にネット証券やネット銀行との取引がある場合、手がかりを見つけることは非常に難しく、見つけられない可能性もあります。IDやパスワードを誰かに預けておくことができれば安心ですが、家族に生きているうちからすべてを知らせることを躊躇する方もいらっしゃいます。エンディングノートに書き記しておく、信頼できる相続コンサルタントや専門士業へ情報を預けておくことなども視野に入れ、残された家族に負担がかからないようにする準備はいくらでも考えられます。

なお、大事なものだからといって銀行の貸金庫に入れることはくれぐれも避けてください。名義人が亡くなった後は、相続手続きが整わないと貸金庫を開扉することができません。相続人全員が協力して手続きをすることができれば問題ありませんが、相続手続きがスムーズに進まないと、貸金庫を開けることができなくなる可能性もあります。

財産の確認では、保険証券の見直しもぜひ行ってください。加入してから見直しをしていない方も多く、保険金の受取人がすでに亡くなっていたり、離婚した前夫、前妻ということも少なくありません。

現状が把握できれば必要な方法がわかる

推定相続人の確認で、誰が相続することになるのか、また財産の状況が把握できれば「遺言書」や「家族信託」「不動産の活用」といった方法のうち、本当に必要な方法は何かを検討することができます。この検討をご自身で行うことは様々な専門知識も必要ですので難しいかもしれませんので、終活・相続の専門家に相談して進めることをお勧めします。

今、終活・相続の情報はネット上にたくさん出回っており、多くシェアされている情報にはつい飛びついてしまいたくなることもあるでしょう。しかし、どんな相続でも、まずやるべきことは、「相続人になる人の確認」「相続人同士の関係性を知ること」「財産状況の把握」です。そのうえで、引き継いできた大切な財産を、スムーズに次世代へ移転できるような方法を考えていくことが大切なのではないでしょうか。

行政書士・相続診断士・終活カウンセラー 藤井利江子

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